ビジュアルインターネットサービス戦争が過熱

ビジュアルインターネットサービス戦争が過熱
2013年10月28日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

本コラムにおいて、僕はたびたびスマートフォンの普及とソーシャルメディアの進化によって、インターネットサービスの三大キーワードは「ビジュアル」「ソーシャル」「モバイル」になったと述べてきた。その代表として、オンラインフォトピンボード「Pinterest」、数秒で消える写真の共有サービス「Snapchat」、数秒単位のループ動画共有サプリの「Vine」などを挙げてきたが、ここにきてそのムーブメントがいよいよ顕著になってきた。

Pinterestがプレ(=プレマネー。新たな出資者を募るときの企業価値のこと)38億ドルで、2億2500万ドルという巨額な資金調達に成功し、さらにSnapchatがプレ36億ドルで数億ドルの資金調達を計画しているという。

Pinterestはポスト(=ポストマネー。増資後の企業価値。つまりプレ+増資金額)で40億ドルを超え、調達に成功すればSnapchatもまたそれに迫ることになる。

Snapchatはわずか4カ月ほど前に、6000万ドルもの資金を調達したばかりだ。正直、何にそれだけのおカネがかかるの? という感じだが、米国以外への海外進出や人材確保、そして潜在的脅威となり得るような企業の買収など、一気呵成の急成長を図るために、それだけの資金が必要になるということだろう。

実際、Snapchatのコンセプトはシンプルであり、まねしようと思えばたやすい。その証拠に、日本国内でもリクルートが8秒後に画像が消える「SeeSaw」というクローンアプリをリリースしている。

つまり、いまやアイデアを具現化するために国境は関係なく、よいサービスがあればあっという間に世界各国でクローンサービスがつくられる。アイデアはパクられる。そのアイデアを実際のサービスとして開発し、さらにそれを普及する速度が勝負だ。だからパイオニアとしては、クローンたちを撃退するための開発資金やマーケティング資金が必要だし、手強いと思えば買収してしまうだけの資金力が必要となる。

Pinterestについても同じことがいえるかもしれない。米国内ではTwitterを上回る送客エンジン(自社メディアに集めたトラフィックを、ECやメディアなどに回すことでアフィリエイト収益をあげることができる。リードジェネレーションともいう)となったPinterstだが、海外においてはまだまだ知名度が低い。楽天が投資したことで話題にはなったものの、日本国内でも使っている人は少ない。

つまり、Pinterestでさえも、クローン登場によって新市場への機会喪失の恐れがある。だから、一気に世界進出をするための軍資金を集めていると見るべきだろう。

LINEが上場を考えているというのも、世界展開を図った場合、WeChatをはじめ、強敵がひしめいており、手元資金だけでは勝ち目がないからだ。韓国NAVERという親会社の資金力を背景したからこそ急成長を果たせたLINEだが(彼らはスタートアップではない)、それでも世界中のライバルと戦うためには、上場してPinterestやSnapchat同様数億ドルの資金調達が必要になっているわけだ。

戦いには軍資金がいる。日本のスタートアップが世界に飛び出るには、創業当初から海外展開を視野に入れ、国内市場の(偏った)ニーズに最適化することを目指すのではなく、世界市場の開かれたニーズに最適化することを目指すしかない。しかし、そのためには海外のライバルに比肩できるだけの資金調達をしなければならず、その資金需要を満たしてくれる投資環境が国内にはまだない、という非常に矛盾した環境下で、日本のスタートアップは戦っているのである。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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