IT活用で地域課題を解決、「Code for Japan Summit 2014」が開催

IT活用で地域課題を解決、「Code for Japan Summit 2014」が開催

2014年10月14日
TEXT:片岡義明

テクノロジーを活用した地域課題の解決に取り組んでいる「Code for Japan(CfJ)」のカンファレンスイベント「Code for Japan Summit 2014」が10日から12日、東京大学駒場リサーチキャンパス(プレイベントはGoogle六本木オフィス)にて開催された。

CfJは、アプリケーション開発などITを活用した地域課題解決に取り組むコミュニティの支援を行う非営利団体で、2013年11月に設立された。同イベントには、CfJに賛同する各地のコミュニティ(ブリゲイド)が集結したほか、自治体や政府関係者、シビックテック(“市民参画”と“テクノロジー活用”を組み合わせた造語)に興味のあるエンジニアやデザイナー、学者、NPO、企業など幅広い人が集まった。

最初に登壇したのはCfJ代表理事の関治之氏。「初開催の今回のテーマは『Connect』です。なぜこのテーマにしたかというと、テクノロジーの人とだけではなくいろいろな人とつながりたい、という思いを込めたかったからです」と語る関氏は、CfJの趣旨や取り組みについて詳しく紹介した。


イベント会場となった東大駒場リサーチキャンパスのコンベンションホール


CfJ代表理事の関治之氏

「Code for Japanは自分たちの街の課題を、シビックテックで解決するコミュニティを支援するための組織です。日本は今、少子高齢化をはじめ、いろいろな課題があり、従来型の『お上がなんとかしてくれる』という仕組みには限界が来ています。それではどうするかというと、行政に不平不満を言うのではなく、『一緒に手を動かしましょう』『自分たちのスキルを活用して課題を解決しましょう』というシンプルな考え方で取り組んでいます。地域の課題は、当事者にしか解決できません。だから、『ともに考えて、ともにつくる』ことが必要であり、行政や自治体職員、市民、技術者、デザイナー、起業家など多様な人が参加し、組織の立場を超えてフラットな場で解決する、そしてそれを楽しくポジティブにやろうと取り組んでいます」(関氏)

楽しくポジティブに、という姿勢は今回のサミットでも随所に感じられた。初日の10日にはプレイベントとして懇親会が開かれ、さまざまな講演やディスカッションが行われる“コアデイ”の11日の夜にも再び開催。コアデイでは子ども向けに「レゴロボットプログラミングワークショップ」や、プログラミング教室「CoderDojo」なども開催され、家族ぐるみで参加できるイベントとなった。また、セッションの内容は学生やデザイナーによるグラフィックレコーディングが行われ、講演やディスカッション内容が親しみやすいイラストを交えて記録された。

そして最終日の12日は、アンカンファレンス(参加者自身がテーマを出して話し合うカンファレンス)が開催された。関氏によれば、初日は「Connect」、2日目は「Input」、3日目は1日目と2日目の内容を踏まえての「Output」を行う日、ということでこのような構成にしたという。会場には、3日目にディスカッションしたいテーマを募集するコーナーが設けられて、参加者が次々に付箋紙にテーマを書き込んでボードに貼っていった。なお、3日目には、被災地支援を進めるエンジニアのコミュニティ「Hack for Japan」主催の「防災・減災ハッカソン」も併催された。

「各地でCode Forのコミュニティが立ち上がっており、われわれはそれを「ブリゲイド(Brigade)」と呼んでいます。それぞれの地域で地元の人が解決するという仕組みになっていて、CfJはそのサポートをしています。もうひとつはフェローシップという自治体向けの人材派遣サービスを行っています。われわれのミッションは、シビックテックが持続可能になるためのエコシステムを作ることです。地域の活動を継続させていくことはとても難しく、そのための取り組みとして、最近ではコーポレートフェローシップという取り組みも福井県鯖江市で始めました。これは、企業のリーダー人材が行政職員として3~6カ月勤務し、行政のオープン化を支援するという取り組みで、来年から進めていきたいと思います」(関氏)


各セッションではグラフィック・レコーディングを実施


会場ではアンカンファレンスのテーマを募集

続いてパートナートークとして、グーグルの恩賀万理恵氏(公共政策部)が登壇。「グーグルは東日本大震災の直後、安否情報の確認に『パーソンファインダー』というサービスを立ち上げました。このときは5000人以上のボランティアの方に、避難所にあった名簿の写真を見て手打ちで入力してもらうことにより、オンライン上で人を探せるというサービスを実現したのですが、これは人々の力を感じるきっかけにもなりました。私たちはこのようなシビックテックの活動を応援して、なにか一緒にできないかと考えています。たとえば米国では、市民が自分の地域の選挙情報を整理して使えるようにするツール『Google Civic Information API』を提供しています」と恩賀氏。同氏は今回のイベント参加者全員に「Google Cloud Platform」500ドル分のクレジットを提供すると発表し、「これをきっかけに、ぜひなにかツールやサービスをつくってみてください」と語った。締めくくりとして、「グーグルは、イノベーションを生むうえで、関わる人や意見の多様性を重要視しています。今回のイベントでも、いろいろな人が声を上げて、つながってイノベーションを起こす。このサミットが、そんなきっかけの場になればいいと思っています」と語った。


