オープンデータで地域課題を解決、川崎市宮前区でアイデアソン開催

オープンデータで地域課題を解決、川崎市宮前区でアイデアソン開催

2014年10月28日
TEXT:片岡義明

オープンデータとして公開されている地理空間情報(G空間情報)を活用するサービスやアプリの創出を目的としたアイデアソンが27日、神奈川県川崎市の宮前区にて実施された。同アイデアソンは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應 SDM)と株式会社フューチャーセッションズ、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の3者が、国土交通省事業である「G空間未来デザイン」プロジェクトの一環として行っているイベントで、今回のアイデアソンのほかにも、12月にはハッカソン、2015年1月にはマーケソン(マーケティング×マラソン)などのイベントが予定されている。

アイデアソンに先立って、午前中にフィールドワークとして3時間のバスツアーが実施された。このフィールドワークには約50名が参加し、宮前区の課題を考えるうえで参考となる3つの施設を巡った。ひとつめの施設は住宅地の中にあるキウイ農園で、都市農園を運営するうえでの課題などについて話を聞いた。ふたつめは、急坂が多いという宮前区の特徴を見てもらいたいということで、坂の上にある団地を訪れた。3つめに訪れたのは、区の農産物を取引する「北部市場」で、参加者は市場の様子を見学したあと、食堂街で昼食を楽しんだ。


宮前区内を巡るフィールドワークを実施


キウイ農園の見学

フィールドワークを終えたあとは、アイデアソンの会場である宮前区役所に移動した。ここでさらに人数が加わり、アイデアソンの参加者は総勢で約100名になった。今回のテーマは、「出掛けたくなる、みんなで健康になる街」と「地域資源の戦略的活用ができる街」のふたつで、地元在住者や企業、NPO、区役所スタッフに加えて、エンジニアや研究者、学生などさまざまな人が参加した。


アイデアソンの会場となった宮前区役所

アイデアソンでは、最初に“インスピレーショントーク”として、川崎市の秋山敏之氏(まちづくり推進部 企画課)が宮前区の課題について紹介したほか、GLOCOMの庄司昌彦氏がオープンデータの事例について紹介した。さらに、横浜市の関口昌幸氏(横浜市 政策局 政策課 政策支援センター)が、「自治体がオープンデータを推進する意義について」というテーマで講演し、横浜市のさまざまな事例を紹介した。


ファシリテーターの野村氏

続いてフューチャーセッションズの野村恭彦氏のファシリテーションにより、本格的なアイデア創出が始まった。まずは近くの人と4人1組になって対話する「グループ対話」を実施。「宮前区を『出かけたくなる街』『みんなで健康になる街』にするために、どんなアイデアがあるだろう」「宮前区を『地域の資源や力を活かす街』にするために、そんなアイデアがあるだろう」というテーマについて議論を行った。

続いて、同じ思いをもつ人がチームをつくる「マグネットテーブル」を実施。参加者それぞれが、テーマに関連して自分が実現してみたいアイデアを用紙に大きめの文字で書き、それを見せ合いながら、「似たことを書いている人」「一緒になると化学反応を起こせそうな人」「自分の書いたものを捨てていいと思える案を書いている人」を見つけて4人1組のチームを組んだ。

これらのチームの中でそれぞれ対話し、チームごとにひとつのテーマを決定し、ブレインストーミングを実施した。「どうしたら、◯◯(応援したい人)のために、◯◯できるだろうか(困りごとの解決)」というテーマで大きな紙に議論の結果を書き込み、それを実現するアイデアを書き込んでいった。


大きな紙にアイデアを書いて貼り付けていく作業

ここで出たテーマは、「どうしたら、区が所有する公共施設を使ってもらえるか」「どうしたら子どもを楽しく、健康的に安心して遊ばせる仕組みと場ができるか」「どうしたら仕事が忙しい人に農業体験をしてもらえるか」「どうしたら運動不足の人に運動したいと思うきっかけを与えられるか」「どうしたら坂が嫌いな人が楽しめるか」など。

