あえて洗練しないデザインでグッドデザイン受賞。その理由とは?

あえて洗練しないデザインでグッドデザイン受賞。その理由とは?



2015年9月30日
TEXT:編集部

昨日発表された「2015年度グッドデザイン賞」。その受賞作品のなかで、あえて「洗練しないデザイン」を意図した結果、受賞に至ったWebサイトがある。それは秋田県内の広報や観光情報などを無料で閲覧できる地域特化型のポータルサイト「アキタイーブックス」。そのデザインに込めた真意は何だったのか? サイトの制作・運営を担う、秋田協同印刷の熊岡雅也さんに話を聞いた。


■きっかけは、社業を通じて「秋田に貢献したい」という想い


「アキタイーブックス」のトップページ

「アキタイーブックス」は、秋田県と県内25の全市町村の広報誌や観光・イベント情報冊子などを無料で閲覧できる情報サイトで、記事執筆時点(9月29日)で1512冊ものコンテンツを揃え、随時新しい冊子が追加されている。各都道府県で同様のコンセプトを掲げて活動する「●●イーブックス」をサポートしている「ジャパンイーブックス事務局」の支援のもと、2013年12月に正式オープンし、コンテンツの拡充をはかってきた。


ブラウザ上でページをめくるように、観光案内パンフを閲覧できる


秋田県と県内全市町村の広報も閲覧可能

熊岡さんらが秋田で「イーブックス」を立ち上げるきっかけとなったのが、社業である「印刷業」を通じた気付きだった。

自治体や公的団体等が発行する刊行物は民間と違い、予算や発行部数が限られている上、設置場所へ行かなければ入手できないことが多く、情報を「知ることができない人」が存在する現状を目の当たりにしていたという。さらに、東日本大震災で郷土の貴重な資料や書類が津波にさらわれ、二度と見られなくなってしまったケースの話も耳にし、「社業を通じて地元秋田に貢献できれば」と思ったのが始まりだったそうだ。

各自治体の広報誌をはじめとする地域の情報を電子書籍化し、Web上に掲載することで発行部数や設置場所の問題が解決できる。また、データとして保存していくため、郷土の記録を未来に残すことができるし、秋田県に特化した電子書籍が集まるポータルサイトがあって、誰もが無料で利用できるようになれば、秋田を訪れる観光客だけでなく、県民にとってもメリットが大きいと考えたのだ。


■デザインのポイントは、「ひと目で秋田とわかること」

グッドデザイン賞の受賞で、アキタイーブックスのサイトデザインは今後注目を集めることになるだろうが、実は「最初からあえて洗練しないデザインを心がけたんです」と熊岡さんは言う。


ある意味ベタなモチーフだが、秋田らしさが伝わるメインキャラクター


黄金色の稲穂をイメージした配色は、米どころの秋田らしいチョイス

Webサイトのデザインは、ジャパンイーブックス事務局が提供した技術やレイアウトテンプレートをベースに、ロゴや配色、構成内容などをデザインしたものだ。

「シンプルで美しい、スタイリッシュなものだけがデザインではありません。あえて田舎くさい砕けた雰囲気を出すというか…とにかく幅広いターゲットに親しみを持ってもらい、ひと目で秋田とわかるデザインを目指しました。メインキャラクターは全国にも知られている『なまはげ』をモチーフにした地元のキャラクターを起用し、随所に郷土的な雰囲気を出しました。秋田は有名な米どころでもあるので、サイトの配色は稲穂の色をイメージしています」

秋田県内の電子書籍に特化したサイトだからこそ、「秋田らしさ」の表現にこだわったデザイン。その狙いは見事に実を結んだ。審査員からは、「色、キャラクター、デザインコンセプトから地元への愛を感じさせる」と高く評価されたのだ。


■デザインの背後にあるチャレンジ精神も評価


自治体ごと、ジャンルごとに絞り込んで冊子を検索できる

もちろん、情報サイトとしての価値を高める努力もあった。秋田県の全25市町村と契約を結び、県内全域をカバーする電子書籍のポータルサイトに成長させた点も大きい。

秋田県では伝統的な祭り行事や、グルメイベントがさかんに行われているので、それらの冊子を「夏の観光・イベント情報」などの特設ページでまとめたり、地元のプロバスケットボールチームの広報誌も全て揃えて特設ページを作るなど、さまざまな切り口で「秋田のことを知りたい」というニーズに応える、使いやすい構成・レイアウトを重視した。


祭りやグルメイベントの冊子を特設ページでまとめている


地元プロバスケットボールチームの広報誌も全て揃う

審査員は、「秋田県内の広報誌をすべて電子化するというチャレンジ精神が素晴らしい。秋田県の情報が一元的に管理されているため、県外に対して魅力を発信できるとともに、県内の人にとっても利便性が高いサービスである。県外在住の秋田県出身者の方にとっても故郷の情報が届くのは嬉しいのではないだろうか」と、高く評価している。親しみやすいデザインと背後にある熱意と努力が実を結んだ受賞といえそうだ。


お話を伺った、アキタイーブックスの熊岡雅也さん

実は、熊岡さんらはサイトを立ち上げたばかりの2014年に、あきた産業デザイン支援センターからの声掛けで初めてグッドデザイン賞に応募したが、当時のコンテンツはまだ県内全域をカバーしておらず、2次審査で落選という結果に終わった。今回はその悔しさをバネにした再挑戦だったという。

「ここまで来られたのは、ジャパンイーブックス事務局や、他県のイーブックスの皆さんの支え、そして社内の理解や協力があったから。全国的に知られるグッドデザイン賞を受賞したことで、より多くの人にイーブックスの存在を知ってもらい、電子書籍で地域に貢献しようと頑張っている全国の仲間の励みになれば嬉しいです」と熊岡さんは話している。

地域特化型の電子書籍ポータルサイト「●●イーブックス」は、現時点で全国21都道府県で展開中。それぞれ、デザインに共通性を持たせつつ、地域の特色を出したWebサイトになっている。興味のある方は「ジャパンイーブックス公式サイト」からチェックしてみてほしい。

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