Webアクセシビリティの未来を考えるセミナーが開催

Webアクセシビリティの未来を考えるセミナーが開催

2015年02月10日
TEXT:片岡義明


登壇者の3人

Yahoo! JAPANと株式会社ビジネス・アーキテクツ(BA)、株式会社ミツエーリンクスの3社は9日、企業のWeb担当者を対象としたセミナー「マルチデバイス時代のWebアクセシビリティ」を東京・六本木のYahoo! JAPANミッドタウン・タワー11Fセミナールームにて開催した。Webアクセシビリティの最新動向がわかる同イベントについて、その詳細をレポートする。

同セミナーは、Webアクセシビリティに関する知識やトレンドを学べるセミナーで、一般企業や公的機関のWeb担当者やサービス運営者、プロデューサーなどを対象としている。同イベントを主催した3つの企業からそれぞれスピーカーが登壇し、Webアクセシビリティの本質と、今後のWebサイトの構築・運用に必要となる考え方を学べる3つの講演が行われた。以下、各講演の詳細を紹介する。

■講演1:「10年後のWeb」のために、今すべきこと
講演者:木達一仁氏(ミツエーリンクス取締役CTO/ウェブアクセシビリティ基盤委員会 副委員長、作業部会1 主査)


ミツエーリンクスの木達氏


将来の変化に備えるために必要なこと

木達氏は、2015年と2005年の「Yahoo! JAPAN」のトップページWebデザインを比較したうえで、現在が10年前ともっとも異なるのはマルチデバイス対応であると述べた。さらに、メガネ型やスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスの登場などについても触れたうえで、モバイル・ファーストやレスポンシブ・ウェブデザイン、フラットデザインなど、現在にかけてのWebデザインの流れについても語った。

そのうえで、今から10年後となる2025年のWebについての予測も語った。10年後はあらゆるデバイスが小型化・高性能化・低価格化し、ネットワークも高品質化・低価格化が進むとともに、あらゆるモノがネットワーク化する「Internet of Things(モノのインターネット)」も進み、ハードウエアのモジュール化やオープンソース化も進むと予想し、ストレージのコスト低下やクラウドサービスの普及にともなってビッグデータ解析も進化すると分析した。入出力デバイスについても、身の回りのさまざまなものが出力デバイスとなり、キーボードやマウスからタッチ、ジェスチャーへとUIが変化するとともに、音声認識技術の進化やBrain Machine Interface(BMI)も進歩するかもしれないと予測。このような技術革新により、ますます「Web」と「Web以外」の境界がゆらいでいくだろうと語った。

木達氏は、このような状況が待ち受ける中で、「Webコンテンツを空気や水のように流通させる必要性がある」と語った。スクリーンは多様化しており、スクリーンを持たないデバイスからのウェブアクセスも考える必要がある。Webはすでに「見た目だけ」の発想では対応できない時代に来ており、今後は“Webらしさ”という名の柔軟性が必要不可欠となる、その土台を担うのがマークアップによる情報伝達であり、マシンリーダビリティ/アクセシビリティこそが重要であると語った。

そのうえで、Webデザインとは、Web標準技術やデバイスの仕様、ブラウザのサポート状況、支援技術、ユーザーのリテラシーなど、さまざまな要素のバランスを取ることであると述べた。そのバランスを取るうえで大切なのがアクセシビリティの品質であり、「アクセシビリティを高めて相互運用性を最大化することがWebのビジネスの価値を最大化する。アクセシビリティに目を向けることで、いつでも、どこでも、誰でも、どんなデバイスでも使えるWebサイトが実現できる」と語った。

■講演2:「マシンリーダビリティ」がユーザー体験を加速する
講演者:太田良典氏(BA システムソリューション部 アクセシビリティスペシャリスト/ウェブアクセシビリティ基盤委員会 作業部会2 副査)


