地域課題をアプリで解決、「G空間未来デザイン」ハッカソンレポート

地域課題をアプリで解決、「G空間未来デザイン」ハッカソンレポート

2014年12月24日
TEXT:片岡義明

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「G空間未来デザイン」ハッカソン会場

地域課題を解決するための地理空間オープンデータを用いたワークショップを行うプロジェクト「G空間未来デザイン」のハッカソンが20日~21日、東京・世田谷区のカタリストBA(二子玉川ライズ内)にて開催された。同プロジェクトは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應 SDM)と株式会社フューチャーセッションズ、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の3者が、国土交通省事業である「G空間未来デザイン」プロジェクトの一環として行っているイベントで、川崎市宮前区の課題解決を目的に、地理空間情報などのオープンデータを活用したアプリやサービスの創出に取り組んでいる。すでに10月にアイデアソンを実施しており、今回のハッカソンではアイデアソンで生まれたアイデアをベースにして、課題解決を実現するためのアプリ開発に取り組んだ。

ハッカソン当日は、最初に慶應SDM准教授の神武直彦氏が、前回のアイデアソンの振り返りを行うとともに、フューチャーセッションズの筧氏が、アイデアソンで登場したアイデアをカテゴリ別に紹介した。10月のアイデアソンでは計22のアイデアが創出されたが、これらを「助け合って幸福になる人が増える」「坂を楽しむ人が増える」「農業や教育などに関わる人が増える」「住民初の情報を見て来訪者が増える」の4つにわけて整理した。さらに、前回のアイデアソン参加者も、自分が関わったチームのアイデアを紹介した。

これらのアイデアを踏まえたうえで、参加者が自由に交流してチームをつくった。今回のハッカソンは、アイデアソンに参加しなかった人でも自由に参加することが可能で、開発するアプリもアイデアソンで創出されたものである必要はない。アイデアソンで生まれたアイデアを発展させたり、複数のアイデアを組み合わせたりしながら新たなプロジェクトが生まれて、計9チームにわかれた。

開発するにあたっては、GLOCOMの庄司昌彦氏が今回のハッカソンに利用できそうなオープンデータをカタログとして紹介した。今回のハッカソンでは、川崎市が用意した公園位置データやガイドマップのほか、インクリメントP株式会社がサンプルとして提供する「MapFan API」や「MapFan SDK」、地図作成の実走調査時に取得した車載カメラの画像データ、富士通研究所が提供する自治体比較ツールなども利用可能となったほか、株式会社IDCフロンティアのクラウドサービスも期間限定で無料で利用可能となった。

また、会場内では「データお助けデスク」および「ツールお助けデスク」も用意されて、データやツールの提供、検索、成形、分析、可視化などの相談のほか、紙媒体資料の閲覧やコピーなどに関する相談を受け付けた。同プロジェクトではアイデアソンのときにも、利用可能なオープンデータに関する相談にこたえる「オープンデータデスク」が設けられたが、今回のハッカソンでもデータとツールの相談デスクをそれぞれ設置することにより、きめ細かい開発支援を行った。


データお助け隊

参加者は約70名で、エンジニアやデザイナーのほか、開発スキルをもたないが宮前区の課題解決に関心があるという人も含まれており、この中には宮前区長の野本紀子氏をはじめ、宮前区役所や川崎市役所の職員もいた。コードが書けなくてもデータを検索・整理したり、プレゼン資料をつくったり、ユーザー視点で意見を出したりと、さまざまな立場の人が色々な役割を担いながら、“アプリ開発による地域課題の解決”という共通の目標に取り組んでいた。


開発中の参加者たち

1日目の終わりには各チームが進捗具合を発表したあと、ネットワーキングパーティーが開催された。ここでは参加者一同が宮前区の名産品の味を楽しみつつ、チームごとに打ち合わせをしたり、必要な人材を探したりと、さまざまなやりとりが行われた。

2日目も引き続き、朝から開発がスタートした。この日は途中で、宮前区の教育委員会や区民会議の委員長など、住民を代表する人たちが各チームのテーブルを巡り、作品に対する感想などを述べた。


