日本進出を発表したメディテク企業BuzzFeedの衝撃

日本進出を発表したメディテク企業BuzzFeedの衝撃

2015年09月08日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)



バイラルメディアの雄、BuzzFeedがついに日本進出を正式に発表した。2015年度内にサービスをローンチするという。しかも、国内最大級のポータルサイトを運営するヤフーとの合弁会社としてのスタートだ。カカオトークの例を見るように、ヤフーと組んだからといって必ず勝つというわけではないが、それでもこの組み合わせは、現状もっとも理想的であるといえよう。

バイラルメディアという呼び方は、特に日本国内ではちょっと侮蔑を含んでいたと思う。BuzzFeedクローンのようなサービスは2013~2014年には多く見られたが、そのほとんどは消えた。生き残ったのは、オーディエンスの対象を若い女性や主婦に向けた変形的なバイラルメディアだったが、バイラルメディアと呼ばれることを嫌ったことで、新たにキュレーションメディアと呼ばれるようになった。

BuzzFeedあるいはバイラルメディアは
・インターネット上のさまざまな記事を集め、それらを紹介するコンテンツをつくる(=取材はせず、インターネット上からおもしろそうなコンテンツを集めて紹介する)
・FacebookやTwitterなどのソーシャルサービスを介してコンテンツをオーディエンスに伝搬する
という特徴をもつが、前者の「取材はせずインターネット上からコンテンツ収集・選択(=キュレーション)」機能のみをフィーチャーすることで、キュレーションメディアが生まれたといえる。

逆にBuzzFeedは、キュレーション機能を弱める、もしくは捨て去る方向に動いており、自分たちで取材や制作をして、オリジナルコンテンツを配信することにリソースを割きはじめている。つまり、BuzzFeedはキュレーションメディアではないのだ。

そしてBuzzFeedは、いかにしてソーシャルでコンテンツを拡散するかを、単なる経験則に基づくノウハウだけでなく、それらを科学的に検証したうえでCMSなどのツールに落とし込むための、テクノロジー開発に力を注いでいる。

これを僕はメディテク(メディアテクノロジー)と呼ぶ。

金融系のテックベンチャーをフィンテックと呼び、また広告系のテクノロジーをアドテクと呼ぶのと同じだ。これまでメディアを運営し、活性化させていくための技術は属人的であったが、BuzzFeedはそれをテクノロジーへと昇華させ、いつでも再現可能なものに変えようとしているのだ。

BuzzFeedはコンテンツをつくる際に、どういうつくり方をしたらバズるかを科学的に論証し、誰でもいつでも最適化できるためのプラットフォームを開発している。さらに、ソーシャルメディアごとに(つまりFacebook、Twitter、Instagram、Pinterestなどのメディアごとに)口コミの発生の仕方が異なることも理解し、個別に異なるコンテンツをつくったり、同じコンテンツでもサムネイルやタイトルを変更するような工夫をしている。それらもすべて、自動的に選択できるような仕組みを開発しているのだ。

つまり、BuzzFeedはメディテク企業だ。日本国内に存在するどのキュレーションメディアとも異なる。BuzzFeedの強みは、自分たちの経験をテクノロジーに置き換えて、磨き上げてきた強力なCMSにあるのだ。

BuzzFeedは現在、企業価値15億ドル以上とされており、潤沢な資金をほこる。最近10億ドル以上の企業価値をもつベンチャー企業をユニコーン(角を持つ馬。角を10億ドルの象徴としている)と呼ぶらしい。僕は従来通りビリオンダラークラブ、と呼ぶほうが好きだが、そこはまあいい。

ユニコーンを輩出する市場には、条件がある。それは英語圏か中国語圏に存在すること、もう少し具体的にいえばアメリカか中華人民共和国に存在するということだ。

残念ながら日本のスタートアップは、日本国内に特化したサービスをつくらないと、なかなか成長の初速を得られないし、ベンチャーキャピタルの支援を取り付けられない。結果として国内市場に縛られて、日本語という巨大ではあるが非常にローカルな言語、日本人の特殊な嗜好に合わせているうちに、みずから成長の限界をつくってしまいがちだ。

逆に、その特異性が、いわゆるガラパゴス市場として海外ネットベンチャーが上陸するためのハードルを上げてきたことも事実だが、FacebookやTwitter、Instagramなどのソーシャル系サービスが国産SNSのmixiを駆逐したおかげで、この状況も変わりつつある。

日本から海外へと進出することは相変わらず難しいが、海外から日本市場に進出することは限りなく簡単になってきた。BuzzFeedにとってみれば、コンテンツというウイルスが繁殖しやすい環境が、アメリカでも日本でも整ってきたということである。

BuzzFeedは、日本国内でもパンデミックを起こそうとしている。日本のメディアはまだBuzzFeedの価値を低く見積もっているようだが、それはBuzzFeedを表層的にみており、国内のキュレーションメディア群と同じレイヤーでみているからだ。BuzzFeedの真のすごみは、彼らがもっているCMSにある。BuzzFeedはメディテック企業であり、現時点の国内キュレーションメディアとはまったく異質な存在なのだ。




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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