日本各地のOpenStreetMapマッパーが集結!「State of the Map JAPAN 2014」レポート

日本各地のOpenStreetMapマッパーが集結!「State of the Map JAPAN 2014」レポート

2014年12月16日
TEXT:片岡義明


「State of the Map JAPAN 2014」特設サイト

オープンでフリーな地理情報データを作るプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」のシンポジウム「State of the Map JAPAN 2014」が12月13日、東京・駒場の東京大学空間情報科学研究センターにて開催された。State of the Map(SotM)とは、世界各国のOSMコミュニティが開催している年次会議のこと。今回のイベントはその日本版で、OSMの活動を支える法人組織「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)」が開催した。日本では2012年にOSMの国際カンファレンス「State of the Map Tokyo」が開催されたが、それに続く日本版カンファレンスとして、今後は毎年開催していく予定だ。

OSMは“Wikipediaの地図版”ともよばれるプロジェクトで、誰もが自由に使える地図データを市民の手によってつくり上げることを目的としている。“マッパー”とよばれるOSMユーザーは、GPSロガーで取得したログをトレースして地図を作成したり、POI(店舗/施設情報)の登録を行ったりして地理情報データを編集できるほか、Yahoo Japan Alpsデータや国土数値情報をインポートしたり、Bingの航空写真や国土地理院の地理院地図をトレースしたりすることも認められている。作成された地図データはインターネットを介して自由に入手することが可能で、企業の商用利用も可能だ。


東京大学空間情報科学研究センター

2012年にはAppleがiPhotoの地図やiOSのマップアプリでOSMのデータを利用したほか、さまざまなWebサイトやアプリでOSMのデータが利用されている。また、2014年のグッドデザイン賞も受けており、「品質の高い地図データが完全にオープンに提供されていることは驚異的」と評価された。

シンポジウムでは、最初にキーノートスピーチとして、静岡県庁の杉本直也氏(情報政策課)が登壇し、オープンデータをテーマに講演を行った。杉本氏は、「オープンストリートマップのマッピングパーティーは地域をよく知ることができ、地域資源の発掘になります。地域資源は公共の財産であり、オープンデータもまた自由に使えるデータということで、オープンストリートマップとは相性がいいと思います」と語った。


静岡県庁の杉本直也氏

さらに杉本氏は、静岡県のオープンデータのポータルサイト「ふじのくにオープンデータカタログ」のほか、公営バスにスマートフォンやセンサーを取り付けてリアルタイムに位置情報や乗降客数などをオープンデータとして配信するプロジェクトについても紹介した。このプロジェクトではバス停の位置情報が必要となるが、それを収集するために高校生によるマッピングパーティーも開催した。これらの位置情報や時刻表データは、Googleが提唱する公共交通機関の時刻表と地理情報の共通形式「GTFS(General Transit Feed Specification)」で公開する予定だ。


リアルタイム運行状況をGTFS配信

「このようなデータを公開することによって、公共交通機関が使いやすくなるとともに、たとえば台風で鉄道が土砂崩れで使えないような場合に、代替輸送でバスを使うときも役に立ちます。また、東日本大震災のときに全国のバスが被災地に応援で行きましたが、このような場合にもリアルタイムの位置や混み具合などがわかれば役に立ちます。静岡県ではこのように、災害が起きたときのために備えて、いろいろなデータを準備していく方針です」(杉本氏)

続いて登壇したのは、株式会社日立製作所の相川哲盛氏。相川氏はOSMを活用したフリーのAndroid向けカーナビゲーションアプリとカーナビ用地図を作成する取り組みについて紹介した。


日立製作所の相川哲盛氏

「私たちは20年間カーナビをつくってきましたが、その経験をぜひOSM活動に活かしたいと思っています」と相川氏。今回開発するカーナビは、地図表示と経路探索、誘導、自車位置表示、POI検索などの機能をもっており、地図データはスマートフォンのストレージに格納する。経路探索については、自車位置から約100km圏内のデータを端末のストレージに置き、それよりも長距離の場合はセンター側で実行する仕組みにする。POI検索については、OSMのデータ検索をセンター側で実行する仕組みだ。


カーナビの画面

さらに、位置情報付きのコメントや写真を投稿できる機能や、登録ユーザー同士でチャットができる機能、ユーザーの居場所を探知できるレーダーなどの機能も搭載する。また、開発中の機能として、車が通りにくいポイントや飛び出し注意の交差点、運行規制、休憩場所などの注意すべき場所の情報を、ユーザーからの投稿やカメラでの画像認識、プローブ情報からの自動生成により取得する機能を紹介した。

このほか、GISソフト「ArcGIS」を提供するESRIジャパン株式会社の木田和海氏も登壇した。木田氏は、二子玉川や杉並区で行ったマッピングパーティーを紹介した上で、マッピングパーティーにおける課題として、OSMの編集ツールの操作の難易度が高いと感じる人がいたり、イベント終了後に地域主体で継続的なマッピングが続かないことなどを挙げた。このような課題を解消するために、タグを知らなくても地図のデータづくりの楽しさがわかる工夫が必要だとして、情報の収集・編集やデータのダウンロードを行える「OpenStreetMap マッピングパーティー用データ共有サイト(試行版)」(http://happymapping.ejopendataportal.opendata.arcgis.com/)を開設したと発表した。