住民代表への作品紹介

開発が終了したのは2日目の夕方17時で、ここから最終プレゼンが開始された。以下、各チームの成果を紹介する。

■ジジババウォッチ
高齢者が地域を見守るパトロール隊「地域ウォッチ隊」を結成する。ボランティアに協力してもらう高齢者には“妖怪”になってもらい、パトロール隊のベストにはQRコードを印刷する。子どもたちは「妖怪探しアプリ」をスマートフォンにインストールして妖怪探しを行う。ベストに印刷されたQRコードをアプリで読み込むことで妖怪を集められるほか、高齢者施設に子どもたちが近付くとアラートが鳴るレーダー機能なども搭載する。また、高齢者向けのパトロール支援アプリも用意し、子どもたちの位置情報や学校、公園の情報などを見ながらルートを決められる機能などを搭載する。


ベストに印刷されたQRコードを読み取り


“妖怪”を入手

■ミヤマエペダル
坂の多い宮前区でサイクリングを楽しんでもらうためのアプリ。坂では応援歌が流れるほか、区長の声によるガイド音声も収録する。また、農産物の直売所の声を聴けたり、区内の直売所や遺跡を巡るルートなどを案内したり、区内の景色を共有したりする機能も搭載する。駅前にはデジタルサイネージによる電子マップと、電動アシスト付き自転車をレンタルできる拠点を設置する。自転車にはスマートフォンをマウントできるようにして、アプリを見ながらサイクリングを楽しめるようにする。坂が多いことを強みに変えて、新しいモビリティのモデル都市を構築することを目指しており、将来的にはセグウェイやシニアカーを使うことも検討する。


宮前区の野本紀子区長が開発に参加


サイクリングコースを案内

■公園にいこう
公園を中心に市民同士のコミュニケーションを促進するアプリで、市民の声をつなげてみんなで公園をつくっていくためのプラットフォームの提供を目指している。地図上で公園の施設情報を調べられるほか、口コミ情報を投稿することも可能で、たとえば「ドングリがたくさん落ちている公園を探したい」といった細かい情報でも、口コミ情報から探し当てられる。ユーザーの投稿により、ほかのユーザーが公園へ行く動機付けにつながっていく循環をつくる。また、位置情報や設置者、温度・湿度、ph濃度などを測定して遠隔で確認できるプランター「WiFi PLANTER」を利用し、公園のプランターを市民によって共同管理するためのアプリとしても利用できる。さらに、企業や活動団体が公園におけるイベント情報の配信や宣伝を行うためのツールとしても活用できる。


公園の口コミ情報がわかる


公園の詳細情報

■渡る世間は坂ばかり
スマートフォンやタブレットを活用して、現在地やその日に歩いた坂・道に応じて、クイズやミッションを体験できるアプリ。坂の多い宮前区を歩くことを楽しくして、ちょっとした体験の話題づくりのきっかけを提供する。坂のふもとや中腹、頂上、地域の農園などのスポットで、宮前区や川崎市にちなんだクイズやミッションを受けられる。クイズを解いた進捗状況などをSNSでほかの住民にシェアすることも可能で、住民同士が交流するきっかけにしてもらう。また、学校などと連携したプログラムやイベントを開催して、アプリの利用を促進する。


宮前区に関するクイズ


ミッションも体験できる

■坂で元気
坂に着目したトレーニングアプリを開発。まずアプリの入口として、“坂の街”を体感してもらうためのWebサイトをつくり、興味がわいたらアプリをダウンロードしてもらう流れにする。ターゲットは区外のランナー。アプリは、鍛えたい部位や距離に応じて「ふくらはぎを鍛えるための10kmコース」などさまざまなコースが用意されており、コースを選ぶとトレーニング開始となる。走行中は坂の傾斜がリアルタイムでわかるようになっており、景色や休憩スポットに関する情報を音声で案内する。走行中に立ち止まって写真を撮影し、共有することも可能。走行ログを確認することも可能で、傾斜ごとに走った距離がわかる。また、ランニングイベントのお知らせコーナーも用意している。


坂を体験できるWebサイト


ランニングコースの高低差を表示

■思い出坂のビンゴ
地図情報に区内の施設情報をカードで表示するとともに、坂や名所に隠されたレアカードを、レーダーを見ながら探し、集めてビンゴゲームを楽しめる観光ゲームアプリを開発。レアカードには住民の思い出を投稿できるようになっており、誰かの思い出をほかの人が見られるようにすることで、自分の思いと他人の思いを重ねあわせることができる。観光コンテンツのカードには広告スペースを用意しており、ビンゴの景品などは地元商店街でのクーポンにすることで店舗への誘導が可能となり、O2Oプラットフォームとして利用できる。いずれは宮前区の成功をモデルとしたSaaS事業として事業化を目指す。


