秋口のアップル新製品発表予想とライバルの動向

秋口のアップル新製品発表予想とライバルの動向
2013年09月10日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

スポットライトはiPhoneに

毎年恒例となったアップルの秋口の新製品発表会が、アメリカ現地時間の10日、日本時間の11日と迫った。ここでは、直前予想を行うと共に、タイミングを合わせたかのようなライバル他社の動向と思惑について書いてみたい。

まず、今回の発表は、ハード面ではiPhoneの通常モデルの新型にあたるiPhone 5S、および廉価版にあたるiPhone 5Cの2つ製品、そしてソフト面ではiPhone用のiOS 7の発表がメインとなるだろう。アップルは、メディアが採り上げる話題や消費者の購買意欲が分散することを嫌うので、今回はiPhone系の発表のみに絞り込んできそうだ。

そのため、開発の遅れからリリースが10月にずれ込む見込みのiPad用iOS 7に合わせる形で、新型iPadとiPad mini本体のリリースは10月。Haswell化されたiMacやMacBook Proの発表も、OS X Mavericksと共に10月になる可能性が高い。また、すでにプレビュー済みだが正式発売待ちのMac Proも控えている。そこでアップルはこの秋にあと1回、もしくは2回、スペシャルイベントを開くものと予想される。

ちなみにiPad版iOS 7の遅れの原因としては、iPhone版の開発にリソースを集中させる必要があったことや、画面の大きなiPad向けのインターフェースデザインの最適化に時間がかかっていることが考えられる。

もう1つの注目点である日本でのキャリアとしてのNTTドコモの参入だが、アップルは契約が締結できる状態になると、相手方に箝口令を要求することで知られている。これまでのドコモの対応を見ると、少し前までは全体の販売数に対するアップルの要求が飲めないなど、条件面での不一致などに言及していたものが、ここに来て急に情報の出所だけに絞ったコメント発表のみとなった。

つまり、この事実こそがiPhoneの取り扱い開始を決めた証であり、参入は間違いないところと言える。となれば、時事通信が伝えるように、発表会にドコモの加藤薫社長が姿を見せ、クックが歓迎の意を表するのも確実であろう。


ティム・クック


iPhone 5Cは生産性の高いiPhone 5

iPhone 5Cは、従来であれば、最新のiPhoneと併売されてユーザー層の裾野を拡げるのに貢献してきた旧モデルに相当する。過去の例に従えば、iPhone 5Sの登場によって、iPhone 5が価格を下げて併売されてもおかしくない。しかし、iPhone 5は金属切削の筐体加工に手間がかかり、製造後の品質管理にも最新の注意が必要で、歩留まり的に問題がある。そこで筐体素材を樹脂に変え、そこにiPhone 5に準じた仕様で新設計された基板などを収めることで、ローコストで超大量生産に向くiPhone 5Cを開発したと推測される。

CEOのティム・クックの思惑としては、iPad miniも含めて製品ラインに低価格モデルが増える中で、十分な利益率を維持することを重視している。廉価モデルとは言え、iPhoneの商品力に絶対の自信を持つアップルのことなので、iPhone 5Cの価格付けに関してもローエンドのアンドロイドスマートフォンに直接ぶつけることはしないはずだ。

それよりも、中間的なポジションを狙い、契約プランに応じて本体価格が実質ゼロといった販売戦略を世界規模で展開するほうが現実性が高い。そして、売れ行きの状況を見ながら、価格の調整を図ることになるだろう。


iWatchとiTVは2014年の目玉?

iWatchとiTVに関しては、筆者も以前は2013年中には発表されるものと予想していたが、今は、どちらも2014年のリリースに傾きつつある。これには、イブ・サンローランの元CEOポール・ドヌーブをスペシャル・プロジェクトの副社長として雇い入れたことや、コンテンツサービスの充実が成功の鍵を握る点が関係している。

スペシャル・プロジェクトが何を意味しているのかに関して、アップルは口を閉ざしているが、順当に考えれば、一般企業における新規事業開拓室のような存在と考えられる。一方でポール・ドヌーブは、単にハイファッションに通じたエグゼクティブではなく、元々、アップル・ヨーロッパのセールスやマーケティング部門で活躍した人物である。いくつかのシリコンバレー企業のアドバイザーも務めており、IT業界にも明るい。

ドヌーブの役割を、iWatchにモード的な付加価値をもたらすことにあると見る向きもあるが、筆者は、それ以上の役割が期待されていると想像する。このような人材を発表直前のタイミングで雇い入れるとは考えにくく、iWatchは技術的な検証が終わった段階で、商品としてまとめあげていく時期にあるのではと思うのだ。

また、iTVに関しては、現時点でのアップルのコンテンツサービスのままで良ければ、現行Apple TVのバージョンアップ程度で十分に対応できる。満を持してリビングルームの攻略に本腰を入れる場合、アメリカのメジャーテレビ局の人気番組のほとんどがネット経由でiTVに配信されるような仕掛けが必要だ。その意味で、製品自体の開発が市販可能な状態にまで進んでいるとしても、アップルはある程度までコンテンツホルダーとの交渉を優先させ、市場投入のベストなタイミングを見計らう可能性が高い。


他社のスマートウォッチは勇み足か

アップルのスペシャルイベントを前に、業界ではいくつか大きな動きがあった。まず、マイクロソフトによるノキアの買収。このところマイクロソフトは、製品とサービスの統合を重視しており、これは、アップルの成功事例を踏襲せざるを得ないと判断したことを意味する。しかし、過去にiPod対抗でZune、iPad対抗でSurfaceという純正ハードウェア戦略を打ち出したものの、ことごとく失敗し、Windows 8自体にかつてのような勢いがない今、Windows Phone 8にとっても前途は容易ではないだろう。

個人的には、自社ハードで唯一成功していると言えるXboxプラットフォームの次期バージョンであるXbox Oneと、センシング能力が高まる次世代Kinectの組み合わせのほうが興味深く、マイクロソフトが縦割り組織のバリアを打ち破れれば、何か大きな改革が起こりそうな気がする。

また、サムスンやソニー、日産などが相次いでスマートウォッチの発表(ソニーは第2世代モデル)やコンセプトの公開を行ったが、どれも、もしこの秋にiWatchが登場したらと考えて、急ごしらえで発表した感は否めない。

機能面で予想以上のものを提示しているわけではなく、サムスンのGALAXY Gear(320×320ピクセルのOLED画面)は、巧みなデザイン処理で薄く見せているものの、実際にはかなり厚みがあり、重量も73.8gと、小ぶりなジャガイモと同等の重さだ。ソニーのSmartWatch 2(220×176ピクセルの半透過型液晶画面)は、より薄型で軽量(23.5g)だが、画面解像度が低く、搭載されたBluetoothも最新の4.0ではなく、消費電力の大きな3.0では、中途半端な印象は否めない。

日産のものはあくまでもコンセプトモデルなのでここでの論評は避けるが、実際のiWatchは、確実に新たな情報プラットフォームの原型となりうるような特徴を備えてくるはずだ。

ということで、今回のスペシャル・イベントではiPhone以外の製品は登場しないと予想するが、実際の発表の後で、また感想などを書こうと思う。


iPhone5




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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。

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