第6回 魅力的な本を発掘し、電子出版を盛り上げたい――ブックリスタ、ソニーによる配信協力(前編)

第6回 魅力的な本を発掘し、電子出版を盛り上げたい――ブックリスタ、ソニーによる配信協力(前編)
2013年01月23日
TEXT:佐藤 勝(株式会社フレア)

※本記事は連載「電子出版で地域を救う! 沖縄県産本を日本全国、そして世界へ」の第6回記事になります。

沖縄県産本の魅力に「全国の読者もきっと読みたいはず」
『おきなわ文庫』が2012年3月からソニー株式会社の電子書店「Reader Store」に登場し、沖縄県産本が全国の読者に届く可能性が大きく広がった。この配信の実現には、Reader Storeを中心とした電子書籍事業を展開するソニーと、電子書籍の配信プラットフォームをReader Storeに提供している株式会社ブックリスタが協力している。ソニーで電子書籍事業の企画・プロデュースを担当する野村秀樹さんと、ブックリスタで電子書籍のマーケティングを担当する佐久間博さんにお話を伺った。

野村さんと佐久間さんが沖縄県産本に出会ったのは2011年夏、「沖縄eBooks」を運営する株式会社近代美術の榎本伸司さんから電子書籍のオーサリング技術に関する相談を受けたことがきっかけだった。

「榎本さんに『OKINAWA100シリーズ』を見せてもらったのですが、企画内容はもちろん、デザイン表現にもすぐれた本で、まず自分が読みたいし、沖縄県外にいる人もきっと読みたいだろうと感じました」と、野村さんは当時の新鮮な驚きを振り返る。

佐久間さんは、「おきなわ文庫復刊のためにみずから会社をつくった秋山さんの思いに深く共感しました。電子書籍ならある程度現実的な予算で再び世に出せるし、在庫を抱えなくていいというメリットもある。沖縄だけでなく日本全体についても見聞を広めることができるシリーズですし、貴重な書籍を後世に残すという意味でも、ぜひ一緒に出したいと思いました」

野村さんと佐久間さんは、榎本さんや秋山さんら沖縄の関係者と協議し、電子書籍データ制作の技術サポート、配信開始後の宣伝活動など、さまざまな協力を行うことになった。また、2011年秋には榎本さんらとともに沖縄県庁の関係者に会い、電子出版をめぐる業界の動きなどについて情報を提供。県庁観光課との連携で、観光振興を視野に入れた企画も動き出した。

現地の思いを受け止めたうえで、一緒にいい本を出したい
2012年3月23日、ブックリスタとソニー、近代美術、沖縄スーパーコンテンツ株式会社など沖縄の電子出版関連企業が那覇市内で共同記者会見を開き、沖縄で企画・制作された電子書籍をReader Storeから配信すると発表。おきなわ文庫のほか、県内の注目スポットやお土産を紹介する雑誌『おきなわいちば』(光文堂コミュニケーションズ発行)が3月に、OKINAWA 100シリーズが4月から配信を開始した。

また、観光振興の動きと連携した企画も実現。沖縄の伝統野菜「クヮンソウ」の解説本『快眠!美容!クヮンソウ主義』(江口直美著)が4月末に、離島の伊是名島の魅力を島民自身が紹介する『沖縄離島39 伊是名島』(ともに、沖縄スーパーコンテンツ発行)が6月にReader Storeに登場した。同月末から、auのスマートフォンなどで利用できる「ブックパス(旧称:LISMO Book Store)」でもおきなわ文庫やOKINAWA 100シリーズなどの販売が順次スタートしている。

「魅力的なコンテンツを掘り起こし、制作に携わられた方々の思いをしっかり受け止めたうえで、一緒にいいものをつくっていくお手伝いをしたい。地域にいい本があると気づいて下さる人が増えれば、地元の出版界がきっと盛り上がるし、地域の活性化にもつながればうれしいですね」と野村さんは話す。

日本国内で次々と電子書籍ストアや購読サービスが立ち上がっているなか、ブックリスタが取り扱う沖縄県産本は独自性をもつ有力コンテンツになりつつある。次回は、電子書籍事業に取り組むそれぞれの立場から、野村さん、佐久間さんの思いを聞かせていただく。


■ブックリスタ(http://www.booklista.co.jp/
ソニー株式会社、KDDI株式会社、凸版印刷株式会社、株式会社朝日新聞社の4社によって2010年7月に設立。出版社へのコンテンツ電子書籍化支援や、電子書籍ストアへのコンテンツ取次を行うほか、出版社などと共同で電子書籍オリジナルのコンテンツを開発し、ストアの本棚づくりを支援するなど、出版社と電子書籍ストアを橋渡しする役割を担う。

■Reader Store(http://ebookstore.sony.jp/
日本では2010年12月にオープン。同社の読書専用端末「Reader」のほか、Android搭載のスマートフォン・タブレット、PlayStation Vitaなどで利用できる。文芸書、実用書、ビジネス書、観光ガイド、コミックなど幅広いジャンルのコンテンツを約7万9000冊(2013年1月時点、無料本・記事を除く)揃え、同ストアオリジナルのコンテンツも販売。


ブックリスタが取り扱い、Reader Storeで購入できる『おきなわいちば』『おきなわ文庫』『OKINAWA 100シリーズ』(左から)。続々とラインナップが追加されている(表示させた端末は左から「Sony Tablet」「Reader」「Xperia」)。


沖縄県今帰仁村で生産され、新たな観光資源としても注目を集める伝統野菜の解説本『快眠!美容!クヮンソウ主義』。紙版の書籍は県内コンビニエンスストアなどで発売され、県外へは電子書籍で発信。


住民みずからが、島の魅力を発信するガイドブック『沖縄離島39 伊是名島』。自然、歴史、文化、イベント、宿泊、食事など30のテーマで伊是名島の魅力を紹介。紙版の書籍とあわせて企画された。




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[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
1975年大阪生まれ。2002年から中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年から『eBookジャーナル』(株式会社マイナビ)で電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材するほか、電子出版を活かした地域再生の動きを独自に取材。その他、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などの編集をしています。株式会社フレア(http://www.flair.co.jp/)所属。
■Facebook:http://www.facebook.com/masaru.zuoteng

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