“ハッカソン3.0”を目指す開発支援サービス「発火ワークス」が始動、トークセッションを開催

“ハッカソン3.0”を目指す開発支援サービス「発火ワークス」が始動、トークセッションを開催


「発火ワークス」発表イベントの告知ページ

2015年12月7日
TEXT:片岡 義明

近年、さまざまな企業や団体がハッカソンイベントを開催し、オープンイノベーションの場として活用しているが、そのようなイベントで創出されたプロトタイプが実際に製品化されて、事業にまで発展する例はまだ少ない。このような課題を解決するための新たな取り組みとして、企業の新規事業開発を支援する新サービス「発火ワークス(HackaWorks)のリリースが11月24日に発表された。

同サービスを提供するのは、ハッカソンイベントの企画運営サービスを提供する株式会社HackCampと、新規事業の開発現場のコーチングを行っているギルドワークス株式会社。ハッカソンイベントは、日常の業務では生まれないような魅力的なプロトタイプが生まれる場として活用されているが、イベント中に即席で生まれたチームでは開発を継続することはなかなか難しい。たとえイベントで素晴らしい成果が創出されても、その場限りとなってしまうケースが少なくない。

そこで両社は、イベント的な取り組みだけではなく、プロトタイプを短期間で製品化する仕組みが求められていると考えた。そのために必要なのは、持続的に従業員による開発を行える仕組み作りであり、それを支援することを目的としたサービスが「発火ワークス」だ。

■ハッカソンの“これから”を考えるトークセッション

11月24日に東京・上野で開催された発表イベントでは、同サービスの紹介に先立って、オープンイノベーションに関わる5名が参加し、トークセッションが行われた。モデレーターは株式会社サイバーエージェントクラウドファンディング(MAKUAKE)の北原成憲氏で、パネリストは西日本電信電話株式会社(NTT西日本)の中村正敏氏(ビジネスデザイン推進課長)と、株式会社チカクの梶原健司氏(代表取締役)、株式会社HackCampの関治之氏(代表取締役)、ギルドワークス株式会社の市谷聡啓氏(代表取締役)の4名。


トークセッションの様子

NTT西日本の社内でオープンイノベーションの推進やハッカソン、ビジネスコンテストを展開している中村氏は、テレビ局と行なったハッカソン「NTT西日本xTBS TV Hack」から生まれたアイデア「らくがきTV」(タブレットなどに保存している画像や動画に塗り絵やスタンプなどのらくがきを行えるアプリ)を製品化した経験がある。


NTT西日本の中村氏

中村氏はハッカソンを開催しようと思ったきっかけについて、「最初から計算があったわけではない」と語る。「最初は勘ですね。ハッカソンなんて今までやったことがないけど、ひとつやってみよう、とにかく社内を驚かせてやろうと。そうしてハッカソンを実際にやれば、『あの堅い会社が新しいことにチャレンジしている』という驚きを周りに与えられると考えました」(中村氏)

そんな中村氏がハッカソンを行って感じたのは、「やるからには結果を出す必要があること」だという。「らくがきTV」の製品化についても、ハッカソンの具体的な成果としてなにかプロダクトを出し、事業として成功させていく必要があるという思いがあった。「ハッカソン参加者の多くは、お祭りの余韻に浸ったあとは次に移るものですが、自分には『絶対に作ってやろう』という思いがありました」(中村氏)

これまで数多くのハッカソンをプロデュースし、各地のシビックテック組織を支援する「Code for Japan」の代表としても活動してきた関氏は、「“Code for”の場合は定期的に人が集まる会合などがありますが、ハッカソン後も取り組みを継続していくためには、そのような“母体”となるものが大事です」と語る。

「ハッカソンの場合は、できあがったプロダクトそのものよりも、『次の会合をどうするか』を考えるほうが大事だと思います。プロジェクトを継続するにしても、ハッカソンに来た人だけではうまくいかないことも多いし、最初のチームだけで、そのまま製品化までたどり着くことは少ないです」(関氏)


HackCampの関氏

ハッカソンのときに成果の創出に盛り上がっても、その熱意を持続させるのは難しい。参加者のモチベーションをどのように維持していくのかという課題について中村氏は、「大事なのは参加者の気持ち」と語る。「主催者側の熱い気持ちをFacebookのメッセンジャーを使って伝えたり、直接お会いしたりと、ミーティングを重ねることが大事で、自分たちが本気で考えていることを理解してもらうのが大事です」(中村氏)

「ハッカソン最終日のプレゼンテーションとのときは、参加者が一番高揚しているときです。その熱意は本物で、プロダクトに対するニーズも明らかにあるけど、翌日になって会社に行くと冷めてしまう。企画書を作ったら一気につまらなくなり、人にもうまく説明できないということではモチベーションは下がる一方なので、なにかしら仕掛けを作っておくことが大事です。たとえばコンテストに応募するのもいいし、終わったあとにメンバー一同でもう一回会うとか、企業にアプローチするとか、色々な方法が考えられます」(関氏)

