東海道五十三次の無料画像素材とGoogleストリートビューを比べてみた

東海道五十三次の無料画像素材とGoogleストリートビューを比べてみた

2015年05月12日
TEXT:佐藤勝


「東海道五十三次 日本橋 朝の景」

このほど、著作権の切れた作品写真を再編集・修正して販売している株式会社マーユから、歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」の画像データ55点が、条件つき(後述)ながらも、著作権フリーで無料公開された。さまざまな活用法が期待できそうだが、今回はいくつかの作品をピックアップし、Googleストリートビューで各地の現在の様子を見比べながら、「東海道五十三次」の魅力を味わってみることにした。

■浮世絵著作権フリー作品「東海道五十三次」(株式会社マーユ)
http://www.21j.jp/fu53/


「東海道五十三次」は、江戸時代の絵師・歌川広重の代表的な浮世絵で、当時の東海道の始点である日本橋から、終点の京都までの宿場を含めた55カ所の情景を描き、西洋美術にも影響を与えたといわれている。
提供されているのは左右500px(72dpi)の画像データで、色補正などの編集がされたデータ。使用や許諾についての報告なども不要で、商用利用も可能という(高解像度の画像データは有料で提供とのこと)。

■日本橋(東京)


「日本橋 朝の景」



Googleストリートビュー

東海道の起点である日本橋。朝早く、参勤交代の大名行列が橋を渡って出発するところで、手前には天秤棒を担いだ人びとが行商に向かう、活気あふれる様子が描かれている。現在の日本橋は首都高速の陰になっているため、広重の絵に描かれたさわやかな空は望めないが、石造りの重厚なデザインから、「日本の道の起点」としての風格を感じ取ることができる。


■川崎宿(神奈川)


「川崎 六合渡舟」



Googleストリートビュー

川崎宿に入る手前の六郷川(現在の多摩川)と行き交う渡船を描いた作品。右手奥に遠くの富士山が見えている。現在の様子は、京急線「六郷土手」駅からすぐの、多摩川の堤防から見ることができる。サイクリストやランナー、散歩の人びとが行き交い、野球場で汗を流す人びとの風景が広がっている。


■箱根(神奈川)


「箱根 湖水図」



Googleストリートビュー

画面左に芦ノ湖と富士山を望みつつ、中央にそびえ立つ山をダイナミックに描き、見る者を惹きつける作品。カラフルな山の木々も強い印象を与えてくれる。画面右下には、山を下っている大名行列が小さく描かれている。
現在のストリートビューでは、成川美術館の裏手の、芦ノ湖と富士山を望めるポイントを選んでみたが、広重の描いた険しい街道のイメージと比べると、ちょっと穏やかに感じられる。


■三島(静岡)


「三島 朝霧」



Googleストリートビュー

三嶋大社の前、東海道と伊豆に向かう下田街道の分岐点を描いた作品。早朝に出発するさまざまな旅人をまとめて描いているが、背景の鳥居や町並みなどはかすんで見えるように描かれ、霧に包まれた街の情景を見事に表現している。現在も神社の鳥居や緑はそのまま残されていて、当時の情景を偲ぶことができる。


■蒲原(静岡)


「蒲原 夜の雪」



Googleストリートビュー

雪の降り積もった宿場の道を人びとが歩いて行く様子を描いたもので、「東海道五十三次」のなかでもひときわ高く評価されている作品の一つ。この地域はめったに雪が降らない場所なので、広重は想像で雪景色を描いたのではないかとも言われている。
ストリートビューでは、現在も残る蒲原宿の本陣の建物にフォーカスしてみた。旧蒲原宿の町並みは保存されていて、各所に案内板や記念碑が立っている。


■庄野(三重)


「庄野 白雨」



Googleストリートビュー

「白雨」は、にわか雨のことで、水しぶきと強風のなか坂道を登る人びとを描いたこの作品は、「東海道五十三次」のみならず、広重の代表作ともいわれるほどの傑作。
現在の庄野宿も当時の雰囲気を感じ取ることができるが、広重が描いたような坂道は、このあたりにはないという。険しい坂道と、木々をなぎ倒さんばかりの雨風に耐える人びとの様子は、旅の厳しい場面の臨場感に満ちているといえるだろう。


■京都


「京師 三条大橋」



東海道の終点、京都。加茂川にかかる三条大橋を渡る大名行列が描かれる。画面奥では嵐山と晴れわたる空が穏やかな色使いで表現されていて、長い旅の終わりを感じさせる。
ストリートビューでは、現在の三条大橋が見やすい位置を探してみた。このあたりは京阪電車三条駅があり、現在も連日多くの人や自動車が行き交っている。

このように、「東海道五十三次」とストリートビューの風景とを見比べてみると、広重が作品のなかで季節や時間の流れ、行き交う人々の営みなどを演出することで、それぞれの風土の魅力をより際立たせていることがよく分かるように思う。興味がわいてきた方は、広重の描いた55カ所のストリートビューに挑戦してみては?


最後に、歌川広重と葛飾北斎の浮世絵作品を擬似3Dのモーショングラフィックで表現し、国内外で大きな注目を集めた2009年の動画作品をいま一度紹介しておきたい。

■「浮世捌景」(ニコニコ動画)
【ニコニコ動画】浮世捌景

映像クリエイター・谷山剛氏が美術学校の卒業作品として2009年に制作したもので、すでにご存知の方も多いと思う。広重の描いた「日本橋」の活気や、「箱根」のダイナミックな構図にモーションと奥行きが加わっていて、浮世絵の魅力を新鮮に感じさせてくれる。観れば「東海道五十三次」への関心がさらに高まるに違いない。

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