OpenStreetMapマッパーが浜松に大集合!「State of the Map JAPAN 2015」レポート

OpenStreetMapマッパーが浜松に大集合!「State of the Map JAPAN 2015」レポート


「State of the Map JAPAN 2015」公式サイト

2015年11月13日
TEXT:片岡義明

オープンでフリーな地図データを作るプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」の年次会議「State of the Map Japan 2015(SotM2015)」が10月31日、静岡県浜松市のアクトシティ研修交流センターにて開催された。State of the Map(SotM)は、世界各国のOSMコミュニティが開催しているカンファレンスイベントで、SotM Japanはその日本版として、OSMの活動を支える法人組織「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)」が開催している。

日本では2012年にOSMの国際カンファレンス「State of the Map Tokyo」が開催され、その日本版カンファレンスとして第1回のSotM Japanが2014年12月に東京で開催された。今回のイベントはその2回目で、浜松に会場を移しての開催となった。


会場となったアクトシティ研修交流センター

OSMは“Wikipediaの地図版”とも呼ばれており、誰もが自由に使える地図データを市民の手で作ることを目的としている。そのユーザーは“マッパー”と呼ばれており、スマートフォンやGPSロガーで取得したログをトレースして地図を作成したり、POI(店舗/施設情報)の登録を行ったりして地理情報データを編集している。また、Yahoo Japan Alpsデータや国土数値情報をなどをインポートしたり、Bingの航空写真や国土地理院の地理院地図をトレースしたりすることも行なわれている。このようにして作成された地図データは、インターネットを介して自由に入手可能で、商用・非商用にかかわらず自由に利用できる。

■日本のOSMデータが抱える課題に挑戦

このOSMデータを使ってビジネスを展開している企業のひとつが、今回のSotM2015で基調講演を行った米MapBoxだ。同社はOSMなどのオープンな地図データを使って、ユーザーがさまざまなデザインの地図を作成できるサービスなどを提供している。同社データチームのArun Ganesh氏は今回のSotM2015において、日本のOSMデータに関する課題について講演を行った。同社が日本でのビジネス展開を検討するにあたって日本のOSMデータを確認したところ、主に都市部から離れた郊外において道路ネットワークデータと写真データがズレている箇所があり、交差点がうまくつながっていないケースが見られた。「MapBoxのデータチームは、日本のOSMデータの改善に取り組んでいます。まず狭い地域で試験的に修正を行い、どのように修正すればいいのかを明らかにして、より大きな地域に進出したいと考えています」とGanesh氏は語る。


Arun Ganesh氏

「日本のOSMデータの改善への取り組みは、GitHubのissue(課題管理機能)で管理しており、これは公開されているので、今どのようなことをやっているのか、また過去にどんな議論があったのかが記録されています。OSMデータの修正にはスキルが求められますが、今後はコミュニティと連携して修正していく方法を模索したいと思います。修正の進捗状況を示すタスキングマネージャーも公開されていて、OSM用の地図エディタ『JOSM』の使い方がわかる人なら誰でも参加できます。Facebookグループやtalk-jaなどさまざまなところで議論を行っていますので、ぜひ参加してください。日本の最高のマップを作りましょう!」(Ganesh氏)


道路ネットワークデータと写真がズレている箇所がある


タスキングマネージャー

このような日本OSMデータの課題については、このイベントの最初の登壇者であるドイツ人のマッパー、Daniel Kastl氏も「ドイツ人マッパーが日本のOSMコミュニティから学べること」と題した講演の中で話題として取り上げた。Kastl氏はほかにも日本のOSMの特色として、日本のタグスキームが欧米と違うことや、独自の住所システムを使っていることなどの課題を挙げる一方で、日本コミュニティの長所として、「マッピングのエキスパートがいること」「デバイスが豊富であること」「マッピングパーティがよく開催されること」「コミュニティの結びつきが強いこと」などを挙げた。Kastl氏は「OSMの未来は明るいと思います。今は問題があるとしても、OSMは良くなると思います」と語った。