プロトタイプの仮説検証などを行っているギルドワークス株式会社の市谷氏は、仮説検証をする上でのポイントについて、「大事なのはやはり参加者の“気持ち”ですね」と語る。「たとえアイデアが1行しか書いていなくても、その事業にどれくらいの思いを込めているのかはとても重要です」(市谷氏)


ギルドワークスの市谷氏

プロダクトに込められた参加者の思いを実現するための手段のひとつとして有効なのが、クラウドファンディングだ。「MAKUAKE」を運営するサイバーエージェント・クラウドファンディングの北原氏は、「クラウドファンディングは、まさに思いを発信していくプラットフォーム」と語る。「実行者がしっかりと仮説検証して、思いが込められていれば込められているほど、ぼくらとしてもそれを全力で伝えられます。最終的には、しっかりとした思いがあれば、最初のハッカソンの開催から、アイデアへのモチベーション、仮説検証につながっていき、クラウドファンディングで共感を集めるところまでつながっていくと思います」(北原氏)


MAKUAKEの北原氏

これに対して、「まごチャンネル」(スマートフォンで撮影した子どもの動画と写真が、実家のテレビに接続した受信ボックスに転送されるIoTサービス)を開発するにあたって、実際に「MAKUAKE」にてクラウドファンディングを行なったチカクの梶原氏は、クラウドファンディングの効用として、「もともと自分たちが持っていた仮説が、もう少し大きめのスケールで見たときでも間違っていないとわかったこと」を挙げた。「自分たちの製品は、最初はリテラシーが高い人は興味を持たないかと思ったのですが、意外とそういう人から反響をいただいたし、想定していなかったリアクションが来たことも意外でした」(梶原氏)


チカクの梶原氏

■プロダクト作成者の思いを発火させるためのさまざまな武器を用意

ハッカソンの開催から仮説検証、そしてクラウドファンディングと、一連の流れが見られた今回のトークセッション。その締めくくりとして、株式会社HackCampの矢吹博和氏が新サービスの「発火ワークス(HackaWorks)」の説明を行った。


HackCampの矢吹氏

同サービスはハッカソンの企画から事業化までを一貫して支援する企業向けサービスで、おもに企業内のクローズドなHackを想定している。事業化を前提としない、純粋に「楽しむ」ためのハッカソンがある一方で、企業が主催するハッカソンにおいて、創出されたアイデアやプロダクトの事業化などの“結果”が求められる場合、ハッカソンを開催するだけでは不十分であることが多い。「発火ワークス」は、ハッカソンで生まれたプロダクトをどのように事業化するかという課題を解決するためのサービスであり、ハッカソンからクラウドファンディングへと至るまでの間に大きな開きがあるため、そこに仮説検証や現場のコーチングなどを行うことで橋渡しをすることを目的としている。


両社の得意領域を組み合わせたサービス

矢吹氏は、もともとはエンジニアが競い合う場であった初期のハッカソンを“ハッカソン1.0”とすれば、非エンジニアも参加するようになってモノづくりのお祭りへと進化した現在の状況は“ハッカソン2.0”であり、それは個人の思いがプロトタイプとして形になる時代であると語った。そして、これから先のあるべき姿として、ハッカソンの成果が事業化される時代を“ハッカソン3.0”として定義し、それを実現するための取り組みが今回発表した「発火ワークス」だという。


成果の事業化を目指す“ハッカソン3.0”

そのコンセプトは文字通り“発火”であり、プロダクト作成者の思いを発火させるために、事業化までの道のりを支援する"発火コーチ”が、現場で活用できるさまざまな“武器”を用意する。武器としては、短時間で新規事業の枠組み作りを行える合意形成のメソッド「視覚会議」や、ハッカソンフェーズで参加者を未来志向にするアイデアワーク「フューチャー・ランゲージ」、課題の解決策を閃かせる「智慧カード」、事業化検証フェーズでニーズ探索を支援する「探索地図」、チームの行き先と成し遂げることを見据えた問題集「インセプションデッキ」、事業化検証フェーズで社内承認を勝ち取る「PPCO」など、オープンイノベーションを実現するためのさまざまな手法を活用する。


事業化まで4つの着火ポイント


フューチャーランゲージ


智慧カード

矢吹氏は、このような取り組みの中で大事なのは“流れ”と“テンポ”であると語る。ハッカソンでは参加者を楽しませる必要があり、そのような作り手のワクワクした気持ちはそのままに、ユーザーの感動へとつなげていくことが大切であるという。さらにその上でプロダクトの事業化検証を行うことにより、事業性の有無をすばやく判断する仕組みを作っていくことが重要であると考えている。


発火ワークスのプロセス

なお、矢吹氏は、今回発表した内容は、まだ"仮説”の段階であり、今回の発表イベントの参加者から集めたアンケートの結果などを始め、さまざまな方面からの意見を集約して発火ワークスのサービスに反映したいと説明している。ハッカソンブームが続く中で、次の段階として“ハッカソン3.0”の実現を目指す発火ワークスの今後の取り組みが注目される。

株式会社HackCamp
URL:http://www.hackcamp.jp/
ギルドワークス株式会社
URL:http://guildworks.jp/
2015/12/07

MdN DIのトップぺージ