第4回 過去から未来につなぐ96冊――「おきなわ文庫」を蘇らせたい(前編)

第4回 過去から未来につなぐ96冊――「おきなわ文庫」を蘇らせたい(前編)
2013年01月09日
TEXT:佐藤 勝(株式会社フレア)

※本記事は連載「電子出版で地域を救う! 沖縄県産本を日本全国、そして世界へ」の第4回記事になります。

ほぼ絶版状態だが、今も生命力をはなつシリーズ
沖縄県産本のなかには、沖縄の歴史や文化などを掘り下げ、沖縄への関心をさらに深めることができる本も少なくない。全96冊の「おきなわ文庫」は、まさにそのようなテーマが詰まったシリーズであるにもかかわらず、絶滅の危機に瀕していた作品群だった。

1982年5月15日(沖縄本土復帰記念日)に発刊された「おきなわ文庫」は、沖縄の近代史、沖縄戦の実態、現代の基地問題、舞踊、空手、美術などの文化、産業・経済など、さまざまな切り口から沖縄を知り、考えるという趣旨で、沖縄の文化界、学術界などで活躍する第一線の執筆者たちによって書かれた文庫シリーズだ。株式会社南西印刷の出版部門から81冊が刊行されたのち同社は閉業してしまったが、社内で「おきなわ文庫」の発行をほぼひとりで担っていた富川益郎氏が、事業を継続するために関係者の協力を得ながら「ひるぎ社」を立ち上げて15冊を刊行した。

しかし、2001年に事情により刊行を停止。以後10年あまり「おきなわ文庫」は事実上絶版状態となり、残った一部の在庫が那覇空港などの土産店で並ぶのみとなっていた。

その「おきなわ文庫」を電子書籍で復刊させたのが、北海道出身の秋山夏樹さんだ。秋山さんは1979年生まれ。出版社の経理担当、あるいは営業担当として働いたのち、沖縄で広告デザイン制作や電子書籍のコンテンツ開発を手がける「沖縄スーパーコンテンツ」のスタッフとして2011年秋に沖縄にやってきて、「おきなわ文庫」に出合った。

96冊分の著者を探し出し、電子書籍化を説得
那覇空港の書店でわずかに残っていた「おきなわ文庫」を偶然手にした秋山さんは、その奥行きのある内容に心を揺さぶられた。同時に、このシリーズが残りわずかで、いずれ時の流れとともに失われていく状況にあることを知った。

「10年以上前に停刊したにもかかわらず、今なお生命力を放っている、沖縄と日本を知るためのガイドブックだと感動しました。この貴重な『おきなわ文庫』を電子書籍で次の世代に残し、県外の人たちにも広く知ってもらいたいと思ったんです」

秋山さんはそんな強い思いから、たったひとりで「株式会社おきなわ文庫」を設立し、「おきなわ文庫」の電子書籍化に立ち上がった。電子書籍化にあたって著作権をもつ著者の了解を得る必要があったが、数十人もの著者の連絡先も所在もわからない状況からのスタートだった。

出版社時代に全国各地の書店を訪ね歩いてきた持ち前のバイタリティを生かして、探偵のように連絡先を調べ、粘り強く一軒一軒訪ね歩き、著者に電子出版の仕組みと著書の電子化の意義を説明した。すでに故人となった著者もおり、墓前に線香を上げることもあったという。

■おきなわ文庫
URL:http://okinawa-bunko.com/


沖縄の歴史、文化、沖縄と諸外国との関係など、さまざまなテーマで書かれた「おきなわ文庫」。秋山さんがこれらの本に出会った時は、すでに絶版同然の状態だった。


電子書籍化され、ソニーReaderで閲覧可能となった「おきなわ文庫」の一冊、『おきなわ歴史物語』(高良倉吉 著)。近世の古文書に記録された名もなき人々の歴史を掘り起こし、沖縄の歴史のはざまに生きた先人たちの足跡や表情を明らかにしている。


ほぼ毎月追加されている、電子書籍版「おきなわ文庫」のラインアップ(おきなわ文庫Webサイトから)。版画家・名嘉睦稔(なかぼくねん)氏による表紙画もそのまま再現している。


お話を伺った、秋山夏樹さん。「おきなわ文庫」復刊のためにみずから会社を設立し、電子出版に奮闘している。




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[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
1975年大阪生まれ。2002年から中国関係の団体で中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年『eBookジャーナル』(株式会社マイナビ)創刊号から2012年の第7号まで、電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材。電子出版を活かした地域再生に関する取材も継続。その他、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などを編集しています。株式会社フレア(http://www.flair.co.jp/)所属。

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