ソシオメディア UX戦略フォーラム 2015 Summer イベントレポート

ソシオメディア UX戦略フォーラム 2015 Summer イベントレポート

2015年07月29日
TEXT:ソシオメディア株式会社

ユーザーエクスペリエンス(UX)のデザインコンサルティングを行うソシオメディアは、7月15~16日に「UX戦略フォーラム 2015 Summer」を開催した。今回のテーマは「メソッドの基盤」。ピーター・モービル氏、ジェイソン・ホブス氏、ダン・クリン氏、黒須正明氏、清水誠氏、上野学など国内外のUXスペシャリストが登壇し、UXデザインの方法論やその基盤となる考え方を、具体的な事例やディスカッションを通して探った。


UXSF 2015 Summer - メソッドの基盤 -

「理解のアーキテクチャ」「エクスペリエンスの戦略と構造」 ピーター・モービル氏

モービル氏はひとつめの講演「理解のアーキテクチャ」で、著書『Intertwingled: 錯綜する世界/情報がすべてを変える』の内容に触れながら、「自然」「カテゴリー」「つながり」「文化」「限界」という5つの枠組みを使用して問題の全体像を理解するための方法について解説。IA(情報建築)を改善するためには、望遠鏡と顕微鏡と万華鏡を切り替えて見るような視点の切り替えが重要であると語った。

ふたつめの講演では「エクスペリエンスの戦略と構造、そしてアーキテクチャ」と題して、モービル氏が実際に取り組んだプロジェクトの事例を取り上げた。そのなかでは、「プロジェクト自体よりもクライアントとの信頼関係が大切」「プロジェクトに合わせてツールを使いわけること」「初期段階でコンセプトをつくり込むこと」「ランチタイムミーティングなどで組織内のコミュニケーションをうながすこと」といった、プロジェクトを進める上での重要なノウハウを挙げた。


ピーター・モービル氏

「Firma モデルについて」「Firma モデルの適用」 ジェイソン・ホブス氏

ホブス氏はふたつの講演で、「Firma モデル」についての解説と、実際のプロジェクトでどのように「Firma モデル」を適用するかを語った。「Firma モデル」とは、ホブス氏が提唱している、ある問題を取り巻く全体像、エコシステムを、絵画の「遠景、中景、近景」のような3段階の構成でとらえる考え方だ。ホブス氏は、企業とユーザーの関係だけでなく、それらを取り巻く文化、歴史、経済、環境、社会も考慮することが必要であると話した。また、エコシステムのなかでは、ある部分が影響を受ければほかの部分にも影響が及ぶものであり、デザイン原理とはエコシステムの中に調和をとることであると強調した。

そして、「Firma モデル」の構成要件を収集するステップについても詳しく解説。問題の中心となる人々とコミュニケーションを取りながら背景を探る方法や、集めたデータの分析方法、その扱い方についても詳しく説明した。

「デザインエントロピーの抑制」 上野 学

上野はエントロピーの抑制という観点から、シンプルなものづくりのあり方やその方法を解説。デザインを作成していく上では様々な要因で意図しない形になっていくことがあるが、これは「構造を持っているものは崩れていく」というエントロピーの法則に従っていると語る。エントロピーを抑制するものづくりの方法として、「初期コンセプトを力強いものにすること」と「デザインの過程をシンプルにすること」というふたつを掲げた。

また、上野が強調したのは、デザインの問題が発見されたときにその問題だけを解決する方策を考えても、システム全体で見るといびつになってしまうケースが多いということだ。問題が発見されたら、そもそもの要件定義に立ち返り、全体のあり方を見つめ直すということが必要だとした。

「戦略と構造を正しく行うには」「規模の違いと種類の違い」 ダン・クリン氏

クリン氏は、ひとつめの講演「戦略と構造を正しく行うには」のなかでまず、「デザインとは意図のレンダリングである」「インフォメーション・アーキテクチャは情報でつくられた場所をつくることである」と話した。建築物を例に挙げ、長い間人々に美しいと思われるような建物をどうしたらつくることができるのか? という視点から、すぐれた構造のあり方として、「地図をつくり意図を伝達すること」「情報の並べ方の意味を考察すること」「あえて詳細度の低い模型をつくること」の3つを挙げた。

