サービス・プロダクト制作者にとって必要な3つの視点(中編)

サービス・プロダクト制作者にとって必要な3つの視点(中編)

2014年12月1日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

前編はこちら>サービス・プロダクト制作者にとって必要な3つの視点(前編)



『スティーブズ』(http://comishos.shogakukan.co.jp/cp/?id=ume-steves)というコミックが、ビッグコミックスペリオールという雑誌に連載されている。最近第1巻が電子書籍として発売されたので、ダウンロードして読んでみた。

コミック類は紙の単行本優先で、デジタル化されるに数カ月かかる作品も多いなか、プリント・デジタルが同時に発売されたことはなかなかに珍しい。珍しいが、かくあるべし、だ。

その『スティーブズ』の中で、Appleの初期の製品をすべてひとりで設計したスティーブ・ウォズニアック(通称ウォズ)が、ジョブズのはたしている役割について、以下のように語っている。

「世界を変えるにはふたつのことが必要だ。ひとつは、正しいものをつくること。もうひとつは、世界を正しくすること。自分は前者を、スティーブ・ジョブズは後者をしている」のだと。

これはけだし名言である。

サービス・プロダクトをつくっていくうえで、世の中にとって必要な機能や仕様を設計することはもちろん大事なことだが、実際にはなかなか人は変化を受け入れないから、新しいサービスやプロダクトを手に取らないし、なじまない。

その抵抗を緩和し、拒否を承諾へと変えていくためには、新しいサービスやプロダクトのすばらしさを、あらゆる手を使って伝えて共感してもらわねばならない。

開発者、それも優秀な開発者たちにありがちなことだが、セールスやマーケティング、ブランディングなどの非エンジニアリングチームへの理解が足りていないことが多い。製品を売り、顧客に届けるという作業なしには開発が完了しないのだということを、最初から頭に入れたうえで設計に取りかかるべきだろう。

逆にいえば、ジョブズのようにエレガントな設計や仕様にすなおに惚れ込み、そのすばらしさを理解し、そしてその感動を他者にも(多少強引でも)共感させようとする(エンジニアでもない)人間がどれだけ少ないかを理解するべきだ。

前回は、ユーザーが製品を使いはじめ、愛しはじめるきっかけ、フックになるものはむしろ性能や機能そのものではなく、サイズであったり持ちやすさであったり、本質的ではない要素である場合が多いと述べた。しかし今回は、すばらしい製品は、高性能なメモリやCPU同様に、その製品を売るために世界を説得する=正しくすることに夢中になる営業であったり、マーケティングスタッフであったり、そういう人間が不可欠であると強く訴えたい。

当たり前と言うなかれ。そういう当たり前の要素を気づかずに開発にあたっているチームは、世界中そこいらじゅうに存在しているのだ。




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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