Daniel Kastl氏

■OSMを活用した地図アプリや位置情報ゲーム

今回のイベントでは、OSMの地図データを使用したアプリを提供する日本企業による講演も行われた。株式会社日立製作所 情報・通信システム社の相川哲盛氏は、OSMを活用したオフラインマップアプリ「WISMOBI Explorer」について紹介した。同アプリは2014年12月に開催された第1回のSotM Japanにて発表されたAndroid用のマップアプリで、現在、β1版が公開中。地図データはベクトル形式で、データをすべてスマートフォンのローカルストレージに保存するため、スクロールなどはとてもスムーズだ。「最初の頃はデータの抽出に苦労していましたが、今ではかなり良くなってきていて、一方通行まで表示できるようになってきていますので、ぜひ使っていただきたいです」と相川氏。

11月の中旬にリリース予定の最新版では、地図上で場所を指定してつぶやきや写真を投稿することが可能となる。投稿された内容については、ほかのユーザーが閲覧・編集することが可能で、ユーザー同士で会話しながら、さまざまな情報を公開できる。同社はほかにも、車両前方を写した画像から道路標識を自動認識する機能や、プローブ情報から新規開通道路を見つける技術、進行方向制限の取り込み、走行中のレーンガイド機能、海外版アプリの開発、iPhone版の開発などにも取り組んでいる。


相川哲盛氏


「WISMOBI Explorer」

このほか、ヤマハ発動機株式会社の藤本勝治氏による、OSMを活用した位置情報ゲームアプリ「RevQuest」の紹介も行われた。同アプリは、3つのチームに分かれてチームのアクティビティ(活性度)を競う位置情報ゲームアプリ。実際にスポットまで足を運んでチェックインすることでポイントを獲得し、獲得したポイントを使ってカードを獲得する。クエストをクリアすることでスペシャルカードやボーナスポイントを獲得することが可能で、チェックイン場所で写真を撮影してSNSに投稿したり、アプリ内で他ユーザーにシェアしたりすることもできる。同社は同アプリを、新着情報やイベント情報を発信するなど、プロモーションの一環として提供している。

藤本氏は、OSMコミュニティに期待することとして、「POI情報の充実&検索機能」「ナビゲーション機能」などに加えて、「二輪車特有の規制情報」も挙げた。日本における二輪車の規制は複雑で、排気量別に細かく内容が異なり、その情報を保有している企業は皆無だという。「RevQuestは移動を目的としており、地図で目的地を調べて、現地に行ってアクションをするというアプリなので、出発地と目的地の間はなにもすることがありません。我々としては“点”(POI)を提供しているので、それにマッパーのみなさまが持つ“線”(経路)のデータを組み合わせて、なにか一緒に活動できることがないか検討してみたいと考えています」(藤本氏)


藤本勝治氏


「RevQuest」

■建物の情報を集約するオープンビルディングマップ

一方、OSMの手法を学術分野に役立てた事例としては、GFZ(ドイツ地球科学研究所)のDanijel Schorlemmer(ダニエル・シューレンマー)氏と、東京大学地震研究所の平田直氏が、「全世界の動的曝露人口推定とオープン・ビルディング・マップ」と題した講演を行った。地震の研究者である両氏は、地震の被害を推定するために、揺れる場所にどのような建物があり、そこに人が何人いるかを正しく推定する必要があると語った。そして推定するためのデータを収集するための手法としてOSMの考えはとても適しており、このようなデータを地域の人が自分で調べることができる仕組みとして、建物の中の情報を30秒ごとに更新する「OpenBuildingMap(オープンビルディングマップ)」を開発中だという。

OpenBuildingMapには、建物が住居なのか商業施設なのかといった情報のほか、建物と建物の距離が近いか、離れているかといった情報も収録する。また、土地の面積だけでなく、建物の高さ方向の情報も入れることにより、そこの床面積などもわかる。このような細かい情報を入れることで、最終的には、その建物には何時に何人滞在するかがわかるという仕組みになっている。「このような建物データの入力をスムーズに行えるように、現在ツールも開発中で、みなさんと一緒にやっていきたいです」とSchorlemmer氏は語った。


