iOS9の広告ブロック機能で再燃するAppleとGoogleの戦い

iOS9の広告ブロック機能で再燃するAppleとGoogleの戦い

2015年09月24日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)



AppleがGoogleに放つ最大の嫌がらせ
僕が「アップルとグーグル」をリリースしたのが2008年。続いて2010年には「アップルvsグーグル」という著書を、ITジャーナリストの林信行氏とリリースした。あの頃は、AppleとGoogleを比べてどうするのか? と酷評を受けたものだし、両社が本格的に対立していくと考える人は少なかったものだが、いまではこの両社がIT業界を二分する大勢力として、完全な競合状態にあることを疑うものはいまい。

ハードウエア――特にiPhoneの販売による収益をメインとする(利益の7割をiPhoneから得ているという)Appleと、広告による収益をメインとするGoogleは、ビジネスにまい進すればするほど互いの利益を削り取ることになる。

GoogleはAndroid端末から利益を得ておらず、OSを無料で配ることにより、自社の検索エンジンの勢力範囲を広げ、広告収入を最大化できる。そのおかげでPhoneのシェアは下がる一方だ(日本国内市場だけがiPhoneがシェアを広げている)。Appleからすれば、AndroidはGoogleの嫌がらせ以外のなにものでもない。

そして、今回Appleが発表した「iOS9の広告ブロック機能サポート」は、Googleに対する強烈なしっぺ返しである。広告ブロック機能といっても、広告ブロックアプリをインストールしないことにはなにも起こらない。アプリをインストールし、機能をアクティベートさせてはじめて、標準ブラウザであるSafariで広告が非表示となる仕組みだ。

実際に試してみると、Googleの検索結果画面でAdSense広告が非表示になった。あまりに自然で「前はどうだっけ?」と比べてみたほどだ。GoogleにとってはiPhone上での広告収入が激減する可能性があり、相当にカリカリしているところだろう。

広告ブロック機能を使うと、Webサイトの表示速度が劇的に上がるので、インストールするユーザーは増えるものと考える。これまではマニアックなユーザーしか使っていなかった機能だが、今後はインターネット活用時のノウハウとして広まりそうだ。AppleからすればGoogleへの対抗策であるのだろうが、大義名分としてはWebの高速化を高らかに謳うことができる。地味だが、じつに巧妙な嫌がらせであると思う。

広告業界・メディア業界に与える影響とは
さて、Googleがどう思うかはおいて、広告を簡単にブロックできるということで、いわゆるアドネットワークを事業の主軸に置く企業や、アドネットワークを収入源とするメディアやアフィリエイト事業者も、今後存続の危機にさらされる可能性がある。

前述したように、これまで広告ブロックアプリは広告を忌避する一部のユーザーのみがインストールしていたが、iOS9で広告ブロック機能を採用したことにより、いよいよ多数のユーザーが積極的に広告を排除する時代が訪れそうだ。

The 2015 Ad Blocking Report」によると、2015年6月の広告ブロックアプリユーザーは全世界で2億人近くいて、しかも前年比40%で伸びている。世界のインターネットユーザー数は推定30億人だが、そのうちの数%が広告を遮断しており、2015年では220億ドル相当の広告が無効化されている。日本人の広告ブロックアプリ利用率は現状わずか2%だが、iOS9によって急速に拡大することはまちがいあるまい。

つまり、これまでのようにSEOやアドネットワークに依存することが非常に難しい時代がすぐそこに来ているわけだ。そこで、急速に注目を集めるのがコンテンツマーケティング(オウンドメディアも含む)である。コンテンツマーケティングはその性格上、モバイルやソーシャルと親和性が高く、しかも原則として広告ブロックの影響を受けにくい。いよいよもってコンテンツマーケティングが、今後インターネット業界のトレンドになることが考えられる。




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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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