宇宙データを使ったハッカソン「ISAC」が東京・駒場で開催

宇宙データを使ったハッカソン「ISAC」が東京・駒場で開催

2014年04月15日
TEXT:片岡義明

米国航空宇宙局(NASA)や日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが公開している宇宙・地球環境・衛星関連のデータを使ったアプリを開発するハッカソンイベント「International Space Apps Challenge(ISAC)」が4月12日・13日に世界各国で開催された。ISACの開催は今年で3回目。昨年は世界83都市での開催だったが、今年は開催都市が90を超えた。日本でも東京大学・駒場リサーチキャンパスが会場となり、ソフトウェア開発者をはじめデザイナーやプランナー、研究者などさまざまな人が120人以上集結し、2日間にわたってさまざまな作品の開発・制作が行われた。

ISAC Tokyoは2日間のうちにアプリや作品を完成させることを目標としているが、事前にアイデアソンと呼ばれるプレイベントも3月15日に東京・日本科学未来館にて開催している(「宇宙などがテーマのハッカソン今年も開催、未来館でプレイベント」参照)。ハッカソン初日は午前10時に開始。まずはISAC事務局長の湯村翼氏による挨拶や、宇宙飛行士などによるメッセージビデオの紹介が行われた。その後、開発を行うアイデアの発表が行われ、チーム分けを実施した。ISAC Tokyoでは誰がどのチームに参加するかは自由に選択することが可能で、アイデアソンにはなかった新たなプロジェクトも加わった。


会場となったコンベンションホール


宇宙飛行士からのメッセージビデオ

今年のISAC Tokyoでは、セイコーエプソン株式会社から5月に発売予定のメガネ型HMD「MOVERIO」が、株式会社フィリップスエレクトロニクスジャパンからスマートフォンで操作できるLED電球「PHILIPS hue」が貸し出されるなど、スポンサーからの提供製品を使った作品の開発も活発に行われた。また、今年からの新しい試みとして、別会場(ボストン)とのコラボレーションも行われて、ビデオハングアウトでチャットをしながら開発が進められた。さらに、屋外には衛星ブロードバンド通信を行えるMozilla Japanのキャンピングカー「MozBus」も登場し、中で3Dプリンタの出力などが行われた。


MOVERIO


PHILIPS hue


MozBus

このほか、今回は小学3年生から中学生までを対象とした「ユースチャレンジ」も併催された。こちらでは最初にArduinoを使った簡単なプログラミングの講習を実施。その後、LEDを光らせたり、音を鳴らせたりと、ダンボールやフォトスタンドを使って子どもたちが思い思いの作品を制作した。また、大人たちが開発している様子を見学するツアーも行われた。参加者の中には高度なプログラミングスキルを身に付けた小学生もいて、2日の内にUnityを使ってArduinoと連動したアクションゲームを開発した。


ユースチャレンジ


小学生によるゲーム作品

今回は参加人数が120人以上となり、計18のチームが開発を行った。開発チームは以下の通り(発表順)。

(1)Habitable Zone(ボストンとのコラボレーション)
太陽系のほかの惑星の表面温度のデータをもとに、時間や地域を細かく分けて調べることにより、人が移住できそうな地域を探すプロジェクト。日本チームが制作したWebサイトでは、自分が住めそうな温度を入力すると、住めそうなエリアが表示される。この結果を、「Personal Cosmos」(昨年のISAC東京の優勝作品で、プロジェクターでさまざまなデータを投影できる地球儀)に表示される仕組みをボストンチームが制作した。

(2)Emotional Health(ボストンとのコラボレーション)
人の顔の瞳孔分析に基づいて、感情の分析により健康状態をチェックするプロジェクトで、宇宙飛行士のメンタルヘルスチェックを目的としている。顔の状態を認識して感情を、チャートを使ってハッピー・驚き・悲しみ・怒りの4つで動的に表示する。


Habitable Zone


Emotional Health

(3)チーム☆インベーダ
ACE探査機の実際のデータをリアルタイムで取得し、それを生活の中で一般の人に活用するための「宇宙防災環境アプリ“IyaN”」を開発した。太陽風などの状況に連動してPhilips hueやMoverioなどのデバイスで画像や音などを出して知らせる。