ふたつめの講演「規模の違いと種類の違い」では、規模の大小に関わらずそのプロジェクトの本質を見失わないための方法論を解説。明確に意図を表す「ダックデザイン」の考え方や、全体を俯瞰し、いま扱うのはどの部分なのかを意識する「バルコニーとサイロ」の考え方などを紹介した。また、クリン氏はふたつの講演を通して「デザイナーの悪い癖は、問題の全体像をとらえる前にすぐに対症療法的に解決策を見つけてしまうこと」であると、デザイナーの問題点を指摘した。

「UXの現実と課題 - 未来に向けて」 黒須 正明氏

黒須氏は、まずUXの問題点として、多くの人がいろいろな意味で「UX」という言葉を使っており、定義が明確になっていないことを指摘した。過去に定義されてきたユーザビリティや利用品質の考え方を解説し、UXとは主観的・客観的な利用品質の両方を含む考え方であると説明した。

また、UXとして重要なのはユーザーが製品と触れ合いながら感じる満足感であり、そのようなUXを設計するための方法として「感性工学」と「人工物進化論」を解説。ある発明のなかで、どんな問題が解決されてどんな問題が残ったかという視点で過去の製品を分析することがイノベーションにつながるとし、新しいアイデアを得るには過去を学ぶ「温故知新」の考えが重要であると話した。

「『上手に作る』から『組織を強くする』へのジャーニーで見えたUXの本質」 清水 誠氏

清水氏は、開発者、IA、ITディレクター、ビジネスアナリストなど、これまでのさまざまな経験を語りながら、UXの本質とはなんであるかを解説した。清水氏は、肩書きに関係なくどの部門にいるときでもカスタマー視点を貫いていたと語り、さまざまな立場を経験した10年間は「ユーザーを知るための旅」であったと話した。

また、データをうまく使い、ビジネスの成果にコミットすることが重要だと繰り返し説明。データを用いて設計のインプットや評価を行えばビジネスにどれだけ貢献できたかを示せるとして、データ利用の重要性を強調。さらに、デザインの価値やコンテンツの貢献度をどう評価するかはあまり語られていないという課題も示した。

パネルディスカッション「UXスペシャリストにきくUXメソッドとその未来」

最後は、登壇者6人とソシオメディア代表の篠原稔和でのパネルディスカッション。テーマとしてまず、「UX戦略についての解釈、見解」が挙げられた。ホブス氏は「UXの考え方はデジタルに特化するのではなく、もっと広くとらえるべきだ」と語った。文化的および物理的な資本をどのように社会に還元するのかといったソーシャルマネジメントの重要性を挙げ、UXはそういった企業活動の方向性を定めるものであると話した。

ふたつめのテーマは「メソッドがはたす役割と発展」。清水氏は「メソッドがあるとスケールしやすくなるので考えを広めるのには便利だが、表面だけまねてしまうリスクがある」と、メソッドがもつ問題点を指摘。モービル氏は「ステークホルダーやユーザーの求めているものを知るためにメソッドを使って話を始めるきっかけとすれば、クリエイティブに利用することができる」とメソッドの新しい可能性を示した。


左からピーター・モービル氏、ダン・クリン氏、ジェイソン・ホブス氏、上野学、清水誠氏、黒須正明氏

今回のフォーラムは、問題解決に取り組むにあたり物事の全体像をいかに理解するか、あいまいな部分をどう扱うか、といったUXを実践するうえで基盤となる考え方をじっくり学ぶ機会となった。なお、ソシオメディアでは、今回のSummer「UXメソッド」に続き、10月に Fall「UXメトリクス」、12月に Winter「UXリーダーシップ」と、2015年にあと2回のUX戦略フォーラムを計画している。引き続き来場者とともにUX戦略についての理解を深め、具体的な実践方法を模索していく予定だ。

関連情報:
今後のUXSFについて
https://www.sociomedia.co.jp/uxsf


[筆者プロフィール]
ソシオメディア株式会社●2001年に設立されたUXデザイン・コンサルティングファーム。ユーザーインターフェース設計やユーザビリティ評価を専門に実施。同時に、企業組織やチームへのコンサルティング活動やITスタートアップにおけるリーンアプローチの経験などを活かし、ITとエクスペリエンスデザインに関わる包括的な専門性を用いながら、企業のイノベーションに向けた「UX戦略コンサルティング」の諸活動に注力している。
URL:https://www.sociomedia.co.jp/

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