グーグルの恩賀万理恵氏

■ユーザー体験の価値を高めることの重要性

キーノートスピーチのひとつめは、米国のシビックテックコミュニティ「Code for America」のAndrew Hyder(アンドリュー・ハイダー)氏。Hyder氏は、「われわれはオープンソースの技術を使って、自治体のサービスを使いやすいものに変えていくことに取り組んでおり、インターネットを使って街を安全で楽しいところにしたいと考えています。そして多くの人が同じ考えを持っていたことを知り、シビックテック活動を始めました。アメリカではCode For Americaがシビックテックムーブメントの核になっており、アメリカのすべての市を、ユーザー調査を通してより良くしていこうと取り組んでいます。われわれが活動を始めて4年間が経ちますが、その経験を活かしてCode for Japanのみなさんを支援していきたいと思います」と語った。

続いて、パートナー企業のひとつである朝日新聞社の山田亜紀子氏(ブランド推進本部マーケティング部)が、2014年3月に開催した「新聞社データジャーナリズム・ハッカソン」について紹介。「朝日新聞は、新聞社としてなにかできることはないかということで、データジャーナリズム・ハッカソンを開催しました。このような取り組みを私たちは始めたばかりですが、来年3月にも開催します」と語った。


「Code for America」のAndrew Hyder氏


朝日新聞社の山田亜紀子氏

キーノートスピーチの最後に登壇したのは、SIXの野添剛士氏(代表取締役&クリエイティブディレクター)。野添氏は「CODE×CREATIVE~心に残る体験の作り方~」と題して、ユーザー体験を高めること、ブラッシュアップすることの大切さについて語った。「クリエイティブの世界では、『The Idea is King』(アイデアこそすべて)という言葉がよく言われますが、2010年以降のソーシャルの時代は、『The Experience is King』、つまりアイデアをベースにどれだけ体験の価値を高められるか、そのクオリティをどこまで高められるかが最大の鍵を握っていると思います。アイデアを思いついて、それをコードで解決する方法を考えついた。でも、そこからどういう風に人の心を動かすものに変えられるか。じつはそこが一番、サービスとして広まっていけるかの重要なポイントになると思います。どんなにすばらしいアイデアを思いついてそれを実現できたとしても、それがユーザー体験として中途半端だったり、うまくできていなかったりしたら、魅力が半減してしまう。この視点をもつと、みなさんのつくるものが世の中にもっとインパクトを与えられるのではないかと思います」と語った。

その事例として、成層圏に打ち上げたスマートフォンにSNSのユーザーからライブでメッセージを送って表示し、その模様をライブストリーミングする「SPACE BALLOON PROJECT」や、巨大な東京の都市模型に3Dプロジェクションマッピングする「TOKYO CITY SYMPHONY」、スマートフォンで再生すると、自動で歌詞を読み込んでBluetoothスピーカー上に表示する「LYRIC SPEAKER」、カーナビから収集した急ブレーキ多発地点データ、交通事故情報、地域住民からの投稿情報を地図上に掲載し、マップ上に重ね合わせる「SAFETY MAP」など、これまで手がけたプロジェクトを紹介した。

締めくくりとして、野添氏は、「『できた』というだけでは、登山で言えばまだ5合目で、つくったときにあと5合をどうやって登るかを考えることが大事です。そして、ブラッシュアップし続けるために必要なことは、良いサービスを見たときに『いいな』と思うだけでなく、『SHIT!』つまり『やられた』と悔しがる気持ちを忘れないこと。その気持ちにすなおでいてほしいと思います」と語った。


SIXの野添剛士氏



■各地のブリゲイドがシビックテックの取り組みを紹介

キーノートスピーチに続いては、各国の状況について紹介する「インターナショナル」、各地のブリゲイドの活動を報告する「Brigade Showcase」、「コミュニティデザイン」の3テーマにわかれてセッションが行われた。「Brigade Showcase」では、「Code for Kanazawa」の福島健一郎氏(アイパブリッシング株式会社)が、Code for JapanのBrigadeとはなにか、ブリゲイドになったときの支援としてなにがあるのか、ブリゲイドになるための基準について解説した。