レーダーを見ながらレアカードを探す


坂のレアカードを入手

■ぐるっと 宮前バス
区内に点在する直売所をバスで巡るためのアプリ。メニューに合わせた食材を購入できる最適な直販店をバス路線ごとに案内し、好みに応じて選択できる。直売所に関する情報を一元化するとともに、現在地から目的地までのルート、所要時間などを自動的に表示する。収録する情報は農産物をつくるうえでのこだわりや採れたて情報、おすすめのレシピなど。また、イベント情報やリアルタイムの開花情報なども提供する。将来的には、川崎市バスと東急バスの情報の統合や、バス停での情報提供やクイズ出題、書店やスーパー、コンビニなど店舗との提携なども検討する。


野菜やイベントを探せる


バス路線を案内

■宮前カルチャークラブ
地図上に現在地周辺にあるさまざまな地域情報を表示できるアプリ。酒店の試飲情報や音楽のオーディションの開催情報、ツーリング仲間募集、スポーツチームのメンバー急募、クッキングスクール開催など、主催者や投稿者が「いつ」、「どこで」、「どんなこと」をするかを投稿することが可能で、参加人数を制限できる「この指止まれ」機能も搭載する。閲覧者は自分の周囲で今なにが起きているか、近所で近日中にどんなことがあるかという情報を得られる。


現在地周辺の地域情報を地図上に表示


地域情報の登録ページ

■おいしい宮前区 農産物&ホッピー
農産物直売所や観光スポット、ホッピーを置いてある居酒屋など、さまざまな地域情報を「観光レシピ」として教えてくれるアプリ。Excelのデータから簡単にスマートフォンアプリを作れる「LinkData.org」を使って開発した。市職員が既存のパンフレットの情報をアップロードすることによって簡単にデータを登録することが可能で、閲覧者はSNSで登録されたデータをシェアできる。また、農家が直売所の情報をSNSでシェアするなど、住民が情報を投稿することで地域情報を付加することもできる。企業も投稿することが可能で、観光情報から企業の宣伝まで行える総合的な地域情報プラットフォームとして活用できる。


「LinkData.org」を利用


既存の観光情報を簡単に登録可能

なお、今回のハッカソンはコンテストではなく、賞などはとくに設定されていないが、参加者によるクロスレビューも行われた。参加者全員が各作品に対して評価する「いいね!」と、宮前区関係者が評価する「宮前区にとってイイネ!」、データ/ツールお助け隊や専門家が評価する「データの活用方法がイイネ!」と3つの切り口で評価を行った。このうち、参加者全員の投票で最も「いいね!」が多かったのは「坂で元気」、宮前区関係者の投票で最も多かったのが「ジジババウォッチ」、データ/ツールお助け隊や専門家の投票で最も多かったのが「おいしい宮前区 農産物&ホッピー」だった。

本プロジェクトは、アイデアソンやハッカソンの参加者がネット上でコミュニケーションするためのプラットフォーム「G-OUR FUTURES」を用意したり、アイデアソンのときにバスで街中を巡る「フィールドツアー」を行ったり、ハッカソン開催前にハッカソン未経験者向けに「ハッカソン入門セミナー」を行ったりと、ほかにはないさまざまな試みが行われているが、もうひとつ大きな特徴として、ハッカソンで創出されたアプリやサービスを具体化するためのというイベント「マーケソン(マーケティング×マラソン)」が実施されることが挙げられる。

マーケソンは、ハッカソンで生み出されたアプリの実用化に向けたマーケティングを行い、実際の利用につなげることを目的としている。今回のハッカソンではすべての成果の発表後、参加者一同で会食を楽しみながら、終了後にマーケソンへとのつなげるための「プレマーケソン」も実施された。マーケソンは2015年2月20日~21日に開催予定で、ここではハッカソンで創出したアプリやサービスを持続的なサービスとして運用、普及させるための議論を行う予定だ。

■URL
「G空間未来デザイン」公式サイト
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