迷走するTwitterの二つの戦略

迷走するTwitterの二つの戦略

ジャック・ドーシーCEO就任とキュレーションサービス『モーメント』



2015年10月13日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

Twitterの株価は10月に入ってから急伸し、時価総額200億ドル(≒2.4兆円@120円=US$1)を回復させている。1年間で見ると、まだ最盛期の半分ほどに過ぎないが、それでも回復基調を取り戻したことは大きい。

僕は「140文字では語れないTwitter迷走の原因」で、Twitterの株価が低迷してきた理由の一つとして、TwitterのMAU(月間アクティブユーザー数)が期待するほど伸びておらず、それはTwitterが徐々に複雑化しており、新規ユーザーを遠ざけているからだと述べた。

そして、こうした問題点を解消するための施策を力強く社内と市場に指し示せる新しい強力なCEOの選定。それが急務である、と書いた。つまり、現在の市場に好感を与えているのは、共同創業者であるジャック・ドーシーのCEO復帰だ。正確に言うと、暫定CEOから永続的なCEO就任を、彼が許諾したことなのである。

ジャック・ドーシーはオンライン決済サービスのスクエアのCEOも兼任しているが、投資家からはそれはあまり問題視されていないらしい。かつて、Appleのスティーブ・ジョブズもそうだったからだ。(PIXARとApple)

それにしてもジャック・ドーシーは自らをスティーブ・ジョブズになぞらえて自己演出するのが本当に好きらしくて、微笑ましすぎる。彼がジョブズの熱狂的な心酔者であることはよく知られているが、それにしても、かつてのジョブズに真似て、まず暫定CEOとして期待を煽りながら、しぶしぶ正規のCEOの座を承諾するその姿は、ややいじらしいほどである。

しかし、模倣者であろうがなかろうが、現実問題としてTwitterのリーダーとして、ジャック・ドーシーほどふさわしい者はいないのは事実だ。

ジョブズがAppleに復帰したときに、あまりに複雑化して非効率だったプロダクトラインを、コンシューマー向けとプロ向けに二分し、そしてそれぞれにノートブックとデスクトップをひとつずつ置くことで、たった4つのシンプルなプロダクトラインに変えた。同じくドーシーはTwitterのサービスをシンプルに作り変えねばならない。また、ジョブズがiMacというヒット商品をまず生み出すことでAppleに高収益をもたらしたように、ドーシーもTwitterに、市場が喜ぶわかりやすい商品を作る必要がある。

そこでまず生まれてきたのが、「モーメント」というサービスだ。

「モーメント」は、Twitter上で話題になっている注目ツイートを、アルゴリズムではなくTwitter内のスタッフがピックアップして紹介する、キュレーションサービスだ。現時点では米国内だけのサービスで、日本では使うことができない。

Twitterは基本的に時系列順に流れていく膨大な量のツイートを読むほかない。もちろん自分がフォローしている人のツイートに絞り込むことができるわけだが、たくさんフォローすればそれだけ雑多な内容のツイートが流れ込んでくるので、受け手からすると消化しきれない事態に陥る。また、フォローしていないアカウントの情報はこないから、自分が意識していないジャンルの情報を入手することはできない。

今回「モーメント」が実現するのは、Twitter上で溢れる様々なツイートから、Twitterのキュレーションチームが人為的にピックアップしたさまざまな情報をまとめ、ユーザーに提供する、つまりTwitter上のツイートを情報源としたキュレーションメディアである。

そもそもキュレーションメディアは、ソーシャルネットワークに寄生するメディアである。インターネット上のコンテンツはすべてリスト化するには多すぎるが、より良質なコンテンツだけをセレクト(キュレート)することは可能だ。そして、キュレートされたコンテンツをソーシャルネットワークに流すことでトラフィックを集める。

Twitterがトライするのは、自分たち自身のコンテンツを再利用し、自らキュレーションメディアとなることである。この試みが、Twitterを見限ろうとしてきた市場の投資家たちに対して、ジャック・ドーシー自ら「Just A Moment(ちょっと待った!)」とストップをかけることができるサービスに育つかどうか、注目していきたい。





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140文字では語れないTwitter迷走の原因




[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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