Danijel Schorlemmer氏(左)と平田直氏(右)


「OpenBuildingMap」のツールを開発中

学術分野への活用事例としては、このほかに、静岡県立大学 経営情報学部の斎藤和巳氏による「Highwayビッグデータから見えること」という講演も行われた。斎藤氏は、Twitterにおけるフォロワー数の分布など、ソーシャル・ネットワークにおける数学的構造を研究しており、OSMにおいても各地の道路網(道路ネットワーク)のつながり方の解析に取り組んでいる。具体的には、OSMで使われている“Highway”(道路の種類を識別するために使われるタグ)データを収集し、各都道府県の道路ネットワークを分析することで、これらに共通する性質や、一部地域が持つ特徴などを例示する。

この分析により、四差路と四差路のつながり(4-4)が多い県や三差路と三差路のつながり(3-3)が多い県といった特徴別にグループ分けできる。ランキングにすると、4-4は高知県が最も多く、3-3では山梨県がトップという結果となったが、実際に高知県の地図を見てみると、確かに四差路が多い理路整然とした交差点が多い印象があり、このような解析の手法によって道路のつながり方の特徴を捉えられることがわかる。斎藤氏は、「私どもが取り組んでいるソーシャル・ネットワークの分析法を使って解析することにより、なにかみなさまのお役に立てる結果が得られないかということでやってみたところ、各都道府県の特徴を捉えられたのではないかと思います」と締めくくった。


斎藤和巳氏


実験設定と結果デンドログラム

■屋台の位置をリアルタイムに把握できる「屋台どこサーチ」

このほか、各地のOSMマッパーによる事例報告も発表された。浜松市に隣接する湖西市にて活動している特定非営利活動法人コラボりん湖西の代表理事・神谷尚世氏は、「地域のチカラをマップにしよう!高齢者版」と題して講演を行った。神谷氏は、病院や介護施設を出て地域に戻った高齢者に、地域の中で活用できる施設や病院などの情報を提供するための地図づくりに取り組んでいる。福祉施設や病院などの情報を一元化してつなげるために、NPO法人やIT企業、行政、社会福祉協議会、介護福祉施設、市民などさまざまなメンバーが集まって、情報を共有し、縦割りになっている民間の情報をつなげることを検討した。これを実現するため、行政に福祉施設・病院の情報を、社会福祉協議会に居場所・サロンの情報を提供してもらい、マップを作成した。今年度中にこれらの情報を整理し、アイコンのデザインや、地域包括支援の区割りで色分けするなど、細かい点を検討してから、介護関係者が活用できるように研究会などを開催したいと考えている。

次に、「日本Androidの会」の浜松支部長を務める市川雅明氏による講演「屋台どこサーチの紹介」も行われた。「屋台どこサーチ」とは、お祭りの屋台(お祭りの出し物)の位置をOSM上へリアルタイムに表示するサービス。屋台のルートや休憩所を表示したり、お祭りの運行情報をマーカーで表示したりすることもできる。屋台にはSIMフリーのAndroidスマートフォンを搭載し、位置情報をサーバーに定期的に送信し、位置情報を受信してWebブラウザ上のマップに表示する。すでに「浜松まつり」「山東まつり」など地元の祭りでの使用実績もあり、細かい改良を繰り返している。今後の改善点としては、屋台の向きや通過した点の履歴表示、作成した屋台のルートのシミュレーション、アクセス解析の導入などを検討している。


