Apple製品ラインアップの複雑化は失速への予兆

Apple製品ラインアップの複雑化は失速への予兆

2014年10月27日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

2014年10月の製品発表では、多くの人が待ち望んでいたMacBook Air 12インチRetinaモデルは出ず、Mac OS X Yosemiteの正式リリースと、iPadの新製品などの発表にとどまった。

スマートフォンにおけるイノベーションは、多くの人の予想を超えるほどの進歩を見せることが難しくなったが、iPhone 6/6 Plusの大型化によってタブレットの売上も鈍化している。その結果、AppleのタブレットはiPad Air 2、iPad Air、iPad mini 3、iPad mini 2、iPad miniと5種類が販売されるようになり、ネーミングの混乱も見られるようになっている。

MacBookにおけるAirとProはかろうじて理解できる。軽い(もしくは薄い)ノートブックと、プロ用のハイスペックノートという区別は名称を聞いただけでわかるはずだ。しかし、Airとminiはともに薄く小さいことは伝わるが、はたしてどちらが軽いのか? という問いに明確に答えることができない、マズいネーミングだと思う。

さらに、製品の世代ごとに(iPad Air とiPad Air 2のように)数字をつけるのはよいとして、それを併売するところにAppleの販売戦略の混乱がある。いたずらに名称を増やすのは、ブランディング上はいかにもマズいやり方だ。古いモデルを併売すること自体は問題ないが、それは「型遅れ」と呼んでおけばよい。

ジョブズ時代のAppleは、ポルシェやBMWなどの高級車、それもロールス・ロイスやベントレーのような超高級車ではなく、超富裕層とまではいかないビジネスエグゼグティブにも背伸びすれば入手できるというレベルの高級ブランドに自分をなぞらえた。製品ラインアップの少なさ――というより絞り込みは、彼らのブランディングを巧みにまねたものだった。

たとえばBMWであれば、創業当時からの伝統芸として4ドアセダンの中型車を3シリーズと置く。それよりも軽量・小型なモデルを1シリーズ。3シリーズより大型かつラグジュアリーなモデルを5、7とする。そして基本としてセダンに奇数を、クーペに偶数を割り振る。したがって、3シリーズの車格のクーペを4シリーズ、5シリーズのクーペを6シリーズとよぶ。

最近ではBMWでさえもブランド拡張の罠(自分たちの製品戦略を市場ニーズに合わせてしまいすぎて、いたずらにラインアップを拡張してしまう傾向)に陥っているが、それでも製品ナンバーはあくまで製品の性質や機能などの序列を明確に示す。現在のAppleのナンバリングは、単なる世代を示す番号でしかない。

これまでのAppleのやり方からすると、来年にはiPhoneのマイナーアップデート版を出すと思われるが、iPhone 6Sはよいとして、iPhone 6 Plusは、iPhone 6S Plusなのだろうか?それともiPhone 6 Plus Sなのだろうか?どちらにしても、読みにくくて仕方ない。車であればマイナーアップグレードをしたとしても、BMW3シリーズ(たとえばBMW328i)の新型、と旧型、もしくは何年式という区別になるだけだ。

ジョブズ復帰以前のAppleはあまりに多種類の製品をつくりすぎて、ラインアップに混乱をきたしていた。ジョブズは復帰するなり、製品をコンシューマ用ノート、プロ用デスクトップ、プロ用ノート、プロ用デスクトップの4つに絞り込み、ほかの製品はスクラップにした。その後iPodやiPhoneなどの別カテゴリの製品を開発したが、カテゴリの拡張はさておき、同一カテゴリ内の製品ラインアップの拡張は、昔通った衰退への道を通っていると思わないのだろうか。

僕自身はApple製品を愛してやまないヘビーユーザーだが、最近のAppleの所作にはどうしても不安を感じざるを得ない。ソニーやサムスンが自滅しているためAppleの強さが目立つが、実はAppleが強いのではなく他社が弱いだけの状態になっているのではないか。そんな気がしてならないのである。






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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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