建築家・隈研吾氏案の新国立競技場、日本の伝統技術と現代技術の調和のなせるデザイン

建築家・隈研吾氏案の新国立競技場、日本の伝統技術と現代技術の調和のなせるデザイン

2016年6月19日
TEXT:編集部

2015年、旧案が白紙撤回となり再度審査が行われた新国立競技場。2020年開催の東京オリンピックの準備に向けて、オリンピックのエンブレムと共に昨年は大きな注目を集めた。そして、オリンピックにおける総工費の削減などを目標に2015年12月14日、最終選考として隈研吾氏案と伊東豊雄氏案が公表された。

新国立競技場のデザインを巡り、さまざまなメディアが注目し、話題を集めることとなったが、最終的には隈研吾氏案が採用された。だが、この両案、隈研吾氏、伊東豊雄氏ともに日本らしさをイメージしたデザインが魅力的であったことに違いない。そこで今回は、デザイン関連で働くものとして知っておきたい、それぞれの魅力をここで再度紹介したい。

●隈研吾氏案の日本らしさ
~日本の伝統技術と現代技術の調和のなせるデザイン~
隈研吾氏案では、環境との調和木造建築など現代における日本らしさが魅力的だった。まずは外観のデザイン。五重塔を彷彿させるような木材による格子のデザインが周辺にある外苑とうまく調和している。


日本らしさをイメージした隈研吾氏の技術提出案。外観から、日本の伝統を取り入れた設計、内部のデザインが記載されている

さらに「風の大庇」を設置することによって観客席にうまく風を取り入れる工夫もみられる。この風の大庇は格子の幅によって風の量を調整できるもので、日本の伝統的な建築技術をうまく取り入れている。

また、外観もさながら内装もおもてなしを意識したデザインとなっているのが特長で、里山の風景をイメージした大地の社や伝統文化のゾーン、和を感じさせる照明など、細部にわたって日本らしさを感じられる工夫がなされている。

●伊東豊雄氏案の日本らしさ
~宇宙の要素と伝統的な思考に基づいたデザイン~
一方、伊東豊雄氏によって提案されたデザインは、明治神宮における内苑、外苑を意識した伝統を崩さないデザインが魅力的である。まずはスタジアム全体における構造。地・水・木、そして人・風・火・天空と宇宙の要素を取り入れたエネルギッシュな構造で、かつ日本の伝統的な回廊を意識したものであった。


日本らしさをイメージした伊東豊雄氏の技術提出案。内苑・外苑をイメージした競技場の構想、72本の柱を使った競技場イメージが記載されている

さらに注目すべきは、72本の純木製の支柱である。この72本の支柱というのは日本でも取り入れられている古代中国の七十二候をもとにしている。伝統的な日本のイメージである木製の支柱でありながら火災や災害も考慮した最先端の技術の導入は目を見張るものがあるのではないだろうか。

●隈研吾氏の最終決定案、決め手は工事短縮と環境面!?
そして、2015年12月22日、最終選考を経て隈研吾氏案が採用される。隈研吾氏のA案が610点、伊東豊雄氏のB案が602点であったことから、どちらも素晴らしいデザインでかつ選考が難しかったことは間違いないだろう。

ただ、隈研吾氏案における評価点で特筆すべきなのは、方針、工事短縮、環境計画である。特に工事短縮については、旧国立競技場のデザインでは東京オリンピックまでに間に合わない可能性があると指摘されていた。


JSCの新国立競技場のページ。トップには、採択された隈研吾氏案のイメージが掲載されている

東京オリンピックにおけるメイン会場として使用されることを考えるとどうしてもこの工事短縮についてはクリアしておかなければならない。工事短縮ができるデザインという面でひとつ軍配が上がったことが分かる。

また、環境の面も2020年という未来志向において重要な要素ではないだろうか。産業の時代からエコの時代へと変化し、この流れは今後ますます大切になってくる。環境に配慮し、自然をうまく取り入れた隈研吾案は今後の流れを汲むデザインだったのではないだろうか。

●まとめ最終選考結果として隈研吾氏案が採用されることとなったが、どちらも日本らしさを感じられる魅力的なデザインであった。隈研吾氏案採択は、日本らしさプラス工事短縮・環境への配慮などが評価された結果であると言える。今後、2020年の東京オリンピックに向けて、新国立競技場設立の準備が着々と進められていくだろう。

採択された提案はどのように建設が行われ、最終的にどのようなビジュアルになっていくのか今後の行方が期待される。

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