第8回 全都道府県に「ebooks」を――地域の魅力をみずから掘り起こす「miyazaki ebooks」(前編)

第8回 全都道府県に「ebooks」を――地域の魅力をみずから掘り起こす「miyazaki ebooks」(前編)
2013年02月06日
TEXT:佐藤 勝(株式会社フレア)

※本記事は連載「電子出版で地域を救う! 沖縄県産本を日本全国、そして世界へ」の第8回記事になります。

沖縄県産本を電子書籍の形で発信する「沖縄eBooks」に触発され、2012年4月に「miyazaki ebooks」がオープンした。宮崎県の電子書籍が閲覧できるポータルサイトとして、コンテンツ拡充させながら成長を続けている。

ひとまず沖縄を離れるが、今回からmiyazaki ebooksの取り組みとその狙いを前後編2回にわたって明らかにし、本連載の大きな課題でもある「地域再生×電子出版」の可能性を考えてみたい。

まずは充実する自治体刊行物を電子書籍に
miyazaki ebooksの運営は、宮崎市を拠点とする株式会社宮崎南印刷の社内で組織された実行委員会が担っている。委員会メンバーでmiyazaki ebooksを発案したひとりである、松浦周一郎さんにお話をうかがった。

「沖縄eBooksのすばらしい取り組みに感銘を受け、自分たちもこういうのをやってみたい! と強く思いました。宮崎には、沖縄のような独特の文化や歴史があるわけではないけれど、県や市町村などが発行する観光やグルメ、イベントといった情報冊子はじつに豊富です。でも、紙の冊子は発行部数に限りがあって、それらの情報が手に入らない人もたくさんいます。そこで、県内の情報冊子を電子書籍で読める宮崎に特化したポータルサイトをつくることで、観光客はもちろん地元の人にとっても情報を得やすく、また宮崎の良さも再発見してもらえるのではと考えました」

miyazaki ebooksのコンテンツは、2013年2月1日時点で約500冊をラインアップ。宮崎県の各市町村の生活に関わる広報誌やタウン誌、観光、グルメ情報など、有益なローカル情報を集約するWebサイトとして機能している。

さらに、松浦さんらが独自に取材・編集し、宮崎県の山の魅力を発信する登山誌『yo-ho』(ヤッホー)など、オリジナルコンテンツも順次掲載。ほかにも、掲載中の電子書籍の誌面をランダムに表示する「てげてげ(適当)検索」機能など、ポータルサイトの魅力をさらに高めている点が「miyazaki ebooks」の大きな特徴だ。

「生き物のようにしっかりと手をかけて、コンテンツをつねに刷新していかないと、それがアクセス数の増減にすぐ表れてきます。Webサイトを訪れる人の検索ワードを分析して、訪問者の興味を引くようなコーナーをつくったりしていますし、yo-hoも山登りが好きな女性スタッフらと一緒に自分たちでつくっています。読者を惹きつける、魅力的なコンテンツを出して行きたいですね」

地域でつながりを広げる「場」としても活用
「miyazaki ebooks」への冊子の掲載は、県・市町村自治体は無料、一般の企業・団体は有料としているが、閲覧はすべて無料であり、どのように収益を生み出していくのかが気になるところだ。

「電子書籍を販売して収益を上げるということは最初から考えていません。その代わり、「宮崎の電子書籍といえばmiyazaki ebooksだ」と言われるくらいに成長させようと思っています。広報誌や冊子を掲載いただいている自治体や企業の担当者様には、ふだんからこまめに連絡してていねいに対応するように意識しているのですが、それがやがて電子書籍だけでなくほかの仕事の受注につながるケースが増えています。miyazaki ebooksは、私たち自身が地域でつながりを広げていく『場』にもなっているのです」

松浦さんたちは2012年秋に、ある町の自治体が発行した50年ぶんの広報誌を電子書籍アーカイブにするという大口の受注も獲得している。こうした努力によってmiyazaki ebooksの運営を継続し、コンテンツの拡充に力を入れることができるというわけだ。

だが、このプロジェクトの目指すところには、印刷会社としてのビジネスにとどまらない理念がある。後編ではmiyazaki ebooksの先にある構想について、松浦さんのお話をうかがっていく。


■miyazaki ebooks
http://www.miyazaki-ebooks.jp/


「miyazaki ebooks」のポータルサイト。PCブラウザやスマートフォン・タブレット端末専用の無料アプリ(iPhone/iPad、Android端末に対応)を使い、無料で閲覧できる。入会手続きも不要だ。


社団法人宮崎市観光協会発行の「宮崎たべてん!」2013年春号。プロ野球の春季キャンプの情報のほか、宮崎市内のスポーツ、観光、グルメ情報が充実。


電子書籍・Web限定のオリジナルコンテンツ「yo-ho」は登山好きのスタッフと一緒に制作。好きなことを形にできるので、スタッフのモチベーションも高まるという。(画像は特設サイト)




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[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
株式会社フレア(http://www.flair.co.jp/)所属。
1975年大阪生まれ。2002年から中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年から『eBookジャーナル』(株式会社マイナビ)で電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材するほか、電子出版を活かした地域再生の動きを独自に取材。その他、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などの編集をしています。
■Facebook:http://www.facebook.com/masaru.zuoteng

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