フェイスブックが人気アプリ「MSQRD」を買収した理由

フェイスブックが人気アプリ「MSQRD」を買収した理由

2016年3月14日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

Facebookがベラルーシ発のスタートアップ「Masquerade」を買収した。Masqueradeは、動画フィルターアプリ『MSQRD』を開発しているベンチャーだ。最近Snapchatユーザーの間で人気を博している、動画の加工フィルター機能への対抗措置と思われる。

Facebookは依然として世界一のソーシャルネットワークであり続けている。10代からは既に飽きられていると言われつつも、モバイルシフトには成功し、トラフィックも拡大し続けているしマネタイズも順調だ。

Facebookのライバルとして大金を投じたグーグルのGoogle+は、既にほぼ撤退状態であるし、Twitterはジャック・ドーシーの復帰をもってしても混乱に歯止めをかけることができていない。

そのFacebookにとって、現在唯一の目の上のたんこぶといえるのがSnapchatだ。
このコラムでも何度か紹介しているが(SnapchatにみるWeb業界3大キーワード「ビジュアル×ソーシャル×モバイル」)、Snapchatは、写真や動画、テキストなどを加工して共有することが出来るモバイルアプリである。その最大の特徴は、送信された動画や写真が、開封後 最大10秒以内に消滅するように設定できる、ということである。これによって、若者は記録されたら禍根を残しそうな”ヤバイ”コンテンツでも安心して送り合うことができる。悪ふざけをしたい年頃にはうってつけのサービスなわけだ。

さらに、冒頭で述べたように、さまざまなフィルターを使うことで、例えば目が飛び出したり舌が伸びたりするような、動く面白い加工を写真や動画に加えることができることでも人気が爆発している。

日本においてはSnapchatはあまりユーザーが伸びていない、という印象があったが、実は10-20代の女子を中心に利用者は最近になって急増しているのだ。


Snapchat

このSnapchatに対して、Facebookはまず直接買収を持ちかけたがーInstagramを買収したようにー、これは相手に拒否されて失敗に終わった。すると今度は自社でSnapchatもどきのサービスを開発したが、鳴かず飛ばずだった。

そこで、FacebookはMasqueradeを買収したわけだ。InstagramはFacebookに買収された後も単独のサービスとして成長を続けているが、MSQRDはおそらくFacebookメッセンジャーに統合されると思われる。現時点では、これまで通り単独のアプリとしてサービスを続けるとアナウンスされているが、メッセージングサービスとしてはMSQRDは、他のアプリ(Facebookメッセンジャー、WhatsApp、Instagram)と比べると、まだ単機能であり、これから複雑に機能を増やしていくよりも、他のサービスに統合されたほうが良いだろう。

それはともあれ、Facebookは戦い方が巧みだ。今のところSnapchatの侵攻をとめられてはいないが、それでも有効な対抗策を生み出すまでの試行錯誤のサイクルが早い。このあたりはビル・ゲイツが指揮していた頃のMicrosoftを彷彿させる。

買収がダメなら自社開発を試し、同時に他の良い技術を探しては買う。とにかく動きが早い。その判断の速さは、FlickrやTumblrをいたずらに腐らせていくYahoo!とは大違いであるように思う。


MSQRD


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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