メディア革命を率先するプラティシャーモデルの参加条件(後編)

メディア革命を率先するプラティシャーモデルの参加条件(後編)

2014年10月20日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

前編はこちら>メディア革命を率先するプラティシャーモデルの参加条件(前編)

プラティシャーとは、プラットフォームとパブリッシャーの両方の性質を兼ね備えた事業者のことである。

Webサイトの構築・公開・更新機能(CMSと呼ぶこともできる)を自社の社員や関係者にのみ提供するのは、通常のメディア企業(パブリッシャー)である。クライアントのWebサイトを構築して運営を代行するSIerなどの委託企業も同じだ。

つまり、プラットフォームではない。プラットフォームは特定の相手ではなく、広く無条件に自社の機能(CMS)を公開して利用させる。

この意味でいえばアメーバブログやライブドア、FC2などのブログプラットフォームは、プラットフォームであることはまちがいないし、さらに自社CMS上で制作した自社メディアを使って広告ビジネスを行っている。その意味ではパブリッシャーであると言って差し支えないだろう。

とはいえ、Mediumのような最新型のプラティシャーモデルとなにかが違うと感じるのはなぜか。それは、明確な「編集」への意思であると僕は考える。アメーバブログにしてもライブドアにしても、オープンなプラットフォームを使って書き手を集め、広告媒体としてのメディアをつくり上げているが、コンテンツの質に対する担保は各ブロガーに委ねられている。

MediumやGawkerといった代表的なプラティシャー企業は、テーマの選定とコンテンツの品質保持に対して強い意思があり、方向性をもっている。実際にMediumは優秀な編集者を集めて、良質なコンテンツの制作に多大なコストを負担している。

つまり、従来のブログプラットフォームたちがメディア的要素をもち、一見してプラティシャーモデルと見分けがつかないものの、彼らが結果的に集積したコンテンツをメディア化しているのに対して、いま台頭してきているプラティシャーたちは意識してコンテンツを集約している。集積と集約は違う、後者には明らかな編集者としての意思がある。

さらにもうひとつ、著しい変化があるのは、UIに対するプラットフォーム側からの強い関与だ。従来のブログプラットフォームは、個々のブログの制作者・運営者の嗜好に合わせたコンテンツの書き方、表示の仕方を許しており、オープンプラットフォームだからこその自由があったが、Mediumなどの新興企業は表現方法における書き手の自由度を著しく下げている。

これは一見サービスとしての欠陥のようにも受け取られがちだが、投稿できる写真の大きさやフォントサイズ、カラーなどの変更は、ほぼできないといっていいくらい制限されている。どういうことかというと、Mediumら新興のプラティシャーは、メディアとして読み手を強く優遇し、(特にモバイルで)もっとも読みやすいコンテンツの表示形式を設定して変更できないようにしている。読み手にとって最大公約数的に最適化された表現方式を指定し、その表現方式に即したエディタを書き手に提供しているのである。

コンテンツだけでなく、見栄え・読みやすさに対しても強く関与することで、プラティシャーはみずからをメディアとして成立させようとする。この強い意思と、それを実現するためのテクノロジーこそがプラティシャーの条件であるのではないか。

アメーバブログらブログプラットフォームが、自由度の高いCMSを提供することで、書き手がなんでもできる状況をつくったことで、読み手にとって不都合な表示をもつブログメディアが増えた。これに対してプラティシャー企業たちは書き手の自由を制限し、読み手にとって最適化された表現方式を書き手に押し付けることで、メディアの品質を高めるのだ。

もちろん、書き手にはその自由の制限を不都合に感じさせない。今まで以上に書きやすい、という良さを担保することで、不自由さを積極的に受け入れさせる。

このあたりの感覚と手際は、Apple製品を彷彿させる。バッテリーの交換もできないApple製品に対して文句を言うユーザーも少なくないが、多くのクリエイティブなユーザーをAppleは引きつけることに成功している。機能を削り、ユーザーの自由を削ぐことでAppleは高い品質を保ってきたからだ。


まとめよう。多くのプラティシャーは読み手に最適なメディアをつくるために、あえて自社のCMSの機能を制限している。その代わり書きやすさ、更新しやすさを優先した開発を行っている。

テクノロジー面でも編集というソフト面でも、メディアづくりに対して強い意思と方向性をもっている。これが真にプラティシャーと呼ぶための条件であると考えている。


Gawker
http://gawker.com/




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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