秋口のアップル新製品予想自己採点簿

秋口のアップル新製品予想自己採点簿
『iPhone 5Sと5Cの登場は順当、
 サプライズはiOS 7の64ビット対応とiWork系アプリの無料化』

2013年09月11日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

やはりiPhoneに絞ったメインテーマ

まず、発表されたハードウェアはiPhone 5Sと5Cのみで、Mac系やApple TV、あるいは何らかの新プラットフォームについての情報は何も開示されなかった。まさに今回はiPhoneだけに関心を集中させたいというアップルの意図が反映されたイベントだったと言える。

廉価版だがカラフルでカジュアルな魅力にあふれるiPhone 5Cと、これまでの2倍の処理速度や高機能な指紋センサーであるTouch IDを実現し、カメラ機能なども強化されたiPhone 5Sは、踊り場に差し掛かっていたiPhoneの販売を再び加速させるに十分な商品力を持っていると感じた。

たとえば、iPhone 5Sで8メガピクセルというカメラの解像度は引き上げずに維持したまま、120fps撮影によるSlo-Mo機能や、2種の発光素子とソフトウェアによるコントロールや処理で低照度撮影時の色再現性を高めたTrue Toneフラッシュ機能を付加したのは、アップルらしい実質的な改良点である。

日本でのキャリアとしてNTTドコモが加わったことも予想通りの展開だったが、10月にずれ込むかもしれないと思われたiPad向けのiOS 7が9月18日(米国時間)にはiPhone向けと同時にダウンロード可能となることは、ある意味で嬉しい誤算だ。それでも、新型iPad自体の発表は、10月以降になるだろう。



アップルの強みが出た64ビット対応

高付加価値でハイエンド市場を狙うiPhone 5Sの武器は、PC並みの高い処理能力にある。スマートフォン初となる64ビットCPU、A7の搭載とiOSの64ビット対応は、業界的にもかなり大きなサプライズだったと考えられる。これも、OSとハード、CPUまでを統合的に開発できるアップルならではの強みだ。

また、モーション系のデータ処理を担当するM7とそれをサポートするCoreMotion APIの存在は、単にA7の負荷を減らして低消費電力化に貢献するだけでなく、ユーザー体験を向上させる点にも注目したい。

特に、iPhone 5Sの公式Webページにも書かれているように、ユーザーが歩行中なのか運転中なのかを判断してナビゲーションの詳細を自動で変更したり、高速移動中は近隣のWi-Fiネットワークを拾わないといった処理が可能となることは、地味だが確実にスマートフォンの使い勝手を向上させるに違いない。



真の伏兵はiWork系アプリバンドル

ハードやOSの進化の陰で見過ごされがちかもしれないが、個人的にかなり興味深く感じたのがiWork系アプリ(Keynote、Pages、Numbers)およびiPhotoとiMovieアプリの無料化だ。

実際には、iOS 7搭載の新規モデルユーザーに限ってそうしていくということだが、キーノートの中でティム・クックCEOが言及したように、これはiPhoneやiPadの位置づけをメディア消費デバイスからコンテンツ制作デバイスへと拡げていく大きなステップに他ならない。

すでに先進的な教育現場などでは、コンテンツが重要であって何のアプリで作るかは問題ではないとの考えから、オフィス系スイート離れも始まりつつある。そうした流れの中で、プロダクティビティとクリエイティブ系の純正アプリ群が無料化されることの意義は大きい。

ひとつ気になるのは、プレゼンの中でもアップルのWebページ上でも、iOS 7のバンドルアプリのデザインは一新されているのに対して、上記アプリ群のアイコンデザインがリアルなスキューモーフィズムのままである点だ。

おそらく現時点ではバンドルされたものとは違ってアプリ自体の仕様に変更がないため、アイコンだけをiOS 7風に変えても混乱するとの配慮からと思われ、次期バージョンアップと共にこれらも大きく変更されることだろう。

スマートデバイスの新しい流れがここから始まる。そう感じさせてくれた秋口のスペシャルイベントだった。




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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。

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