NASAやJAXAの宇宙データを活用、ハッカソン「ISAC」が開催

NASAやJAXAの宇宙データを活用、ハッカソン「ISAC」が開催

2015年04月14日
TEXT:片岡義明


会場となった「DMM.make AKIBA」

NASAやJAXAが公開している宇宙・地球環境・衛星関連のデータを使ったアプリを開発するハッカソン「International Space Apps Challenge(ISAC)」が4月11日・12日に世界各国で同時に開催された。ISACの開催は今年で4回目で、昨年は世界95都市での開催だったが、今年は開催都市が142と大幅に増えた。日本でも、東京・秋葉原にて「ISAC Tokyo」が開催されたほか、福井県坂井市や鹿児島県肝付町、福島県の南会津町、山口県山口市など計5箇所で開催された。この記事では、ISAC Tokyoの模様をレポートする。

今年のISAC Tokyoにはソフトウエア開発者をはじめデザイナーやプランナー、研究者などさまざまな人が約80人集結し、2日間にわたってさまざまな作品の開発・制作が行われた。同イベントは2日間のうちにアプリや作品を完成させることを目標としているが、これに先立って3月29日に東京・渋谷のデンソーアイティラボラトリーにてアイデアソンも開催され、ハッカソン本番でどのようなアプリやサービスを開発するか検討が行われた。

ハッカソン初日は最初にISAC Tokyo事務局長の湯村翼氏が説明を行ったあと、参加者が開発を行うアイデアを発表し、チーム分けを実施した。ISAC Tokyoでは誰がどのチームに参加するかは自由に選択することが可能で、今回は計15のチームが開発に取り組み、そのうち14チームが2日目の作品発表を行った。


約80名が参加


事務局長の湯村翼氏

過去3回は東京大学・駒場リサーチキャンパスにて開催していたISAC Tokyoだが、今年の会場は、2014年11月に秋葉原でオープンしたばかりの「DMM.make AKIBA」。富士ソフト秋葉原ビル内にある同施設は、ハードウエア・スタートアップを支援するものづくり施設で、フリーアドレスのシェアスペースである12階の「Base」がISAC Tokyoの会場となった。参加者はチームごとにテーブルやカウンター席に分かれて開発に取り組み、中には泊まりこんで作業を進める人もいた。また、世界同時開催ということで、東京と米国・ボストンで協力しながら開発を行う混成チームもあった。


開発中の様子

2日目は15時まで開発が行われて、その後、チームごとに成果報告が行われた。発表内容は以下の通り。

(1)クラウドバトラー
空の写真を撮影することで、その写真を数値化してモンスターを生成できるゲーム。空の色や明度、彩度、雲の形状、写真を撮影した場所などで出現するモンスターが変化する。希少度の高い写真ほど強いモンスターが出現する確率は向上する。集めたモンスターを使ってほかのプレイヤーと対戦することも可能。

(2)マーサウンド
宇宙関連のサウンドを、クリエイターが使いやすい環境にするプロジェクト。ピアプロやSoundcroudなど音声を投稿できるWebサイトに、NASAが公開しているオペレーション時の音声ファイルの中から、素材として使いやすいものを選んで公開するとともに、クリエイターの著作物を管理している「ニコニ・コモンズ」にも登録する。


クラウドバトラー


マーサウンド

(3)まいまいがなう
「マイマイガ」という昆虫の大量発生による被害の解決を目指すプロジェクト。マイマイガの成虫や幼虫、卵の発見情報を日本全国共通のプラットフォームで収集するほか、衛星データを使ってマイマイガの発生時期を推定し、原因を特定する。積算気温により「マイマイガ」の発生時期を推測し、発生時期を日本地図に描いて「マイマイガ前線」を作成した。

(4)for NASA
NASAが保有する地表温度に関するデータをGoogle Earth上にマッピングするとともに、気になったエリアの環境関連ニュースを簡単に閲覧できるようにする。ほかにも海面水温の変化や水質汚染、台風・ハリケーンなどの気象災害などの情報を重ねることで、多くの人に環境問題に対して関心をもってもらうことを目指す。


まいまいがなう


for NASA

(5)穀物のシルクロード
地域ごとの食料の過不足ギャップを最小化するためのプラットフォーム。穀物データや人口データ、穀物の輸出量、人口推移などのデータを利用して、地図上で食料が不足している地域をわかりやすく表示する。今後は海水面温度の上昇によって生じる食料生産影響なども反映させる。

(6)Toward HyperLocation for Everyone
高精度位置測位を活用した精密農業を普及させるため、測量などで使われる高精度測位方式「RTK-GNSS」をスマートフォンなどの安価な端末で実現する。シングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」とGNSS受信機「U-blox」を利用し、スマートフォンやPCで位置を確認できるようにした。精密農業のほかにも、さまざまな社会サービスの向上が期待できる。


穀物のシルクロード


Toward HyperLocation for Everyone

(7)ピカピカ☆ステーション
宇宙飛行士にメッセージを配信できるチャットサービスで、iOS/Androidアプリも用意している。宇宙飛行士に送れるメッセージの定型文があらかじめ用意されており、定型文を選ぶだけで簡単にメッセージを送れる。チャット画面の左側が宇宙飛行士、右側が地球からのメッセージになっており、宇宙飛行士側は音声によるメッセージも送れる。iOS版にはスワイプでメッセージを送信できる機能も搭載。