「ブリゲイドとは、CfJが提供する支援プログラムに正式に参加している地域コミュニティを意味します。ブリゲイドになると、各地のコミュニティ間における情報共有の促進や、ネットワーキングの支援、技術/人材サポートなどの支援を受けられます。毎月第1水曜日にはオンラインミーティングを実施しており、事例発表や近況報告をシェアすることにしています。ワークショップも毎月開催しており、ブリゲイド活動に役立つテーマについて講義などを行っています。また、年に一度、ブリゲイドが集まる『Brigadeミートアップ』という大会も開催しており、情報交換やディスカッションを実施しています」と福島氏。ブリゲイドになるための基準は「コミュニティであること」「市民が自分たちで市民の問題を解決すること」をベースとして、「定期的な活動をする」「その活動を発信する場を準備する」「活動を発信する」「CfJのイベントにはできるだけ参加する」の4点を条件として挙げた。


「Code for Kanazawa」の福島健一郎氏

続いて福島氏は、自身が立ち上げた石川県金沢市の「Code for Kanazawa(CfK)」の活動について、誕生から現在までを振り返った。福島氏は、米国でアプリ開発による地域解決に取り組んでいるCode for Americaの活動に感銘を受けて、2012年夏から設立の準備を開始。2013年5月にCfKを設立した。CfKは日本で最初のCode forコミュニティとなり、2014年2月28日には一般社団法人化した。現在は45名のプロジェクトメンバーを擁する大きなコミュニティとなっているが、設立当初はさまざまなエンジニアに声をかけたものの、その趣旨は今ひとつわかってもらいにくかったという。そこで福島氏が行ったのは、アプリ開発によって具体的な実例を見せることだった。

そうして生まれたのが、どのゴミをいつ捨てればいいのかが簡単にわかるアプリ「5374.jp(ゴミナシ・ジェーピー)」だった。開発にあたっては、市民が使うものなので、テクノロジーだけでなくデザインも大事にした。特徴としては、ゴミをいつ捨てればいいのかがひと目でわかる、どのゴミがどういう種類のゴミかはすぐにわかることで、使いやすいUIを追求している。さらに開発後、ソースコードをGitHubで公開したところ、全国各地でこれをベースとしたアプリが生まれて、現在は50都市以上で採用されている。なぜここまで普及したかということについて福島氏は、シンプルでデザインがよく扱いやすいことを挙げた。現在は英語版のページもつくり、アプリの他言語化がはじまっているという。最後に福島氏は、「アプリ開発のためには多様性のあるコミュニティをつくっていく必要があり、エンジニアだけで満足しているのはダメで、たくさんの人を巻き込む必要があります」と締めくくった。


「5374.jp」

次に登壇したのは、「Code for Aizu(CfA)」の藤井靖史氏(会津大学 リサーチ・アドミニストレーター)。藤井氏は、CfAのロゴが入った法被を着て登場した。「この法被は地元の祭りに参加するために作ったものです。このように、街の人に『ITを使いませんか』と聞くのではなく、自分たちの方から街へ入っていくという姿勢で取り組んでいます」と藤井氏。

「CfAは、自分がもつスキルや立場を使って、地域をより楽しく豊かにすることを目指しています。基本的にCfAはプロジェクトベースであり、各人の活動内容はバラバラで、その集合体がCfAだと考えています。それではCfA自体はなにをしているのかというと、市役所とのワーキンググループや勉強会、地元の企業も含めた意見交換などを行っています。これまで、地域課題を解決するアプリとして、消火栓のアプリや、バスのアプリなど、町内で使えるアプリをつくったほか、学生にアプリ開発のスキルを学びながら市の課題解決を図れる『OpenAppLab』も開設しました。また、CfAはビジネスも行いたいと考えていて、ベンチャー企業との共同研究や新たなビジネスモデルの研究も行っていきたいと考えています。とにかく会津地域だけでかなり多くのコミュニティがあるので、それらをまとめる組織になりたいと思っています」と語る藤井氏は、CfAを「柔らかい地域革命」を起こせるムーブメントにしていきたいと語った。


「Code for Aizu」の藤井靖史氏

「地域革命のひとつとして、いま、会津では組織のクラウド化が起こっています。CfAでは部門や企業を超えてさまざまなプロジェクトが進行していて、それぞれ独立した活動がゆるやかにつながっているという状況で、地域課題がインプットされるとCfAの中で消化されて、アウトプットされるという状況を目指して取り組んでいます。そして地域革命のふたつ目は『文句より行動』。実現したいことがあったら、とにかくまず行動していこうということで、具体的な成果を重要視しています。そして行動に向けたアクションとしては、ITの側が『地域から学ぶ』という姿勢が大事だと思っています。3つ目は、『課題(ネタ)を楽しむ』こと。いままで仕事というのは発注者と受注者との関係でしたが、地方、とくに震災後の福島では、『この仕事を通じて福島をどうしよう』と考える人が多いです。地方は課題が豊富で、自分の頑張りで街が成長していることを感じ取ることができます。課題を“ネタ”として考えることで、街はもっと面白くなると思います」(藤井氏)

