iPhone5s登場前夜祭(後編):Appleは新興国市場より先進国市場のビジネスユースに焦点を合わせている

iPhone5s登場前夜祭(後編):Appleは新興国市場より先進国市場のビジネスユースに焦点を合わせている
2013年09月17日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

前編はこちら>iPhone5S登場前夜祭(前編):iPhoneとはいったいなんなのかを再検証する
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9月12日(米国時間では9月11日)、予定通りiPhoneの新機種であるiPhone5sとiPhone5cの詳細が発表された。

その内容のほとんどは、事前にさまざまなメディアでリークされてきた情報と変わらず、Appleウォッチャーにとっては目新しさに欠けるイベントになったことは否めない。ジョブズ時代の完璧な情報統制はどこにいったのだろう。いつまでも彼の影を追うような発言をするのもどうかと思うのだが、徐々にAppleがふつうの会社になりつつあることは誰にも否定できないことだと思うし、それを不安に感じるのは致し方ないことにも感じる。

さて、今回登場の5シリーズは、Android陣営に対する巻き返しを明確にしているというか、ほとんどそのためにつくったのではないかと思うくらいの戦略的商品であると考える。利益面ではAndroid陣営を圧倒し続けるAppleだが、シェアが低下し続けるのはやはりよろしくない。PC市場においてWindows陣営に追いつめられていったMacの過去の劣勢を思い返させるからだ。

そこで、AppleとしてはiPhone5cをリリースすることで、Androidベースの低価格機が市場を席巻するインドや中国など発展途上国市場でのシェア再確保を狙っているわけだが、僕にはそれ以上に、実は先進国における企業ユースを狙ったものであるという気がしている。僕の取引先でも最近スマートフォンを社員に配付する向きが多いが、ほとんどが低価格のAndroidだ。「スマートフォンの二台持ちはめんどうだから、タダで使えるならAndroidでいいか」と、一般のビジネスパーソンが考えても不思議はない。これはひと昔前の、会社のPCがWindowsベースなら家のPCもWindowsにしないと資料の使い回しができず、自然とWindowsを選ぶ人が多かったことを思い出す。

同じような流れをつくらせないためにも、Appleはいまこそビジネスモバイル市場を抑えたいのではないか? Apple製オフィススイートであるiWorks(PowerPointに相当するKeynote、Wordに相当するPages、Excelに相当するNumbers)を無料でバンドルするのも、そこに狙いがあるはずだし、さらにiPhone5sの指紋認証もまた、落したときのセキュリティを考慮するのは消費者にも必要な措置とはいえ、企業向けへのアピールであると僕は推測している。

Appleは市場シェア低下に対する投資家たちのプレッシャーに対して、なんらかの回答を用意しなければならない。これまでは中国やインドなどの発展途上国の巨大マーケットにおける低価格機ニーズにのみ焦点が当てられていたが、僕はむしろ、ビジネス市場における低価格機ニーズのほうが、今のAppleにとって重要であるとみている。

というより、中国やインド、東南アジアにおいても、ビジネス用途としてのモバイルのニーズは非常に高い。もともとコンシューマにとっての使いやすさとニーズを実現してブレイクしたiPhoneだが、いま逆にビジネス市場におけるシェアの確保を世界的に行なうことでこそ、コンシューマ市場におけるシェアを維持と成長にもつながるという認識を、Appleはもっているのだと僕は考えている。


iPhone5s


iPhone5c




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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