SEOに代わるSVOの時代(後編)

SEOに代わるSVOの時代(後編)

2014年06月30日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

前編はこちら>SEOに代わるSVOの時代(前編)

前回、モバイルインターネットが主流になった現在では、一般的にユーザーはWeb上であまり検索を行わず、SNS上でつながっている友人知人からの評価の高い情報をクリックする傾向にあると述べた。

SEOは以前ほど効果が期待できず、とはいえFacebookページやTwitterアカウントにいくらファンを集めても、大したユーザー情報が得られるわけでもない。肝心なのは、集めたあといかにしてトラフィックをマネタイズできるかだ。

大事なことは、自分たちでコントロールできるWebサイトやアプリ、すなわちオウンドメディアにトラフィックを集めることである。そのためには前回述べたカニエ・ウエストをならってビジュアルデータの見せ方・つくり方を工夫すべきだ。僕はこれをSVO(ソーシャルビジュアル最適化)とよぶ。

最近Twitterがアニメ―ションGIFをサポートしたのも、彼らにとってのSVO対策といってよい。また、Facebookがウォール上で動画を自動で再生するようにしたのもSVO対策といえよう。ソーシャルメディア企業たちは、タイムライン上により大きく・より解像度の高い画像を掲載できるようにユーザーインターフェイスを改良している。

SnapChatの大成功と、LINEが起こしたスタンプ革命も同じだ。ユーザーはテキストを眺めたり書き込んだりするよりも、画像や動画によって情報を取得することを好む。

だからといって、むやみに画像や動画を載せればよいわけでもない。インターネット全体がビジュアル化したことで、画像や動画自体はユーザーも慣れてしまった。そこで、カニエ・ウエスト同様に、できるだけインパクトがあり、心を奪えるような画像や動画のつくり方が重要になってきた。つまり、より高度な加工技術や編集技術が求められるようになったわけだ。

売上がほぼゼロといわれるPinterestがなぜ50億ドル以上の企業価値をつけられるのか。それはひとえに彼らがピュアなビジュアルWebであり、訪れたユーザーがコンテンツ、つまり写真をひんぱんにクリックするからである。クリックするとトラフィックが生まれ、その写真の掲載者が設定したWebサイトに送客する。Pinterestはビジュアルを利用した送客エンジンとして評価を受けており、EC事業者などがこぞって画像を置き、自分たちのWebサイトへとトラフィックを引き込む努力をしているのだ。

従来のインターネット上の画像や動画の画質は、これまで表示速度を稼ぐために問われることが少なかった。しかし現在はブロードバンド環境により表示速度が問題にならないので、重視されつつある。インターネットにおいても、ファッション雑誌に求められるような画質と表現力が重要になったのだ。

2014年現在、長い尺の動画コンテンツの配信では、YouTubeのひとり勝ちになった。尺が長いとユーザーは飽きるし、隙間時間を使って動画をモバイルで消費するには長くても数分以内でないとならない。つまり、長尺の動画をシェアさせるというビジネスモデルは、市場全体でみるとなかなか成立せず、YouTubeがその数少ない椅子を占有してしまったのだ。

逆に短い尺の動画は、アニメ―ションGIFや写真と同じ領域で消費できるのでプレイヤーが多い。SnapChat、Vine、Instagram、Facebook、Twitter、Pinterestなど、ありとあらゆるソーシャルメディアがしのぎを削る。また、NewYork Timesやハフィントンポストなどのニュースメディアもまた、高彩度で印象的な画像やインパクトのある動画を使ってトラフィックを稼ぐ。うまくビジュアル化された記事はSNSでシェアされて拡散されるから、より大きなトラフィックを生み出すのだ。

さらに、雑誌の編集者には当然のスキルである、美しい画像でひきつけながらも長いテキストをスキップさせずに読ませる技術も、Webやアプリのエディタ間で広まりつつある。何度も紹介しているmediumはその代表例で、テキストを読ませるための画像の取扱いを効率的にシステムに取り入れている。日本のnote.muも同じようなビジュアルを備えているが、創業チームがそもそも出版社の編集者であることが象徴的だ。

つまり、ニュース・新聞社はデジタルファーストとプリントファースト(事業モデルを紙で印刷されたメディアに頼るか、Webサイトによるデジタルメディアに寄るか)の論議がここ数年加熱してきたが、いまはインターネットメディアの雑誌化が本格的にはじまっている。いや、雑誌化というよりも、ファッション雑誌などでは当たり前である技術の、インターネットのメディアへの移植がはじまっているのである。

Webデザインやアプリデザインを志す者は、改めて雑誌を手に取り、印象的な写真の使い方やテキストとのバランスのつくり方、レイアウトの組み方を勉強しなおしたほうがよいかもしれない。もちろん、雑誌もスマートフォンもポートレイト(縦に長い長方形)という共通点はあるが表示面積が大きく違うし、雑誌は横・スマートフォンは縦に進む。紙とデジタルで同じノウハウでの成功はあり得ないが、その違いを意識したうえでエッセンスの変換を考えることが重要だ。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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