iPhone5S登場前夜祭(前編):iPhoneとはいったいなんなのかを再検証する

iPhone5S登場前夜祭(前編):iPhoneとはいったいなんなのかを再検証する
2013年09月02日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

世界中をみればAndroid陣営の勢いが高まっているものの、いまだに日本国内はiPhoneが圧倒的な人気だ。日本上陸当初にはあれだけアンチiPhone、アンチスマートフォンのムードが高かったことを考えると、非常に感慨深い。

一部の噂では、最新作のiPhone5が2013年9月10日(米国時間)に発表されるというが、多少の誤差がありこそすれ、今月中にAppleがなんらかの新作を公開するのはまちがいなかろう。そこで、今回から実際にiPhone5S(と、もうひとつ噂が囁かれている安価版のiPhone5C)の登場まで、iPhoneというスマートフォンが、我々の生活をどう変えてきたのかを振り返ってまとめてみようと思う。今回はその第1回目をお送りする。

僕は、iPhone以前とiPhone以降で、スマートフォンの定義と性格が大きく変わったと考えている。もっとも大きな差異、特徴はふたつある。

ひとつ目は、物理的なキーボードの有無だ。iPhone以前のスマートフォンのほとんどは、物理的なキーボードがついていた。ふたつ目は、iPhone以前のスマートフォンはメール重視の設計、iPhone以降のスマートフォンはWeb重視の設計となったことだ。もっとも、ネイティブアプリとAppStoreの大成功で、今ではアプリ重視、アプリによってインターネットを利用するという性格が強くなっているが。

まずひとつ目の点について説明する。僕は、iPhoneは世界で初めて完全にソフトウエアによって制御され、管理されたコンピュータであると考えている。iPhone登場以前に世界市場を抑さえていたBlackberryは物理キーボードを備えていたが、iPhoneは入力デバイスを仮想キーボードにすることで、マンマシンインターフェイスからハードウエア的要素をさらに削り落した。Blackberryだけではない、日本のケータイもまた、テンキーによる入力という概念を捨てきれなかった。コンピューティングにNUI(ナチュラルユーザーインターフェイス)を本格的に持ち込み、実用化と商用化に成功したのはiPhoneだ。

当初は物理的キーボードの優位を主張して、あくまでiPhone対抗を狙うメーカーが多かったし、過渡期には物理キーボードと仮想キーボードのどちらも選べるようなハイブリッド機種(つまりどっちつかずの優柔不断な製品)も出たが、結局はiPhoneが示したインターフェイスにすべてのメーカーが屈して、いまではどのスマートフォンでも基本的には同じUIになった。

ふたつ目の点は、メールからWebへの転換でもあり、スマートフォンがビジネスパーソン向けのツールから、一般消費者のツールへと性格を大きく変えたことでもある。iPhone以前のスマートフォンのキラーコンテンツは、スケジューラとメールアプリだった。物理キーボードがもてはやされた理由も、メールを打ちやすくする、という思想に基づいている。企業のメールは今のようにクラウドベースではなく、企業内の閉ざされた空間の中に納められ、厳重に管理されて外部からのアクセスを極力遮断する“イントラネット”を構成していた(たいていの大企業はいまでもそうかもしれないが)。だから、米国でも欧州でも、エグゼクティブが外出先でも社内サーバにアクセスし、メールを確認し、意思決定を行なうには、そのイントラネットにアクセスする必要があり、Blackberryはイントラネットに安全にアクセスして、メールを確認できるデバイス、というサービスを売りにした。その成功が、iPhone以前のスマートフォンをメールマシンと定義づけたし、おもにエグゼクティブを中心としたビジネス市場にフォーカスさせることになった。

しかしiPhoneは、メールの送受信はできるが、イントラネットへの安全なアクセスというソリューションを当初は採用していなかった(いまではMicrosoft Exchangeサーバとの連携が可能だ)。それはすなわち、ビジネスパーソンを主要顧客とした従前のスマートフォンとは別の道を歩むという決断である。

iPhoneはメール機能にビジネス的要素を追加する手間ではなく、代わりにインターネットの主要な利用目的であるWebを使う、という用途にフォーカスした。メールアプリではなくブラウザを再開発し、スマートフォンの小さな画面でもPCのWebをストレスなく閲覧できるように工夫したのだ。

この選択によって、iPhoneはコンシューマに受け入れられ、新しい市場を起こした。

(続く)


iPhone5




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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