「地域のチカラをマップにしよう!高齢者版」


「屋台どこサーチ」

京都からは、京都府向日市在住の山下康成氏によるマッピングの報告が行われた。山下氏は、京都府の向日市の全道路マッピングや、京都府全府道のマッピング、向日市の全建物マッピング、本土四島四端マッピングなどさまざまなマッピング活動を行っている。現在は、京都世界遺産マッピングなどに取り組んでおり、「京都世界遺産マッピングパーティ」などのイベントも開催している。これらのマッピングパーティにより、清水寺や金閣寺、銀閣寺、東寺、上賀茂神社、西本願寺、仁和寺などの主要な寺社を次々とマッピングした。イベントには大学生から80歳代の人までさまざまな人が日本各地から訪れており、毎回未経験者が数人ずつ参加している。今後も月1回のペースで同様のイベントを開催していく予定。このほか、京都女子大学において「東山OSMワークショップ」などを開催したほか、京都の府道交差点名のマッピングにも取り組んでいる。

福島からは、OSMFJの副理事長を務める井上欣哉氏による講演「The State of Fukushima(OSMマッピング活動の報告)」が行われた。福島県在住のInoue氏は、東日本大震災の状況を振り返りながら、GPSロガーと線量計、ボイスレコーダーを組み合わせて空間線量率の簡易測定を行ったことなどを紹介。震災から4年が過ぎた今は、福島ではOSMコミュニティがローカルなマッピングパーティを県内で開催している。最近では、歴史的景観を守ってきた大内宿において、街並み全体と消火栓のマッピングを行うイベントを開催した。また、2014年にドイツで開催されたOSMカンファレンス「SotM EU 2014」では、OSMポスターコンペにOSM福島としてエントリーし、第1位を受賞したことや、「会津若松市オープンデータコンテスト」の活動部門で優秀賞を受賞したことなどを紹介した。このほか、JOSMの勉強会グループなども定期的に開催している。


京都世界遺産をマッピング


井上欣哉氏

埼玉からは、シビックテック組織「Code for SAITAMA」の太田一穂氏が「サイタマッパー活動報告2015」と題して発表。Code for SAITAMAは、さいたま市大宮のコワーキングスペースを中心に活動しており、大宮やさいたま新都心、浦和などでマッピングパーティを開催している。浦和では、自治会と共同で地図を作る取り組みなどを行った。2015年には、4月に川越にて「お花見マッピングポータルパーティ」を開催し、消火栓のマッピングなどを実施した。このほか、大宮盆栽村でもマッピングパーティを開催し、「地域の歴史を学び、街の施設をマッピングする」というテーマで開催し、LocalWikiなども利用してマッピングに取り組んだ。さらに、同様のテーマで岩槻でもマッピングパーティを実施した。今後も継続してこのようなマッピングパーティを開催していく予定だ。

このほか、Wheelmap projectの代表である北海道大学の木明翔太郎氏による講演「Wheelmapを通した福祉の観点からの街づくり」も行われた。木明氏は、北海道大学の学生を中心に、OSMを使ったバリアフリーマップ「Wheelmap」の情報の普及・拡充に取り組んでいる。「Wheel mapping party」というバリアフリー情報を登録するマッピングパーティを定期的に開催しており、円山動物園や歓楽街のすすきのなどで、車椅子でも利用しやすい施設や、逆に利用しにくい施設の情報を収集し、スマホアプリ「Wheelmap」に登録している。「従来のバリアフリー情報の調査は堅いイメージがありましたが、Wheel mapping partyでは、参加者も車椅子に乗ってみることにより、新たな発見をすることを楽しむことができます。プロジェクトが発足してから車椅子で利用可能な施設の情報は確実に増えています」と木明氏は語った。


大宮盆栽村でのマッピングパーティ


木明翔太郎氏

全国のマッパーによるこのような事例紹介に加えて、日本のOSMデータの課題や、OSMを活用したアプリ、OSMデータの学術利用など、さまざまな参加者による多彩な発表が行われた今回のSotM2015。誰もが自由に使えるオープンな地図データを市民の手によって作るプロジェクトであるOSMが、各地でさまざまな交流を生み、地域の課題解決やビジネス、研究などに利用され始めている。このようなOSMの状況を俯瞰し、今後の可能性を感じることができた1日だった。

「State of the Map JAPAN 2015」公式サイト
URL:https://stateofthemap.jp/2015/
2015/11/13

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