オープンデータで地域課題解決を目指す「アーバンデータチャレンジ2015」ファイナルステージ開催

オープンデータで地域課題解決を目指す「アーバンデータチャレンジ2015」ファイナルステージ開催


UDC2015ファイナルステージの会場

2016年03月03日
TEXT:片岡義明

地域の課題解決を実現するためのオープンデータやその活用ツール、アイデアなどを創出するプロジェクト「アーバンデータチャレンジ(UDC)2015」のファイナルステージが2月26日と27日、東京・駒場の東京大学駒場第2キャンパスにて開催された。

同イベントは、地方自治体発のオープンデータや社会インフラに関する情報の収集・配信環境を整備し、これらのデータを使ったツールやアイデアなどを、ハッカソンやワークショップなどを通じて市民発の作品として開発するプロジェクトで、社会基盤情報流通推進協議会(AIGID)と東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)「次世代社会基盤情報」寄付研究部門が主催している。

今回のファイナルステージは、1年間を通して継続的なチャレンジを行ってきた同プロジェクトを締めくくるもので、各地域拠点でのこれまでの活動を振り返るとともに、オープンデータに取り組む各地の自治体職員など関係者によるトークバトルも実施した。さらに、これまで実施してきたワークショップやハッカソンなどを通じて作成され、最終的に応募された158作品の中から最終審査会を開催し、優秀作品を決定した。

実行委員長の関本義秀氏(東京大学生産技術研究所准教授)は、2日目の冒頭で、UDC2015の概要について説明。UDCが注目する重要なリソースとして、「各地域のキーパーソンが集まる場」、「エンジニアやデザイン、専門知識を持つ人との多様な連携(コラボレーション)」、「地域に関係したオープンデータ」の3点を挙げた上で、2015は全国の地域拠点が20地域に広がったほか、今年からは国立国会図書館やナビタイムジャパンなど、強力な専門家パートナーをデータスポンサーに迎えたことを報告した。さらに、データポータル「DKAN」によるオープンデータの提供も、2014年は47地域・約2500件だったのが、今年は153都市・約5000件に増加したことにも触れて、これは今年度の大きな成果であると語った。


実行委員長の関本義秀氏

基調講演では、東京大学公共政策大学院客員教授の奥村裕一氏が、「地方自治体・公共政策へのオープンデータ活用の潮流」と題して講演を行った。奥村氏は、2015年6月に行われたIT総合戦略本部の決定において、政府がニーズオリエンテッドな「課題解決型のオープンデータの推進」に発想を転換したことを評価した上で、府省庁の政策決定過程にオープンデータを活用しようとする姿勢も重要であり、「政府のこのような姿勢を応援し、さらに広げていくことを考えていただきたい」と呼びかけた。

さらに、オープンデータの課題として「ポリシー系データ(行政活動データ)の充実」を挙げるとともに、現在公開されているオープンデータと地域課題を関連付けて考えながら、「どう体系的にデータを出していくかを考えてほしい」と語った。さらに、オープンガバメントに加えて、市民が地域課題解決に積極的に関与し、行政と市民の間でうまく連携を取りながら回っている社会を目指す“オープンガバナンス”という考え方も紹介。「オープンガバナンスの実現のために、行政はオープンデータの推進や“政策見える化カード”の導入、オープン政策作りの推進、行政のプラットフォーム化などに取り組んでほしい」と語った。


東京大学の奥村裕一氏

トークバトルでは、内閣官房の松本正倫氏(まち・ひと・しごと創生本部事務局)と独立行政法人 統計センターの西村正貴氏がオープンデータの統計分析活用をテーマに議論したり、一般社団法人コード・フォー・カナザワ(UDC2015石川ブロック)の福島健一郎氏と横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦裕樹氏が、地域課題解決のための組織作りやイベント開催などについて、コーディネートの極意について語り合ったりと、さまざまな話題をテーマに2日間にわたって5つのセッションが行われた。


トークバトルも行われた

このほか、UDC2015において、各地の拠点が地域課題解決のために行ったワークショップやアイデアソン、ハッカソンなどの取り組みを発表する時間も設けられた。

各地域拠点の活動報告の後は、各部門賞の一次審査通過作品のプレゼンテーションが行われた。今年度は「ソリューション部門」「アイデア部門」「データ・可視化部門」「アプリケーション部門」の4部門が用意されており、一次審査を通過したのは22作品。これらの作品に対して、参加者からの投票が行われ、この投票結果および審査員による評価をもとに優秀作品が選出された。各部門の優秀作品は以下の通り。また、これら4部門とは別に、各自治体の特別賞や学生奨励賞、オープンガバメント推進協議会賞などの発表も行われた。