BAの太田氏


マシンリーダブルにすることで未来のデバイスにも対応可能に

太田氏は冒頭で、日産グループのニュースを提供するアプリ「NISSAN GLOBAL App」を紹介した。同アプリは、アプリの形をしてはいるが、マッシュアップの手法でWebと同じ情報を提供しており、コンテンツ制作者はWebかアプリかを意識する必要がない。なぜこれができるかといえば、Webがマシンリーダブルであるからだと語った。Webには、ブラウザだけではなく、サーチエンジンのクローラーなどさまざまなユーザーエージェントがアクセス可能でマシンリーダブルである。だからこそWebはさまざまなサービスに展開していけるのであり、コンテンツ提供にあたって「Webかアプリか」を迷ったときにも、とりあえずWebにしておくことでさまざまな利用が可能となると述べた。

さらに、かつてiPhoneが登場したときに、iOSのWebブラウザ上でFlashを使用したWebサイトが表示できない事例が多発した中、PCのブラウザでアクセスするとFlashコンテンツが表示されるにもかかわらず、なぜかiOSでも表示可能なWebサイトも存在していたことに触れ、このようなWebサイトは別に事前に対応していたわけではなく、Flash無効環境を考慮してつくられていたからだと語った。Flash非対応の環境はiPhone以前からも存在しており、そのような環境も考慮してアクセシブルにしていたからこそ、新デバイスにも対応できた。つまり、事前にマシンリーダブル/アクセシブルにしておくことにより、これから先の未来に登場するデバイスでもアクセスが可能となる。逆に、デバイスへ依存してしまうと、未来には対応することができない。太田氏は「アクセシビリティの確保を意識することは未来に向けた土台になる」と結論付けたうえで、そのためにも制作プロセスにアクセシビリティの考え方を取り込むことが必要であると語った。

■講演3:IT業界のリーディングカンパニーとして描く「少し先の未来」〜Yahoo! JAPANの事例を通して〜
佐仲沙織氏(Yahoo! JAPAN メディアサービスカンパニー事業開発本部MIT室制作リーダー)


Yahoo! JAPANの佐仲氏


Yahoo! JAPANが考えるウェブアクセシビリティ

2013年6月に「ウェブアクセシビリティ方針」を発表したYahoo! JAPAN。今回の講演では、ガイドラインの作成や方針発表までの経緯とともに、その方針の内容について詳しく紹介した。同社は同ガイドラインを発表する前、JIS X 8341-3:2004およびWCAG2.0の規格を一部取り込んでアクセシビリティのガイドラインを作成していた。そんな中、2012年に、W3Cが策定中の「WAI-ARIA(Web Accessibility Initiative-Accessible Rich Internet Applications)」への対応を検討するにあたって、同社は「アクセシビリティのマインドが根付いていない状態で組み込んで大丈夫なのか」と疑問に思った。そこで、まずはルールを変えるよりもマインドを変えるために、Yahoo! JAPANとしての方針を社内外へ発表し、社員が理解したうえで実装を進めることにした。

そのような経緯で発表した方針の内容は、(1)「課題解決エンジン」であり続けたい、(2)合言葉は「ユーザーファースト」、(3)「Webだからできること」の可能性、(4)IT業界のリーディングカンパニーとして描く「少し先の未来」、の4項目で構成されており、目標とする対応度をJIS X 8341-3:2010(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ)の等級Aと定めた。対象範囲は、同社の企業姿勢を示す第一歩として、会社概要やプレスリリース、IR情報、採用情報などを提供しているコーポレートサイトから着手する。佐仲氏はこれらの方針についてそれぞれ詳しく紹介したうえで、「これからはアクセシビリティという『品質』を高めることを純粋に考えていくことが必要」と語り、今後の取り組みとして、アクセシビリティガイドラインの刷新や道標となる基準の設定、チェック方法の検討などを行う予定であると述べた。

セミナー案内サイト
URL:http://connpass.com/event/11052/
木達一仁氏の講演資料
URL:http://www.slideshare.net/mlca11y/20150209-kidachi
太田良典氏の講演資料
URL:http://www.slideshare.net/yoshinoriohta18/ss-44428499
佐仲沙織氏の講演資料
URL:http://www.slideshare.net/techblogyahoo/ityahoo-japana11yfuture
Yahoo! JAPANウェブアクセシビリティ方針
URL:http://docs.yahoo.co.jp/info/accessibility/
2015/02/10

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