これらの課題についてさまざまなアイデアを出し合ったあとは、チーム内で投票を実施して評価の高いアイデアをピックアップし、アイデアを実現するための「ポスター」を各チームが描き込んでいった。これは「そのサービスが開始されるときに、宮前区役所に貼られるポスター」を想定したもので、サービス名や課題、アイデアの内容、メリットなどがカラフルなイラストや飾り文字で表現された。

ポスターづくりの最中に、会場の一角に設けられたのが「オープンデータデスク」だ。この窓口は、「このようなオープンデータはあるか」といった疑問を尋ねたり、「こんなオープンデータを公開してほしい」という要望を伝えたりするための窓口で、多くの相談者で賑わっていた。


オープンデータデスク

完成したポスターは、全部で21点になった。この中からいくつかピックアップして紹介する。

■「MIYAMAE 山あり、坂あり、ポイントあり」
坂を楽しく登るためのサービス。「音楽坂」「クイズ坂」「アスリート坂」などを決めて、たとえば「クイズ坂」の場合は登りながらクイズに答えるとポイントがもらえたり、「アスリート坂」では登った回数を競い合ったりする仕組みを提供する。坂を通じて人と地域がコミュニケーションを取ることをコンセプトにしており、クイズの設問などは地元の人の知識をもとに作成する。


「MIYAMAE 山あり、坂あり、ポイントあり」

■「助けられたいを助け隊」
困った人と助けられる人をつなぐマッチングアプリ。「買い物をしたけど重くて持てない」という高齢者を若者が助ける、といったことが可能となる。また、歳の差が離れているほど多くのポイントがもらえる「おともだちポイント」も用意する。


「助けられたいを助け隊」

■「宮前コンシェルジュバス」
バス停情報や市政だより、生産者の声など、すべての情報をコンシェルジュ化して、行きたいところへのナビゲーションに役立てたり、その時期に農園で買える作物の案内などを行ったりする。アプリに連動したコンシェルジュバスも運行する。


「宮前コンシェルジュバス」

■坂とり合戦開幕
坂をテーマとしたスマートフォンの陣取りゲーム。回数を多く登ったり、坂を速く登ったりしてポイントを入手して昇格を目指す。日常の運動不足を楽しく解消するとともに、坂の上と下をつないで地域に貢献する。


「坂とり合戦開幕」

今回創出された21のアイデアは、フューチャーセッションズが提供するWebのプラットフォーム「G-OUR FUTURES」で共有され、アイデアソン終了後も引き続き、参加者がアイデアごとに議論できる場として提供される。今後はそれをベースに、ハッカソンやマーケソンへとつなげていく形となる。今回のプロジェクトを主催する慶應SDMの神武直彦准教授は、「とてもいいアイデアが数多く生み出されましたので、ここで終わってしまうのはもったいないと思います。これらのアイデアを形にして動かすというステップに行っていただきたいので、ぜひハッカソンにご参加ください」と語った。

今後の予定としては、12月中に二子玉川でハッカソンが予定されており、それに先立って11月8日と12日には、ハッカソンに行ったことのない人や、事前に技術的なことについて質問したい人を対象とした「ハッカソン入門セミナー」の開催も予定している。ハッカソンは今回のアイデアソンに参加していない人でも参加することが可能で、エンジニアだけでなくプランナーやデザイナーにも幅広く参加を呼びかけている。さらに、年明けの2015年1月には、ハッカソンで創出したアプリやサービスを持続的なサービスとして運用、普及させるための「マーケソン(マーケティング×マラソン)」も開催する。

フィールドワークを織り交ぜたアイデアソンや、創出されたアイデアを共有できるプラットフォームの構築、ハッカソン未経験者を対象としたセミナーの事前開催、成果を具体化するためのマーケソンの実施など、これまでにないさまざまな試みがなされている「G空間未来デザイン」プロジェクト。今回生み出されたアイデアがアプリやサービスとしてどのように実現されるのか注目される。

■URL
URL:http://keiosdm.main.jp/gfdesign/
2014/10/28



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