mixiとGREEの盛衰に鑑みる、リーダーの心得

mixiとGREEの盛衰に鑑みる、リーダーの心得
2013年10月07日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

日本のソーシャルネットワークの礎をつくったといってもよい、ふたつの企業に激しい凋落の影が近づいている。

言わずと知れた、mixiとGREEのことだ。両社はほぼ同じ時期にうまれ、互いに競う合うようにして成長を遂げてきた。ユーザー数10万人に達成した時期もほぼ同じだった。ソーシャルネットワークサービス(SNS)が日本国内においても認知を集めるに至った功績は、このmixiとGREEの二社に与えられて当然のものだ。しかし、GREEは10万ユーザーを超えたころから失速し、KDDIからの出資を機に携帯ユーザーにフォーカスを絞り、さらにそこからソーシャルゲームという巨大市場を誕生させるきっかけをつくった。mixiはというと、SNS市場では一時的にはひとり勝ちの状態となったものの、Facebookの本格的な日本市場進出への対応を誤り、2010年を境に失速しはじめた。

mixiの失速は、Facebookという黒船に対する経営陣の過度な恐怖心による判断ミスだったといってよい。Facebookとは、実名主義を金科玉条のごとく押し進めることで成長してきたソーシャルネットワークだ。日本に再進出してきた2010年は、Facebookページや広告など企業向けサービスの充実に注力することで、マネタイズを図ろうとしていた時期だった。当時のmixiは、Facebookを敵視することもないし競合ではないと公言しつつも、実際の行動ではFacebook同様に実名制への移行を計画していたし、Facebookページに相当するmixiページなる企業向けサービスの開発をしていた。

これらの矛盾した言動が、開発面ではmixi最大の特徴でもある足あと機能を取り下げるといったミスを犯すきっかけとなったし、中途半端な法人向けサービスの開発をして、リソースのむだ遣いをすることになった。mixiは自分たちの良さを自分自身でスポイルし、ライバルのサービスの猿真似をすることで、敵の戦略に対して恐怖心を抱いていることを自ら証明してしまったわけだ。その結果、Facebookにあっというまに追い抜かれ、時代遅れのサービスとしてユーザー離脱の憂き目に遭っている。日本最強のSNSとして君臨していた頃の輝きは失せ、ついに赤字転落してしまった。

GREEはどうかというと、mixiがFacebookという黒船への恐怖心に自壊したのとは違い、ある意味自分たちがつくり上げたプラットフォームへの過信と、将来の市場規模の見極めのまちがいによって、大きな危機に直面している。具体的にいうと、過度な人材採用を行い、重たすぎる人件費が赤字の元になっている。

たしかにソーシャルゲームは大きな市場となったが、それはガラケーあっての市場であり、スマートフォンが普及し、ネイティブアプリ全盛時代にあっては、ユーザーがゲームを取得するためのルートはAppleとGoogleに握られている。つまり、GREEとDeNAがつくり上げたプラットフォームはもはや機能しない。となると、両社ともプラットフォームであることを捨て、ゲームのメーカーになるしかない。そもそも、GREEもDeNAもプラットフォーム事業に依存できなくなることは2~3年前からわかっていたと思うのだが、GREEが採用をしすぎてしまったのは、やはり市場の見極めができていなかったのか、自分のビジネスモデルへの妄信のためといわざるを得ないだろう。

さて、まとめよう。mixiとGREEが、日本のソーシャルネットワークの礎をつくった功労者であることは前述のとおりだ。彼らがいま失速しているのは、mixiはFacebookに対する恐怖がいきすぎて、自分の順当な進化を阻害してしまったため。GREEは傲慢ゆえかゲームのプラットフォームとしての自分の寿命を数えまちがえてしまったためだ。恐怖と傲慢、一見正反対に思えるが、経営者の未来を見る目にミスがあったという点では同じだ。ビジネスは人であり、リーダーのビジョンとセンスによって、どんなにすぐれた事業であっても短期間に勢いを失くすという実例といえるだろう。

とはいえ、両社は財務上はまだまだ体力があり、すぐれた人材も多く残している。リーダーも若く、失敗を取り戻し、体制を整え、勢いを取り戻すすべも可能性もある。

思うに、Facebookは国内の10代~20代前半のユーザーにはまだ十分な支持をとりつけられていないから、mixiにも大きなチャンスがある。米国を見ればわかるが、ティーンエイジャーの支持を集めるために、多くのスタートアップがFacebookの間隙を縫うように台頭しつつある。また、LINEは実名のメッセージングサービスであり、mixiはLINEと共存できるはずだ(共存のためには出会い系のようなサービスを買ってはいけないと思うが)。

GREEは、はやく身軽になってゲームメーカーとしてすべてのリソースを集中させるべきだ。勝てるかどうかはわからないが、現状のモバイルゲームの市場をみていると、やはり資金力のある企業でなければ勝ち抜けない。GREEの体力はまだまだ侮れない。

最後に結論。リーダーはみだらにライバルを怖がってもいけないし、自分たちの才覚を過信してもいけない。つねに初心を忘れず、自他を冷静に見つめることが重要だということだろう。


mixi


GREE




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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