このほか、各地のブリゲイドによるライトニングトーク(ショートプレゼンテーション)が行われ、Code for Ikoma(奈良県生駒市)によるOSMのマッピングパーティの紹介やCode for Nanto(富山県南砺市)による公共交通ハッカソンの紹介など、各地の事例が紹介された。

このあと、CfJにおいてブリゲイドの支援を担当していた鈴木まなみ氏がチェアを努めて、パネルディスカッションを実施した。ここでは各ブリゲイドが、「コミュニティの作り方」をテーマに、コミュニティおいて大切だと思うことや気をつけていることを紹介した。鈴木氏はディスカッションのまとめとして、「地域それぞれに合ったコミュニティの形があるので、どこかのコミュニティの真似をするよりも、自分たちの地域に合ったコミュニティをメンバーで話し合って、ほかのコミュニティの良いところを吸収しながら作っていくのがいいのではないかと思います。たとえばしっかりした組織として作ろうと思ったら福島さんに、ゆるくつながりながらコミュニティを形成しようと思ったら藤井さんに話を聞くとか、いろいろな人に話を聞けるというのがCode forコミュニティのすばらしい点だと思うので、CfJの中のコミュニティをうまく活用しながら、自分に合ったコミュニティを地道につくっていってほしいと思います」と語った。


各地のブリゲイドによるパネルディスカッション

■町民へのタブレット配布プロジェクトにCfJが協力

続いて、「オープン/オープンガバメント」「震災復興」「テクニカル」という分野に分かれてセッションが行われた。「震災復興」の中では、福島県浪江町の陣内一樹氏が、分散避難している町民にタブレット端末を配布するにあたって、町民向けのアプリ開発を行った「Code for Namie」プロジェクトについて報告した。


福島県浪江町の陣内一樹氏

「今までの例を見ると、行政によるこの手のプロジェクトは成功させるのがとても難しかったのですが、分散避難している町民をつなげるにはこのような取り組みが必要ではないかと考えました。私たちは、まずCode for Japanの関さんに相談しました。そしてCfJの『ともに考え、ともに作る』という理念に共感しました。CfJは私たちと一緒にリスクを負って一緒にやりたいと言ってくれて、ただサポートしてもらうだけでなく、2名のフェローも送っていただきました。そして、どんなアプリをつくるかを考えるために、アイデアソンとハッカソンを東京と福島で合計6回も開催し、実際にプロトタイプをつくって町民にも実際に試してもらいました。そうして『リアルタイム線量マップ』や行政・生活情報発信、フォトスライドショー、福島県内ニュースなど必要な機能を決めました。タブレットの配布は2015年3月に実施する予定で、それに向けて現在アプリ開発に取り組んでいます」と陣内氏。

陣内氏は公共サービスにおける質の向上のために必要な要素として、「アイデアソンやハッカソンの開催」、「人間中心設計」、「アジャイル開発」の3点を挙げるとともに、今後の課題として、「給与水準」「外部依存度の高さ」「町民の主体的参加」の3点を挙げた。「ふつうはCode forというとブリゲイドを意味しますが、Code for Namieの場合はプロジェクトです。今後、タブレットを配布していく過程で、町民の方に参加していただけるような形にしていきたいと思います。」と語った。

今回のCode for Japan Summit 2014は、Code for Japan関係者だけでなく、シビックテックに興味のある人すべてに開かれたオープンなイベントであり、上記のようなCode for Japan関連の話題のほかにも、フリーな地理情報データを作るオープンストリートマップ(OSM)や、データ・ビジュアライゼーション、データポータルソフト「CKAN」などの話題や、オープンデータ/オープンガバメントの解説や事例、そして韓国におけるCode for Seoulや台湾の事例など、さまざまなセッションが行われた。CfJ関係者同士が交流や情報交換を行う場としてだけではなく、外部の人から学ぶ場でもあり、そしてこれからシビックテックに取り組もうと考えている人が、新たな一歩を踏み出すきっかけとなるようなイベントでもあった。初開催とは思えないほど濃い内容となったこのサミットが来年以降、どのように発展していくのか注目される。

■URL
Code for Japan
URL:http://summit.code4japan.org/
2014/10/14



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