第9回 全都道府県に「ebooks」を――地域の魅力をみずから掘り起こす「miyazaki ebooks」(後編)

第9回 全都道府県に「ebooks」を――地域の魅力をみずから掘り起こす「miyazaki ebooks」(後編)
2013年02月13日
TEXT:佐藤 勝(株式会社フレア)

※本記事は連載「電子出版で地域を救う! 沖縄県産本を日本全国、そして世界へ」の第9回記事になります。

宮崎県内の情報冊子を集めて電子書籍で発信する「miyazaki ebooks」には、印刷会社としての新事業という位置づけにとどまらず、地域の発展に前向きな風を起こそうという熱意が込められている。前回に引き続き、株式会社宮崎南印刷の松浦周一郎さんにお話を伺った。

地元の自分たちこそ情報を発信しなければ
現在、miyazaki ebooksは松浦さんをチームリーダーに、デザイナー、システムエンジニア、営業担当など6人で運営にあたっている。各自、担当しているレギュラーの業務と掛け持ちしているため、日々の仕事はハードになりがちだが、それでも「やっていて楽しい」と彼らはいう。そこまでしてmiyazaki ebooksにかける熱意はどこから来るのだろうか。

「実は私たちも、観光ガイドを出している東京の会社からお仕事をいただいて、依頼のあったスポットやお店などの記事を作成していますし、大手の広告代理店や印刷会社などが宮崎の自治体と一緒に地域活性化で大規模なプロジェクトを実施するケースも年々増えています。でも、『そもそも地元にいる自分たちがなにも発信できなくて、それでいいのだろうか?』という思いがありました」

県外の大手企業が主導する地域活性化に、どこか悔しい思いを抱えていたからこそ、松浦さんは「自分たちの手で地元の情報を掘り起こして発信しなければ」と強く思うようになったという。

「今は自分たちが率先して、宮崎の魅力を発信しているんだ、という誇りをもっているからがんばれるんです。もちろん、デザインなどのじょうずな見せ方やおもしろい企画なども必要とされますから、私たちももっと勉強しなければなりません。このような新しい事業は、義務やノルマといったものではなくて、自分たちがやる気になって盛り上がる必要があるし、人手や手間もかかる。なによりまず、情熱をかける必要があるんだと思います」と松浦さんは強調する。

各地の「ebooks」が集まるサークル「japan ebooks」
miyazaki ebooksは2012年4月のオープン以来、九州全県はもちろん、日本全国の印刷会社などから問い合わせがあり、業界で大きな注目を集めている。松浦さんらはその反応に手応えを感じ、地域に特化した電子書籍ポータルサイトが集うサークル「japan ebooks」を構想。全国各地の印刷会社を対象に、それぞれの地域で「ebooks」を立ち上げることを呼びかけている。

「地元の人たちが地元のためにebooksに取り組んで、その地域のスタンダードになっていってほしいんです。全国に自分たちのビジネスを広げるという目的はないし、私たちのような規模の会社では、県内だけで手がいっぱい。でも、必要があれば、ビジネスモデルやノウハウの共有からシステムの構築まで、ご協力やアドバイスもします」

実は、松浦さんらは全都道府県をカバーする「◯◯-ebooks.jp」というドメインをすでに確保し、サークルに加入した印刷会社に公式ドメインとして提供する用意があるという。
「ドメインも、ライセンス料を取って儲けようといったことは考えていません。サークルはあくまでオープンな場所で、コンテンツや情報、ノウハウなどを共有して、お互いの質を高め合うような場にしたい。◯◯県のことを知りたいのなら、◯◯ebooksだ、と言われるようなポータルサイトが全国に広がって、それぞれがきちんと継続できる形になれば、きっと全国各地の情報がもっと充実した形で流通し、結果として自分たちのような印刷会社全体の経営も良くなると思うんです」

miyazaki ebooksが宮崎県の情報発信を担う立ち位置を築きつつあることは注目に値するが、宮崎にとどまらず、日本全国にebooksの設立を呼びかけたことは、さらに強い刺激を各地域の関係者に与えていることだろう。2013年2月1日にはmiyazaki ebooksのサポートを受けつつ、香川県で「kagawa ebooks」がプレオープンしたのに続き、奈良県でも2月中のプレオープンを目指して準備が進んでいる。

japan ebooksは現状ではまだ3県の加盟だが、その構想は「自分たちの手で地域を元気にしたい」という各地に共通の思いを引き寄せる魅力にあふれているといえるだろう。


■miyazaki ebooks
http://www.miyazaki-ebooks.jp/


宮崎県特産の肉のグルメを特集する「Jajaみやざき肉の四天王号」(発行:宮崎県)。地域の印刷物には、地元発ならではの魅力的な情報が詰まっている。


松浦さんらが発行する「miyazaki ebooks新聞」でも、japan ebooksへの参加を呼びかけている。


お話を伺った、宮崎南印刷の松浦周一郎さん。




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[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
株式会社フレア(http://www.flair.co.jp/)所属。
1975年大阪生まれ。2002年から中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年から『eBookジャーナル』(株式会社マイナビ)で電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材するほか、電子出版を活かした地域再生の動きを独自に取材。その他、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などの編集をしています。
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