最高益に隠れるiPhoneの失速、iPhone販売台数回復の方策は何か?(前編)

最高益に隠れるiPhoneの失速、iPhone販売台数回復の方策は何か?(前編)

2016年4月14日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

このところiPhoneの販売と、それに直結した生産が低迷しているとの報道が相次いでいる。たとえばiPhoneは、2015年10~12月期で7480万台が販売されたが、2016年1~3月期の最終組み立て台数は4000万台(みずほ証券による)という予想まである。

それは、そうだ。減速傾向にある中国経済の影響もさることながら、いかに革新的で市場を切り拓いてきた製品といえど、ある程度行き渡ってしまえば、いつまでも新規需要を頼りにして上り調子を続けるわけにはいかない。

また、Androidデバイスに比べて最新OSへのアップデート率が桁違いに高いことからもわかるように、常に新しい機能を使うことに積極的な既存のiPhoneユーザーの買い替え需要も、iPhoneの売り上げに貢献してきた。しかし、仕様や性能がある程度飽和してくれば、これも鈍って当然といえる。

かくいうiPhone 6 Plusユーザーの筆者も、6s Plusへの買い替えはしていない。それでも、5s以前のユーザーの買い替え需要喚起については、前回採り上げたiPhone SEの性能・機能面での差が大きく魅力的なだけに、かなり貢献するものと考えている。

だが、本来の需要を支えるべきiPhone 6s/6s Plusとそれ以降のモデルに関しては、どうだろうか?

これまでアップルは、時に付加する新機能を小出しにしてでも、ニューモデルの発表ごとにセールスポイントを確保し、潜在/既存ユーザーにアピールできるようにしてきた。iPhone 6s/6s Plusの場合にも単に処理速度の向上に留まらず、3D TouchやLive Photosといった新機軸を打ち出し、CMでもこれらの点を強調している。

実際には、撮影時に静止画とともに短い動画(シャッタータイミングの前後1.5秒ずつ)を記録するLive Photos的なものは、一部のデジタルカメラでも実現されていた。ただ、iPhone 6s/6s Plusではその再生時のトリガーとして3D Touchを組み合わせることにより、新たなユーザー体験を生み出したところに意味がある。つまり、機能ではなく体験を開発したといえるわけだ。

その上で難しいのは、機能ならば説明しやすいが、体験の違いは実際に使って実感するまでは、なかなか理解してもらえないという点だろう。

また、ハード絡みの3D Touchを利用するためには新機種を購入する必要がある一方で、ソフト的に実現された特徴はジェイルブレイク不要のサードパーティアプリでも代替できたりする。

Live Photosも、App StoreからLiveMakerというアプリをダウンロードすれば、iPhone4s以降、iPad Air/mini 3以降、iPod touch第6世代のそれぞれのモデルで、ほぼ同じ機能と体験を実現可能だ(要iOS 9.0以降)。しかも興味深いのは、このLiveMakerで作成されたLive Photosは、アプリ内のアルバムでも純正の写真アプリに保存されたものでも、タッチの長押しで動画の再生が可能な点である。


LiveMaker - for Live Photos and iOS 9

それは、アップル自身が3D Touch非対応のiOSデバイスでもLive Photosを再生する方法を用意しているからであり、OS X El Capitanでさえも写真アプリやプレビューアプリ内でイメージをクリックすれば動画部分が再生される。

意外だったのは、これまで純正アプリと機能が重複するサードパーティアプリについては承認しない姿勢を見せていたアップルが、LiveMakerに関しては有償ではあるもののリリースを許していることだ(無償の体験版は、撮影回数5回まで、サンプルダウンロード10回までの制約付きで、それ以降は有償版にアップグレードが必要)。

アップルとしては、標準でLive Photosを撮影できるiPhone 6s/6s Plusを販売したいのはやまやまだが、それと並行してLive Photosという体験を、旧機種も含めて普及させたい意向を持っていると考えられる。

実はそこに、単なる機能付加によるモデルチェンジの限界を超えてアップル製品のさらなる浸透を図っていくための深慮遠謀がある。

(後編は明日4/15に公開します)



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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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