第5回 過去から未来につなぐ96冊――「おきなわ文庫」を蘇らせたい(後編)

第5回 過去から未来につなぐ96冊――「おきなわ文庫」を蘇らせたい(後編)
2013年01月16日
TEXT:佐藤 勝(株式会社フレア)

※本記事は連載「電子出版で地域を救う! 沖縄県産本を日本全国、そして世界へ」の第5回記事になります。

たったひとりの熱意と努力で、電子書籍化が実現
「著者の先生たちの思いを、眠らせたままにしたくない」――「おきなわ文庫」復刊にかける秋山さんの熱意は執筆者や関係者にじわじわと伝わり、協力を申し出る執筆者も次第に増えていった。同シリーズで『おきなわ歴史物語』『「沖縄」批判序説』などを著している琉球大学・高良倉吉教授も、電子版刊行の相談役として秋山さんをサポートした。

たったひとりから始まった奮闘だったが、「おきなわ文庫」大部分の著作について電子書籍化の許諾が得られ、2012年3月から電子書籍流通プラットフォームの「ブックリスタ」(http://www.booklista.co.jp/)が配信元となり、ソニーの電子書籍ストア「Reader Store」(http://ebookstore.sony.jp/)で販売されることが決まった。

折しも、秋山さんが所属していた沖縄スーパーコンテンツ株式会社と株式会社ブックリスタ、ソニー株式会社との間の提携協議が進むなかで、コンテンツ開発の相談に乗っていたブックリスタとソニーの担当者も「おきなわ文庫」復刊の意義を高く評価。電子書籍の配信のみならず、技術供与やPRなど、さまざまな形で協力することになった。

電子版の制作を担うのは「沖縄eBooks」の株式会社近代美術だ。残り少ない「おきなわ文庫」の在庫を断裁・スキャンし、入念な校正作業を経て、XMDFなどの電子書籍フォーマットに変換し、ブックリスタに納品する。こうして、「おきなわ文庫」は全国各地に利用者がいる読書専用端末「Reader」のストアに登場した。沖縄県産本の県外進出という意味においても大きな一歩となった。

将来は紙版の復刊につなげていきたい
「おきなわ文庫」電子書籍版は2012年3月に「おきなわ歴史物語」「沖縄の子どもたち─小児科医のカルテより─」「島の未来史」の3タイトルが発売されたのを皮切りに、ほぼ毎月ラインアップを追加。2012年12月末時点で65冊が、Readerストアで販売されている。同年6月末にはauの携帯電話やスマートフォン、読書専用端末などで利用できる「LISMO Book Store」でも「おきなわ文庫」の配信がはじまった。2013年中には電子書籍版の全ラインアップが揃う予定だ。

それぞれの電子版には、新たに著者に書き下ろしてもらった「復刊に寄せて」の文章が追加され(著者が故人の場合は関係者による追悼文を掲載)、今の時代の読者に向けて、その本をどのような視点で読めばよいかを指し示してくれる。この点が、電子書籍版ならではの付加価値となっている。

沖縄の本土復帰40周年の5日後である2012年5月20日。「おきなわ文庫復刊祝賀会」が那覇市内のホテルで開催された。高良教授ら執筆者約30人と、電子書籍化を支える関係者が一堂に会し、互いに復刊を喜び合い、親交を深める場となった。

だが、秋山さんの奮闘はまだはじまったばかりだ。電子書籍版の刊行は順調に進んでいるが、ビジネスとして独り立ちするにはまだ道半ばといったところ。それでも、秋山さんは責任をもって「おきなわ文庫」を引き継いでいく決意だ。

「はじめたときはたったひとりだったけれど、今は著者の先生方や関係者など、多くの人が応援してくれるので、とても心強いです。まず電子書籍版を大きく広げていきますが、いつかは紙版の書籍も復刊させて、全国各地の書店に並ぶようにするのが夢です」と秋山さんは抱負を語る。「おきなわ文庫」に集った執筆者たちの思いは、電子出版の新しい風とともに若い世代へと受け継がれつつある。

■おきなわ文庫
URL:http://okinawa-bunko.com/

■Reader Store
URL:http://ebookstore.sony.jp/

■株式会社ブックリスタ
URL:http://www.booklista.co.jp/


Readerストアに並んだ「おきなわ文庫」シリーズ。電子書籍化に伴い、それぞれの巻末に著者書き下ろしのあとがきが追加されている。


電子書籍化のため近代美術に持ち込まれた「おきなわ文庫」のバックナンバー。断裁、スキャン後OCRにかけ、入念な校正を行って電子書籍データを作成していく。


「おきなわ文庫」の新たな出発を記念して開かれた「おきなわ文庫復刊祝賀会」(2012年5月20日)。シリーズの執筆者たちと電子書籍化に携わる関係者が交流を深めた。




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[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
1975年大阪生まれ。2002年から中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年から『eBookジャーナル』(株式会社マイナビ)で電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材するほか、電子出版を活かした地域再生の動きを独自に取材。その他、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などの編集をしています。株式会社フレア(http://www.flair.co.jp/)所属。
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