WhatsAppがFacebookに160億ドルで買収、その余波は?

WhatsAppがFacebookに160億ドルで買収、その余波は?

2014年02月24日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

前回のコラムで、Facebookは用途や需要(ユースケース)ごとにアプリを分散させてリリースしていく分散型アプリ戦略と、潜在的脅威になり得るライバルや新興企業に対する買収戦略のふたつを押し進めていく、と書いた。

コラムを公開した直後、FacebookはWhatsAppの買収を発表した。それも160億ドルという異例の評価額でだ。

WhatsAppはご存じのとおり、LINEやカカオトーク同様のプライベートメッセージングアプリだ。サービス名は「What's up?」と「App」を組み合わせた造語で、「ワザップ?」に近い発音をする。ちなみに「What's up?」は「どうした?」「なにがあった?」「なにしているの?」といったニュアンスの言葉で、若者の常套句だ。僕がマレーシアの首都クアラルンプールに6年住んでいた当時は「What's up?」という挨拶を交わしたことがないし、聞いたこともない。なぜならマレーシアは、イギリス系英語が使われているからだ。つまり「What's up?」とは、アメリカ人特有の英語であるといえよう。

WhatsAppはメッセージングアプリとしては現時点で世界最大のシェアを有するが、従業員はわずか50人そこそこ(その中でエンジニアは30名程度という)の小さなスタートアップだ。LINEとは違い、後ろ盾となる親会社があるでもなく、シリコンバレー発としては比較的控えめな資金調達しかしていない。日本の若者にも浸透しはじめているInstagramが10億ドル程度の買収額だったので、その十数倍というのは、シリコンバレーの景気がよい証拠でもあるかもしれない。アメリカではFacebook、Google、Yahoo!などが次々とスタートアップを買収しており、IPO以上にM&A市場がイグジットとして盛り上がっているから、多くのスタートアップ起業家にとっては千載一遇のチャンスにみえているだろう。

ちなみに、現在のFacebookの企業価値は2014年2月現在で1700億ドルくらいだから、自社の10分の1という評価をWhatsAppに与えたことになる。WhatsAppのユーザー数は4億5000万人だから、3億人のユーザーを抱えるLINEにも相当な金額がつきそうだが、ユーザーシェアが日本を中心とした一部の国に偏るから、多少はディスカウントされるかもしれない。それでも同様のポジションにあるカカオトークが20億ドル程度のIPOに成功するとみられているから、かなりの金額にはなるだろう。

日本ではのれん代の償却といった法規則が足かせとなりスタートアップのイグジットとしての買収案件が増えていかないが、それでも風向きを考えると2014年はおもしろいことになりそうだ。

海外企業への売却を視野に入れた起業家が、アメリカの企業家や投資家に「What's up?」とあいさつを交わす姿を今後みられるようになるかもしれない。


WhatsApp








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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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