サービス・プロダクト制作者にとって必要な3つの視点(後編)

サービス・プロダクト制作者にとって必要な3つの視点(後編)

2014年12月8日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

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サービスにしてもプロダクトにしても、制作者として意識しなければならない大前提がある。それは、決められたフレームの中、枠内でつくられるものか。それともフレームごと新たにつくり興すべきものか、の違いを意識することである。

たとえば、映画や音楽といったコンテンツは前者である。映画なら映画館やDVDなどのパッケージで鑑賞されることを前提につくる。長さもおおよそ2時間という決められた尺がある。ダウンロードやストリーミングによる配信方法は、映画や音楽コンテンツ自体には関係がなく、フレームは業界誕生以降ほとんど変わっていない。

逆に、iPhoneのようなプロダクトは後者だ。もちろん、電話であるからキャリアの規格に準じてつくられるが、物理的なキーボードをなくしたときからiPhoneの革命ははじまっている。iPhone以前と以後では、携帯電話というフレームは破壊され、大きな液晶とNUI(ナチュラルユーザーインターフェイス。指先による操作や、音声操作のように、人間の五感を使って行うユーザーインターフェイス)をマスト条件とするスマートフォン市場が勃興した。

大方の日本企業は、前者、つまり決められたフレームの中での進化を遂げるプロダクトやサービスにおいて、頭角を示してきた。自動車産業で世界企業となったトヨタ自動車や本田技研工業がそうだし、キヤノンやニコンのようなカメラメーカーもそうだ。カメラでいえば、キヤノンにしてもニコンにしてもフィルム現像というフレームの中で技術を磨いてきたが、世界初のデジタルカメラの開発=フレーム自体の開発を行ったのはコダックだった。

カメラの世界においてはフィルムからデジタルへの移行についていけた日本企業だったが、携帯電話からスマートフォンの移行では深い溝に落ち込み、存在感を一気に失った。インターネットという一大革命では、すでに20年以上チャレンジしているというのに、世界市場で存在感を出せるインターネット企業は日本にはない。

つまり、フレーム自体をつくり上げるという型においては、あまりいいところがないのが日本企業だが、これまでは欧米企業が産み出した新しいフレームが大きな市場に成長するとなれば、すぐに進出して欧米企業よりよいプロダクトをつくって勝ちに行く、というのが得意技だった。映画や音楽においては、残念ながら日本語では世界進出しづらいので、どうしても言葉の壁に阻まれて成長できなかったが、それでも国内市場においてはそれなりの進化を遂げてきた。

ところが、この数年、特にiPhoneにケータイ市場が破壊されたあとは、新しく生まれたフレームでの後追い商品の開発においても、目立った成果を出せなくなっている。

この状況を打開していくにはどうしたらよいのか? フレーム自体をつくり上げるか、生まれたフレームに即したよりよい製品をつくるか。いずれにしても、ものづくりに長けたはずの日本企業の復活の道筋はいまのところ暗いものがある。




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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