第10回 沖縄を中心に新たな電子出版の基盤づくりを目指す「Book Toaster」

第10回 沖縄を中心に新たな電子出版の基盤づくりを目指す「Book Toaster」
2013年02月20日
TEXT:佐藤 勝(株式会社フレア)

※本記事は連載「電子出版で地域を救う! 沖縄県産本を日本全国、そして世界へ」の第10回記事になります。

前回までは沖縄での電子出版に触発され、宮崎ではじまった「miyazaki ebooks」について紹介してきたが、再び視点を沖縄に戻し、いま進行中の新しい動きに目を向けてみたい。

EPUB3形式などで幅広いルートへ電子書籍を配信
電子書籍ポータルサイト「沖縄eBooks」や、「Reader Store」への「おきなわ文庫」などの配信などに続く、新たな取り組みが沖縄ではじまっている。株式会社Nansei、有限会社アンテナ、株式会社近代美術の3社が共同で立ち上げる「Book Toaster」だ。

Book Toasterは、出版社や個人が自分の名前で電子書籍ストアをもつことができる汎用プラットフォームだ。印刷向けデザインデータを流用できるPDF形式はもちろん、新たな国際標準になりつつあるEPUB3フォーマットにも対応し、利用者が各種データからEPUB3の電子書籍データに変換できるツールも提供。3月のオープンを目指して準備が進められている。

ビジネスモデルとしては、株式会社キングジムが運営する「wook」(http://wook.jp/)に近いといえるが、Book Toasterは「Kindleストア」(Amazon.co.jp)や「kobo イーブックストア」(楽天株式会社)のほか、海外への販売ルートも紹介していくという。Nanseiで電子出版事業を推進し、Book Toaster立ち上げの中心となって奮闘している沖田民行さんにお話を伺った。

地方や個人でも、幅広い対象に向けた出版が可能に
「地方や出版・新聞・雑誌などの関係者さらには個人の方々が、気軽に電子出版に取り組めるプラットフォームにしたいのです。大手の出版社や書店に乗り入れることで、電子書籍の制作を担う受け皿にもなれればと考えていますし、多言語に対応した汎用性の高いシステムなので、インディーズレベルでも相互翻訳出版ができればと思います」

大まかな役割分担としては、プラットフォームの企画維持運営をNanseiが、オフィシャル総合書店の運営を近代美術が、翻訳と外国語書籍の販売をアンテナがそれぞれ担う形で検討している。Amazon.co.jpや楽天の電子書籍ストアへの取り次ぎは、同様の業務で実績のある株式会社クリーク・アンド・リバー社が協力。公益財団法人沖縄県産業振興公社の「平成24年度中小企業課題解決・地域連携プロジェクト推進事業」にも認定され、助成金などの支援を得て事業化された。

「現状の電子書籍市場の動向から、Kindleストアなどでの安定的な販売は必要と感じていました。また、翻訳出版の可能性も強く感じていて、海外の沖縄県人会などを対象に電子書籍需要のアンケート調査も実施しています。それぞれの会社のもつ長所をもち寄れば、より強固なサービスにできるはずです。みんなで力を合わせて継続できる事業に育てていきたいので、公的支援が受けられるのはほんとうに心強いですね」

大手と競うのではなく、協力者を募りたい
沖田さんたちは、2013年2月21日に沖縄県宜野湾市内で電子出版に関するシンポジウムを企画。「ダ・ヴィンチ電子ナビ」編集長の後藤久志氏、クリーク・アンド・リバー社執行役員の石丸修氏をはじめ、本土や沖縄の各界から多彩なゲストを招いた大規模なイベントで、本土の電子出版関係者との交流を深めつつ、沖縄県内の出版関係者や著者などにBook Toasterへの参加を働きかける重要な機会とも位置づけている。

「プラットフォーム自体は十分な競争力をもっていると思いますが、本土の大手出版社や書店と競争するのではなく、むしろ協力者を広く募っていきたい。出版業界は非常に幅広くて、一般書籍から研究書、教育図書、業界図書、各種マニュアル、新聞、雑誌、広報誌、電子図書館など、さまざまな展開がありえます。まずは出版に関わるニッチな場所を開拓できたらいいなと思っています」

Book Toasterは、沖縄県産本の発信に特化せず、日本や海外の幅広い企業・団体・個人を対象に、電子書籍をつくって流通させる「場」を提供するものだが、大手電子書籍ストアへの電子書籍配信や電子書籍での翻訳出版など、個人や小規模な出版社が自力で実現するのが難しい部分もサポートすることで、沖縄県産本を県外に発信していく取り組みを大きく後押しすることになるだろう。

沖縄を拠点とするBook Toasterが、幅広いコンテンツの行き交う「場」として活性化していけば、魅力的な沖縄県産本の電子書籍が次々とつくられ、新たな雇用も生み出すといった動きにもつながっていくに違いない。


2013年3月にオープンを予定している「Book Toaster」は、電子書籍の制作、流通、ストア構築などをサポートし、iPhone/iPad、PC、Kindleなど、幅広い閲覧環境に対応するプラットフォームになる。


宜野湾市内で2013年2月21日に開催するシンポジウム「電子書籍・電子新聞の現在と未来」。


お話を伺った、株式会社Nansei メディア事業部部長の沖田民行さん。




【お知らせ】MdN Design Interactiveのコラムも読める無料iPhoneアプリ「MdN News Reader」を公開しました、ぜひご利用ください。
MdN News Reader
URL:http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/17571/


■著者の最近の記事
第9回 全都道府県に「ebooks」を――地域の魅力をみずから掘り起こす「miyazaki ebooks」(後編)
第8回 全都道府県に「ebooks」を――地域の魅力をみずから掘り起こす「miyazaki ebooks」(前編)
第7回 魅力的な本を発掘し、電子出版を盛り上げたい――ブックリスタ、ソニーによる配信協力(後編)
第6回 魅力的な本を発掘し、電子出版を盛り上げたい――ブックリスタ、ソニーによる配信協力(前編)
第5回 過去から未来につなぐ96冊――「おきなわ文庫」を蘇らせたい(後編)
第4回 過去から未来につなぐ96冊――「おきなわ文庫」を蘇らせたい(前編)
第3回 電子出版を「雇用創出」の一助に――南風原町の人材育成事業
第2回 沖縄の文化を電子書籍で発信したい――「沖縄eBooks」(後編)
第1回 沖縄の文化を電子書籍で発信したい――「沖縄eBooks」(前編)





[筆者プロフィール]
佐藤勝(さとう・まさる)
株式会社フレア(http://www.flair.co.jp/)所属。
1975年大阪生まれ。2002年から中国社会や日中関係の取材に約8年携わり、2010年から『eBookジャーナル』(株式会社マイナビ)で電子出版ビジネスの動向や電子書籍の制作などを取材するほか、電子出版を活かした地域再生の動きを独自に取材。その他、グラフィックデザイン関連の雑誌・書籍などの編集をしています。
■Facebook:http://www.facebook.com/masaru.zuoteng

MdN DIのトップぺージ