サービス・プロダクト制作者にとって必要な3つの視点(前編)

サービス・プロダクト制作者にとって必要な3つの視点(前編)



インターネット業界にいると、さまざまな新サービスやツールが登場してくることには食傷気味というか、かなり当たり前のような気分になるものだ。しかし、そういう我々だからこそ、構造や性能の劇的な変化や、まったく見たことがなかったようなアプローチにばかり注目して、市場の反応や需要の大きさについて過大評価してしまうことが多くなりがちだ。

Google Glassなどのウェアラブルコンピュータは、この数年大きな話題を呼んできたにも関わらず、結局市場をつくれずに失速しそうな気配であるが、これはその最たる例かもしれない。誤解と批判を恐れずにいうと、筆者はジェスチャーによる操作を必要とする指輪型のデバイスも同じ運命をたどると思っている。指輪型やブレスレット型は、ヘルスケアのような特定の目的に対する、身体情報の発信(たとえば心拍数のような情報)に特化されることでしか、需要は生めないと思っている。

ハイテクツールは、意外なほどに、人間的な理由によってその運命を決められるものだ。パンツのバックポケットに入るかどうか、使っている姿が奇異に見られないかどうかなど、本体の機能とは別のところに需要を起爆させるフックが存在する。

話を変えるが、僕はもともとバイク好きだ。最近久しぶりに大型バイクを手に入れた(しかも旧車なのでかなり重い)こともあって、好きの度合いに拍車がかかっている。その流れで、MotoGP、つまりモーターサイクルの世界のF1と呼べるレースをテレビ観戦したのだが、10年前のそれとの大きな違いに非常に驚いた。

何が驚いたかというと、その乗り方である。バイクというものはハンドルを切って曲がるのではなく、バイクを傾けて曲がる。10年前のレーシングバイクでは、せいぜい40~45度だったのが(それでも驚異的だが)、いまでは60度以上まで傾けている。ほとんど倒れているといっていいほどの角度だ。結果として、10年前なら膝を擦ることが過激な乗り方の証明であったものが、今では膝どころか肘を擦る。ライダーによってはヘルメットさえ擦りそうなのだ。

ライダーの乗り方を変えたのは、タイヤ性能の劇的な向上だ。名刺一枚ぶんほどしか道路に設置していないバイクのタイヤだが、どの角度でも路面をグリップできるからこそ、60度を超える角度でも転倒せずにバイクとライダーを支えることができる。

逆にいうと、いまでは時速350kmと言われるほど速くなったMotoGPのバイクだが、エンジンやブレーキといったバイク本体の性能向上もさることながら、基本的に交換部品・消耗品であるはずのタイヤが、ライダーのパフォーマンスにより大きな影響を与えているわけだ。

何がいいたいかというと、道具の使い勝手を決定づける要点は、意外にも道具の本質的な機能や性能とは異なるところにあることが多い、ということだ。それはバイクでもハイテクガジェットでも同じだ。もちろんインターネットサービスのようなソフトウエアでも、である。この要点、Key to useを発見することが重要だ。ユーザー自身がそのKeyを受け入れ、さらにみずからの使い方や挙動を変えてくれるような、そういうKeyだ。

世の中に受け入れてもらいたいと願う、なんらかのプロダクトやサービスの開発に従事する我々としては、その性能や仕様にだけ目を向けるのではなく、このKeyを探し出し、ユーザーの気持ちのロックを外すことに集中する必要があるだろう。

中編はこちら>サービス・プロダクト制作者にとって必要な3つの視点(中編)




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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