■ソリューション部門

「写真で紐解くたまがわ」
二子玉川周辺の地域古写真を公共財としてデジタル・アーカイブ化して次世代に継承する取り組み。アーカイブを構築する作業そのものもオープンなイベント形式にしており、昔の空中写真などを見ながら撮影地点を検証するなど、さまざまな活用を行える。


「写真で紐解くたまがわ」

「会津若松市空間位置情報付き写真データ整備と普及」
会津若松市内の位置情報付き写真をオープンデータとして共有する取り組み。すでに、会津若松市周辺で約8万枚の写真を、位置情報付き写真共有サイト「Mapillary」で公開している。


「会津若松市空間位置情報付き写真データ整備と普及」

■アイデア部門

[金賞]「陣痛ダイアリーによる男女共同参画社会をめざすKODOプロジェクト」
マタニティ支援アプリを活用したプロジェクト。周産期支援で必要な機能を実装したベースアプリとオプションアプリで構成されており、オプションとしてはペインレコード機能や、記録データを振り返ることができるタイムシフト機能などを用意している。


「陣痛ダイアリーによる男女共同参画社会をめざすKODOプロジェクト」

[銀賞]「Tenbin」
街のオープンデータを比較して、長所・短所を知ることができるサイト。データを比較するにあたっては、街ごとに面積や人口などの規模が違うため、単純な数値で比較するのではなく、条件を揃えて比較できる。データを天秤に乗せるだけのわかりやすいUIを採用している。


「Tenbin」

■データ・可視化部門

[金賞]「交通量計測器TRAPO」
赤外線距離センサーおよびロガー、バッテリーなどを搭載した安価(材料費は3万円以下)かつ軽量コンパクトな交通量計測器を製作し、一関市内の橋を通行する車や人の量を計測する。交通量を計測することによって橋の維持管理に役立てる。


「交通量計測器TRAPO」

[銀賞]「さすけね降雪情報登録システム」
豪雪地帯の課題である除雪作業を支援するためのソリューション。24時間いつでも電話などを使って自分のエリアの雪の情報を登録できる積雪の可視化登録システムで、登録したデータもオープン化して誰でも利用できる仕組みにする。


「さすけね降雪情報登録システム」

■アプリケーション部門

[金賞]「北海道統計データ閲覧ツールSeseki」
北海道の各市町村の統計データをヒートマップ表示できるWebツール。オープンデータを簡単な操作で地図上に可視化することが可能で、観光客や農産物など、さまざまな分野のデータセットをもとにヒートマップやランキングを作成できる。


[金賞]「北海道統計データ閲覧ツールSeseki」

[銀賞]「大津祭曳山ストーリーテラー」
ビーコンを曳山に搭載することで、祭りが行われている最中に曳山の位置を検知し、接近を知らせるアプリで、大津祭をより楽しむことを目的に開発された。アプリ上で、目の前を通る曳山の名前や、“からくり”のストーリーをその場で知ることができる。


「大津祭曳山ストーリーテラー」

[銅賞]「マプコXD」
地図上にアイコンを設置して街の情報を発信できる防災ツール。街の様子を地図上で表示するほか、コメントを投稿することで、掲示板でコミュニケーションを図れる。災害情報のほか、フリーWi-Fi情報や学校情報など、さまざまな情報を盛り込める。


「マプコXD」

実行委員長の関本氏は締めくくりとして、「来年度のUDC2016では、拠点を10増やして全30ブロックにしたいと考えています。ただし、参加者の方々のモチベーションを維持することも重要で、事務局としては、いかに盛り上げるか、そしてサポートできるかが大事だと考えています。また、UDC2016では、作品だけでなく、地域課題の解決に取り組む活動そのものを表彰する“ベストコーディネーター賞(仮)”のようなものを設置することも検討しています」と語った。来年度の地域拠点の募集については4月下旬頃に開始する予定だ。

「アーバンデータチャレンジ2015」公式サイト
URL:http://urbandata-challenge.jp/
2016/03/03

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