ESRIジャパンの木田和海氏

同サイトでは、フォーム形式で地理情報データを登録することが可能で、選択肢をチェックしたり、プルダウンメニューから選んだりするだけで簡単に情報を入力できる。たとえば商店街で開催されるマッピングパーティーならば、商店街だけで使えるタグに絞って選択肢を用意できる。収集した情報は地図上で確認・修正することが可能で、それらのデータはあとで熟練者の手によってOSMに投入できる。このツールにより、紙地図などを使って情報収集に絞ったイベントを開催するといったことも可能になり、マッピングパーティーの開催の仕方も変わる可能性がある。同ツールは今後のマッピングパーティーで活用予定だという。


OpenStreetMap マッピングパーティー用データ共有サイト(試行版)

このほかにも各地のOSMマッパーによるさまざまな活動報告が発表された。その中からいくつかをピックアップして紹介する。

●ユニバーサルデザインへの問題提起―Wheelmapの活用を通して
北海道大学「Wheelmap Project」南亜太良氏/小坂典子氏


大学構内のバリアフリーマップを作成

Wheelmap(http://wheelmap.org/)とは、ドイツ・ベルリンのNPO「Sozialhelden」が2004年に創設したプロジェクト。車椅子で行けるところをWebページやアプリから投稿できるサービスで、ベースマップにOSMが利用されている。今回のプロジェクトでは、大学構内のOSMを拡張するとともに、特別就学支援室と連携してバリアフリーマップを作成した。また、北海道庁に対してバリアフリーマップについて提案も行った。現状の課題としては、既存のユニバーサルデザイン(UD)情報がオープンでないため取捨選択して再利用できないことや、車いすユーザーが情報鮮度を疑問視していること、一度つくった情報の翌年以降の更新、他言語化への対応などを挙げた。

●OSM Fukushimaのきせき
目黒純氏


鶴ヶ城を3Dで再現

福島県内のマッパーグループ「OpenStreetMap Fukushima」の活動と成果を発表。2013年から会津若松市の飯盛山など県内各地でマッピングパーティーを開催してきた。また、大内宿で消火栓の位置をマッピングしたり、電力網をマッピングしたり、スキー場のマッピングをしたりと、さまざまな活動を実施してきた。さらに、OSMの地図データに3Dタグを付けるプロジェクトも行っており、これまで総合会津運動公園やあづま総合運動公園、鶴ヶ城、二重螺旋構造の“さざえ堂”などを3Dタグで再現した。総合会津運動公園については、OSMFJによる「Mapコンテスト2013」で優勝した。現在は会津若松市内の道路・建物はほぼ網羅されており、市内のIT企業が製品のベースマップにOSMを採用したり、会津若松市がハザードマップに採用したりと、実用化も開始されている。

●自治会と共同で作るOSM
古田武士氏


Code for SAITAMAの古田氏

各地の自治会で地図を使う機会が多いが、市販の住宅地図を使うと許諾費用が膨大になる。そこでOSMを利用しようという取り組みを紹介。シビックテックコミュニティ「Code for SAITAMA」を通じて、「街歩き調査隊」と称したマッピングパーティーや勉強会を開催した。「Code for SAITAMA」としては今後、今回の自治会のマッピング成果をほかの自治会に広げるとともに、自治会クラウドを構築して今回の知見をベースとした防災マップを作成する方針としている。

●調布マッピングパーティー02(AED編)活動報告
UDコンサルティング CEO 柴田哲史氏


マッピングパーティーの様子

シビックテックコミュニティ「Code for CHOFU」によるマッピングパーティーの活動報告。1回めは2014年5月に自動販売機をテーマに実施し、20名が集まって約200カ所の自販機がマッピングされた。このイベントのニュースを市長が知ったことがきっかけで、10月に2回目のマッピングパーティーを開催。ここでは調布市と連携して、調布市総合防災訓練の中に組み込んだ。そうすることにより、防災訓練の参加者をそのままマッピングパーティーに引き込むことができ、トータルで約300名の規模となった。このときはAEDをテーマにマッピングを行い、約200カ所のAEDの設置場所を調査した。その成果はオープンデータとして公開する予定となっている。これだけの規模のマッピングパーティーは過去にも例がなく、“世界最大”としてギネス認定に向けて調整中だという。

●京都府向日市コンプリート!
山下康成氏


激辛商店街マップに採用されたOSMの地図

京都府向日市を舞台にマッピングに取り組んでいる山下氏による発表。山下氏は2010年3月に、向日市の全道路をGPSロギングして道路のマッピングを完成した。さらに、2013年1月にTwitter上でほかのマッパーと話していたところ、向日市をBingの航空写真のトレースと地上からのサーベイマッピングの2面作戦で、建物の形も含めた完璧な地図のモデルケースをつくろうという話になった。その後、Bingマッピング(航空写真のトレース)はわずか1カ月弱で完了。その一方で地上班もサーベイマッピングを実施し、有志の手で作成されたジョギングしながらPOIロギングができるアプリ「しゃべPOI」を利用したり、マッピングパーティーを開催したりして2013年4月に完成させた。その地図は、向日市の「激辛商店街マップ」に採用されたほか、OSMFJによる「Mapコンテスト2013」で準優勝および“大判地図賞”を獲得した。

■URL
「State of the Map JAPAN 2014」特設サイト
URL:https://stateofthemap.jp/2014/
OpenStreetMap Japan
URL:https://openstreetmap.jp/
OpenStreetMap
URL:http://www.openstreetmap.org/
2014/12/16

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