(8)Team Space Debris
スペースデブリ(宇宙ごみ)の位置を3D地球儀上に表示し、デブリの状況がわかるようにする。浮遊しているデブリをクリックすると、どこから発射されたものかといった情報が表示される。デブリの移動速度を変更したり、逆回転させることも可能。


ピカピカ☆ステーション


Team Space Debris

(9)マー
NASAが保有する膨大な映像を入手して、人工知能技術などを使って物体認識させるプロジェクト。ISAC Tokyoでは毎年恒例のプロジェクトであり、これまでにも月面や火星の表面にある凹凸から人間の顔などさまざまなパターンを発見してきた。今年は月面地形を転写したインソールを使ってサンダルをつくって売り出したほか、地形を刻んだグッズが入ったガシャポンも作成。また、さまざまな国の人とコラボレーションして、自動検出と人力を組み合わせる取り組みも行った。

(10)マグロ
マグロに関する情報を可視化し、漁獲の精度向上やクロマグロ研究に役立てるプロジェクト。海水温と海上風速からマグロの位置を把握し、回遊モデルを作成して地図上にプロットするほか、現在の漁獲量と漁獲規制量との差分を表示する。また、都道府県別のマグロの漁獲量も可視化する。


マー


マグロ

(11)Aerial
現在地から最も近い“水場”を地図上にマッピングし、その地点までナビゲーションを行うサービス。世界中の井戸と蛇口のデータ(約10万レコード)や水の循環を観察する人工衛星のデータをわかりやすく表示するほか、使いやすく整形したデータをアプリ開発者やエンジニア向けにも公開する。

(12)チームのーくり
複数の衛星が観測しているブラックホールなどのデータを集約するiOSアプリ「Active Space Rader」を開発。増光の兆しを見せる天体情報の光度曲線をPUSHで配信することにより、迅速な追加観測が可能となり、世界中の高エネルギー天体物理学者の研究に貢献できる。


Aerial


チームのーくり

(13)Pepper Wave
ソフトバンクのコミュニケーションロボット「Pepper」を利用したプロジェクト。現在地からISSまでの距離をPepperが教えてくれるほか、ISSが近づくと「そろそろ見えますよ」と告知し、複数台のPepperが手を広げてウェーブを行う。

(14)WOLL・E
火星の地表を舞台とした3Dゲームで、ゲームエンジン「Unity」を利用して開発した。探査ロボットを操作して障害物を避けたり、サンプルを採取したりして調査を行いながら、火星に居場所をつくっていくストーリーとなっている。


Pepper Wave


WOLL・E

発表後は会場内でデモが行われて、審査員や参加者が各ブースを見て回り、詳しい説明を聞いた。今年のISAC Tokyoでは、審査員による評価だけでなく、参加者による投票によって決まる「Pepple's Choise」という賞も用意しており、この賞を獲得したチームもグローバル・コンペティション(全世界での選考)に進出することができる。

審査の結果、最優秀賞に選ばれたのは「チームのーくり」。審査員の神武直彦氏(慶應大学大学院 准教授)は選考理由として、「宇宙データを使っている点や、このアプリを欲しいと思うユーザーがきちんといるという点、そして、グローバル・アワード(全世界での優秀賞)を狙いに行けるプロジェクトということで選びました」と語った。


「チームのーくり」のメンバー

優秀賞(2位)には、「Toward HyperLocation for Everyone」が選ばれた。審査員の岡島康憲氏(ABBALab)は、「今まで数百万円する高額だったものを一気に値段を下げて、誰でも使えるようにするというのが重要で、新しい市場の開拓や技術発展につながるのではないかということで選びました」と選考理由を述べた。


「Toward HyperLocation for Everyone」のメンバー

このほか「People's Choice」には「Team Space Debris」、スポンサー賞として、デンソーアイティーラボラトリ賞には「まいまいがなう」、HackCamp賞とYahoo! JAPAN賞には「マー」、JAXA賞には「Pepper Wave」が選ばれた。

全体講評として、審査員の上垣内茂樹氏(JAXA広報部長)は、「プロが使いたくなるものから楽しいものまで、バラエティに富んだ成果だったと思います。このようなところからすばらしいアイデアが出てくることで、一般の人が宇宙に関するアプリやサービスをどんどん利用するような世界になっていくと思いますので、これからもがんばってください」とコメントした。

また、事務局長を務めた湯村翼氏は、「ISACも今年で4年目になりますが、最初の頃はまだルールなどが曖昧だったのに対して、昨年くらいからは『このデータを使ってこのような課題を解決してください』と、チャレンジの内容が明確になってきています。そんなわけで今年はアイデアベースではなく、ある程度、仕様に則った形で行うようにしています。これまでもISAC Tokyoで生まれたプロジェクトがいくつかHonorable Mentions(選外佳作)に選出されていますが、今年こそは東京からグローバルアワードが出てほしいと願っています」と語った。

ISAC Tokyoで入賞した最優秀賞および優秀賞、そしてPepple's Choiceを含む3チームは、今後まもなくグローバル・コンペティションに挑戦する。その後、投票や審査を経て、グローバル・アワードが発表される予定だ。

International Space Apps Challenge Tokyo
URL:http://tokyo.spaceappschallenge.org/
International Space Apps Challenge(グローバルサイト)
URL:https://2015.spaceappschallenge.org/
2015/04/14

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