(4)Lunar Pulse
月震(月で起こる地震)データを利用して、月震をPhilips hueの光とスピーカーからの音で表現するプロジェクト。プロジェクターに映し出された月面の前に立ち、月の上で鼓動を見て聴いているかのような感覚を味わえる。


チーム☆インベーダ


Lunar Pulse

(5)faamo
衛星データを使った農地のクラスタリングにより、ユーザーが指定した産地に似た環境の農地を探して、海外の生産拠点探しを支援するアプリ。各地の人口増減傾向や物価などの情報を示して、進出先の市場性もあわせて評価する。

(6)宇宙文明発見グループ(marface project、略称:マー)
昨年は、火星の地表から人の顔に似たパターンを探す企画を行った「マー」チーム。今年は、パターン認識に取り組む「宇宙文明発見」チームと、オブジェクトの観光コンテンツ化を行う「宇宙文明旅行社」の2つにチームが別れた。前者のチームでは、「DEEP LEARNING(深層学習)」の手法を用いた画像認識技術に取り組んだほか、人面以外の人工構造物の発見に取り組んだ。総探索ピクセル数は、昨年度の8倍となる約800億ピクセルにのぼった。


faamo


宇宙文明発見グループ

(7)宇宙文明旅行社
「宇宙文明発見グループ」が発見したオブジェクトの観光資源化を行うプロジェクト。宇宙旅行のポスターを制作したほか、観光ガイドブックの制作やMOVERIOを使った探索アプリ、お土産のお菓子作りなどを制作した。

(8)みんなで見よう、インフルエンザ・ハザード
インフルエンザの感染状況をリアルタイムに日本地図にマッピングするプロジェクト。インフルエンザの患者にWebから感染を報告してもらうことにより、感染者の位置と分布頻度をもとにしてヒートマップで表示する。また、衛星「しずく」で観測された降雨データ(Hi-RezClimateチームが提供)などをもとに感染率を計算し、感染ハザードをマッピングした。将来的にはインフルエンザだけでなく、ほかの感染症にも応用できる。


宇宙文明旅行社


みんなで見よう、インフルエンザ・ハザード

(9)Save the Hero
宇宙では骨量が骨粗鬆症の約10倍の速さで減少するという宇宙飛行士の課題を解決するプロジェクト。骨粗鬆症には屈伸運動によって骨に負荷をかけると良く、骨密度が強化されるということで、MOVERIO上で動く屈伸運動ゲームアプリを開発した。ディスプレイに表示された棒を避けながら楽しく屈伸運動ができる。今後は心拍計の導入なども検討している。

(10)space chat
衛星軌道をくるくると回るコミュニケーションチャットツールを開発するプロジェクト。投稿すると宇宙にコメントが打ち上がり、地球の周りを回り、一旦打ち上がったコメントは消えないため次第に溜まっていく。実はこれはスペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題を訴えるためのツールで、デブリの問題をより多くの人に身近に知ってもらうために開発した。


Save the Hero


space chat

(11)サテライト♡ラブ
人工衛星の周期(地球一周の時間)を砂時計のようにタイマーとして使って、人工衛星が一周する間にタスクを終わらせるためのアプリ。同じ衛星を使っている人もわかる。

(12)Hi-RezClimate
JAXAが使用しているデータ形式は一般的なWebアプリに直接利用できないため、衛星「しずく」のデータをJSON形式のデータに変換するサービスを構築するとともに、ドキュメンテーションとサンプルも作成した。データは1日ごとに更新される。「みんなで見よう、インフルエンザ・ハザード」にも降水量データを提供した。


サテライト♡ラブ


Hi-RezClimate

(13)衛星これくしょん
衛星をコレクションしてゲームを作るプロジェクト。衛星ごとに”萌えキャラ”を作り、スマートフォン上でARでキャッチする仕組みを作った。

(14)宇宙の歩き方
惑星や月の地表のデータから観光地図を作るプロジェクト。MOVERIOとPersonal Cosmosを使って、宇宙観光時代に向けた地図作りに取り組んだ。特定の場所を指定するとその地点の説明がPersonal Cosmosに表示されて、MOVERIOでも見られる。


