MacBook Airの「Stickers」篇CMの違和感

MacBook Airの「Stickers」篇CMの違和感

2014年09月02日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

センスの高さと映像の造り込みで知られるAppleのCMだが、最近放映されたものに若干の違和感を覚えたので、ここに理由を書き出してみることにした。

本題へ入る前に、少し意外なところから話を進めることにしよう。それは、10月からスタートする「仮面ライダー」の新シリーズ「仮面ライダードライブ」(http://www.tv-asahi.co.jp/drive/)である。

主人公は警視庁所属の刑事で、バイクではなく、改造されたホンダNSXと思しき相棒ビークルの「トライドロン」に乗って活躍する。すでに一部では話題だが、この時点ですでに、仮面「ライダー」ではない。仮面「ドライバー」だ。

変身時の姿がまた極端で、なんとタイヤをタスキがけしているのである(タイヤ交換で攻撃スタイルが変化するとの設定)。ちなみに、トライドロンも妙にタイヤを強調したデザインで、四輪のほか、リアセクションの上にも変形(4WDのブルドーザーモード)に備えてワイドタイヤが装着されている。

余談はこれくらいに留めておくが、ポイントは、こうした設定やデザインを仮面ライダーの生みの親である故・石ノ森章太郎氏が、もし存命であったら許しただろうかということにある。もちろん、この種のキャラクターものが、ある時点で原作者の意向とは無関係な商業主義によってひとり歩きしはじめることはよく見聞きする話だ。特に、原作者の没後は、ほぼ100%そうなるといっても過言ではない。

今回の路線変更にも、バイク人口が減っている現状や、子どもの自動車への興味を拡大したい、あるいは、四輪のほうが関連商品を増やしやすいというスポンサーの意向が強く関係しているであろうことは、容易に想像できる。そして、それが短期的なビジネス上の正義だとしても、長い目で見てそのキャラクター本来の意味や価値を貶める可能性は十分考えられるわけだ。

話を戻そう。違和感を覚えたCMとは、MacBook Airの「Stickers」篇だ。ディスプレイカバーに描かれたアップルマークの周囲に貼り付けて楽しむサードパーティ製のステッカーを取り上げ、同じMacBook Airでもステッカーが違えば個性も違ってくるといったニュアンスをもたせたものとなっている。

穿った見方をすれば、ここまで普及したMacBook Airに関して、他人と同じマシンは嫌だと考える人にも、自分なりの楽しみ方があると訴えているようにもとらえられよう。しかし、いずれにしても機能性や、その製品が実現しようとする世界とは無関係のアピールとなっている。

筆者も、こうしたステッカーに見られるアイデア(Appleマークを図案の一部として取り込むことで成り立つおもしろさ)は評価しており、商品としては大いにアリだと思う。だが、それをApple自体が取り上げてCMに仕立てるのは、また別の話だ。

スティーブ・ジョブズは、そもそも自社ブランドの象徴であるロゴを使って他社が遊ぶことを許さなかったし、Appleには現在もロゴの使用にあたっての厳格なルール(周囲に別の要素を配さずに、ロゴのみを際立たせるなど)があるはずだ。

また、過去にAppleは、ジョブズがCEOと懇意にしていたBURTONとiPod対応のスノーボードジャケットを共同開発したり、ティム・クックが過去9年にわたって社外役員を務めているNikeとの協業でNike+iPod製品をつくるなど、ごく限られた企業としかダブルネーム的な見せ方をしてこなかった。それも自社ブランドの位置づけを維持するために、みずからに課した規律といえた。

それらに照らして考えれば、「Stickers」篇のCMは完全にNGであり、なんとなく楽しい雰囲気は感じられても、製品の差別化には結びついていない。

「そんな細かいことに目くじらを立てなくても」と思う人がいるかもしれない。また、実際にジョブズもクックには、彼のやり方を踏襲するのではなくみずからベストと思うことをやれと申し渡してはいた。しかし、ブランドイメージとは、こうしたディテールの積み重ねであり、みずからがそこに無頓着になることから崩れかねないものなのである。


MacBook Air







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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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