衛星これくしょん


宇宙の歩き方

(15)Sprite Orbits
ロケット「Falcon-9v1.1」が打ち上げる小型衛星「KickSat」から、各種センサーを搭載したSpriteと呼ばれる基板が100枚放出される予定となっており、これをハックするプロジェクト。Google Earthを使って直感的にSpriteのセンサー情報を表示できるWebアプリを作った。

(16)スペースボトル SPACE BOTTLE
衛星にシーボトル(メッセージ)を託して誰かに届けることにより、衛星を学ぶ機会を作ろうという趣旨のメッセンジャーアプリ。衛星の位置をマップ上で確認することもできる。


Sprite Orbits


SPACE BOTTLE

(17)MARS ATTACK
火星移住を想定して楽しむ火星移住シミュレーションゲームで、SimCityのOSS版をベースとしている。火星で必要な建築物をできるだけリアリティをもった金額で示すことにより、火星居住の難しさを楽しんでもらう。

(18)衛星浪漫飛行
MOVERIOを使って人工衛星からの視点に切り替えることで地球をリアルに捉えようというプロジェクト。JAXAの衛星軌道、観測データをもとに地球を観測しながら“浪漫飛行”することにより、地球と遊ぶことができる。


MARS ATTACK


衛星浪漫飛行

審査の結果、最優秀賞を獲得したのは、「チーム☆インベーダ」。プレゼンターのコドプロス・ディミトリス氏(日本科学未来館 科学コミュニケーター)は講評として、「人が宇宙とどのようにつながっているかを知るために、宇宙から届いたデータの使い方は、非常に重要だと思います。これからもこの活動を続けていってください」と語った。また、チーム代表の藤川恵一氏(NPO法人 横浜コミュニティデザイン・ラボ)は、「専門家向けではくて、小さなお子さんから高齢者まで、リアルタイムの宇宙データをさまざまなデバイスを使って身近に感じていただきたい、という思いでがんばりました」とコメントした。

第2位は「みんなで見よう、インフルエンザ・ハザード」が受賞した。審査員の神武直彦氏(慶應義塾大学大学院 准教授)は講評として、「社会的な意義が非常に大きいということ、世界的な課題であるということで決めました。グローバルアワードに挑戦することで、今後もこの問題に取り組み続けてほしいと思います」とコメント。チーム代表の大平亘氏(東京大学・空間情報科学研究センター特任研究員)は昨年も「ソーラーパネル、どこへ置く?」というプロジェクトで2位を獲得したが、今年も連続受賞となった。


「チーム☆インベーダ」開発スタッフ


「みんなで見よう、インフルエンザ・ハザード」開発スタッフ

第3位を受賞したのは「Faamo」。審査員の柴崎亮介氏(東京大学 教授)は講評として、「フードセキュリティの問題が大きくなりつつある中、意外なところで意外な作物を獲れる可能性があるということを教えてくれた点を高く評価しました」コメントした。このほかの特別賞としては、欧文印刷賞には「Save the Hero」、マイクロソフト賞には「space chat」、セイコーエプソン賞には「宇宙の歩き方」、デンソーアイティーラボラトリ賞には「Sprite Orbits」、JAXA賞には「Hi-RezClimate」が選ばれた。

事務局長の湯村氏は、「今回は広島や大阪、福島などさまざまな地域の方が参加しました。宇宙好きは日本各地にいるはずなので、次回は東京だけでなく、各地で開催したいですね。今回はボストンとのコラボレーションがありましたが、日本国内の地域同士でもコラボして相乗効果が生まれれば面白いと思います」と語った。

また、今回初開催のユースチャレンジを取り仕切った若狭正生氏はイベントを振り返って、「今回は初心者向けで工作中心にしたのですが、ユースチャレンジはISAC本戦に参加する若手を育成する意味も兼ねています。来年以降も参加人数を増やしたりと、色々と展開していきたいと思います」と語った。

東京会場で入賞した上位2チームは、今後まもなくグローバル・コンペティションに挑戦する。その後、有識者による審査を経て、グローバルの最優秀賞が発表される予定だ。

■URL
International Space Apps Challenge Tokyo 2014
URL:https://2014.spaceappschallenge.org/
宇宙などがテーマのハッカソン今年も開催、未来館でプレイベント
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