ポケモンGOから学ぶ! UXデザインのアプローチを変える、マクロ視点とミクロ視点

2016年9月30日
TEXT:保坂 浩紀(LEOMO, Inc.)
Pokémon GO(ポケモンGO)、みなさんはまだプレイしていますか。私はまったりと続けています(初代ポケモン赤緑にどっぷりとハマった世代です)。

日本では7月22日に配信されたポケモンGOは瞬く間にユーザー数を増やし、各種メディアに取り上げられ社会現象にまでなりました。

配信から約2ヶ月経った今、「中期的な目標の欠如」「同じことの繰り返し」といったUX的な課題は残存するものの、連携デバイス”ポケモンGO Plus”の発売や、相棒ポケモン機能のアップデート、新ポケモン追加の噂など、未だに話題を提供し続けています。

そんなポケモンGOで今回取り上げたいのは、「拡散性」についてです。ポケモンGOは友達紹介機能やSNS投稿機能といったいわゆる「拡散」のための機能がないにも関わらず、「最初の1カ月で最もダウンロードされたモバイルゲーム」としてギネス記録を打ち立てました。

では、なぜこれほどまでにポケモンGOは非常に速いスピードでユーザー数を獲得できたのでしょうか。本記事ではその理由を「マクロ」と「ミクロ」の2つの視点でUXを捉えることで明らかにし、他サービスのUXをデザインする際のヒントを示します。


意図的なチュートリアルの少なさがゲーム外でのコミュニケーションを
生み出す

ポケモンGOを始めるとまず博士が登場し、その説明に従っていくとめでたく最初のポケモンを捕まえることができます。ここまでの導入はとても優れているのですが、一度はじめのチュートリアルが終わると、重要な要素であるはずのアイテムやジム戦などの説明はほとんどありません。知りたければ誰かに聞くか、ネットで調べる必要性が出てきます。

オンボーディング(※)はUXデザインでも非常に重要視され、特にゲームではユーザーが離脱しないよう手厚いチュートリアルを用意するのが一般的です。しかし、ポケモンGOではそのセオリーに反し、あっさりとオンボーディングを終えユーザーをポケモンGOの世界に放り出します。

※オンボーディングとは、アプリやサービスに新規ユーザーを慣れさせるためのプロセスのことです。さらに知りたい方は、こちらの記事が詳しいです。

これは狭く(=ミクロ視点で)UXを捉えた場合、決して良い体験とは言えません。ユーザーに「迷い」を与え、「調べる」という余計なタスクを課しているからです。

しかし、広く(=マクロ視点で)UXを捉えた場合、ゲーム内での情報の少なさゆえにその攻略情報がリアルな場やSNSでの話題の1つになるなど、「ゲーム外でのコミュニケーション」という体験を生み出しました。(私自身、会社のオフィスでポケモンGOの攻略情報を共有し合いました。)

その話を聞いた同僚がポケモンGOを始める、という口コミによる伝播が生まれ、拡散機能なしでも自然とユーザー数獲得につながったと推測します。

つまり、意図的にチュートリアルを少なくする(=ミクロ視点でのUXを悪くする)ことで、ゲーム外でのコミュニケーションを活性化させる(=マクロ視点でのUXを良くする)ことに成功し、それが初期のユーザー数獲得につながったのです。
ただ、この施策が成功したのはそもそも、ポケモンGOが以下のような話題にしやすい条件を揃えていたからと言えます。

・「ポケモン」というコンテンツそのものの話題性
・「場所/位置」というコンテンツが身近で話題にしやすいこと

また、初期の大ブームが落ち着いた今では、もはや初期ほどの口コミを期待することはできないでしょう。

したがって、この施策が他の新規サービスにもそのまま適用できるかというと、そうではありません。応用するには抽象化する必要があります。


マクロとミクロの視点を使い分けてUXをデザインする

このポケモンGOの事例を抽象化すると、以下のような学びを得ることができるでしょう。

「ユーザーを取り巻く体験をマクロの視点で広く捉えるか、ミクロの視点で狭く捉えるかで、UXデザインのアプローチが変わる」

例えば、ポケモンGOに残存する課題に対しては今後以下のようなアプローチが考えられます。

課題  UXを捉える視点 アプローチ例  歩きスマホのマナー
 問題 マクロ 画面を見なくてもポケモンを捕まえられるポケモンGO Plusの販促と十分な生産台数の確保 ミクロ 歩きスマホ検知機能搭載  都会と田舎の格差 ミクロ ポケストップ過疎地限定で、特定のプレイヤーにポケストップ登録権限を付与  中期目標の欠如 マクロ すれちがい対戦機能の実装(ジム戦以外にも気軽に対戦できる場とその報酬を準備) ミクロ  ジム戦の改善(ビギナーにはハードルの高いジム戦の練習の場を用意する、など)  ポケモンを育てるだけという同じことの繰り返し マクロ  気軽な対戦の場を準備することで経験値獲得しやすくする ミクロ 博士へポケモンを送るUIの改善(複数のポケモンを一括で送れるようにする)
同じ課題に対しても、マクロの視点で捉えるか、ミクロの視点で捉えるかで、別プロダクトの開発や新機能の実装からUIの改善まで、幅広いアプローチが考えられます。

他サービスへの応用例

これは他のサービスのデザインにも応用することができます。

例えば、UXの話で良く引き合いに出される空港の事例があります。「手荷物引き渡しの待ち時間が長い」という課題に対して、「手荷物引渡所まで歩く距離を延ばす」ことでクレームを激減したという事例です。

単に「手荷物を待つ」という体験をミクロ視点で狭く捉えるのではなく、「飛行機から降りて手荷物引き渡し所まで歩く」という体験にまで拡張したマクロ視点を取り入れたことで生まれたアプローチと言えます。

(ただし、この解決策は歩くのが困難な人にとっては嬉しい体験ではないためベストなものとは
言えません。あくまで「視点を変えること」の事例として捉えていただければと思います)

このように、新しいサービスを計画する際や既存サービスの問題を解決する際、UXを捉える視点をズームイン・アウトすることで、新しい発見が得られるはずです。

また多くの場合、UXを捉える視点がマクロになればなるほど、そのアプローチのために多くの関係者を巻き込む必要が出てきます。その調整は大変かもしれませんが、それを達成してこそ、すばらしいUXを提供することができるでしょう。

まとめ

ポケモンGOの「拡散性」を切り口として、ユーザーを取り巻く体験を「マクロの視点」「ミクロの視点」で捉えるかでUXデザインのアプローチが変わることをご説明しました。「木を見て森を見ず」ではなく「木も見て森も見る」ことがUXデザイナーには求められるのです。

今後もポケモンGOのアップデートには注目して、どのようにUXが改善されていくかを見守るのも面白いですね。


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[筆者プロフィール]
保坂 浩紀(ほさか ひろき) | UXデザイナー
千葉大学工学部デザイン工学科意匠系卒業。光学機器メーカーのデザイン部を経て、IoTベンチャーにてUXデザインに従事。デバイス、モバイルアプリ、WebサービスのUX設計から仕様策定、ビジュアルデザインまで幅広く携わっている。『UXデザインのやさしい教本』を監修。
●Twitter: @h0sa ●Blog: UX INSPIRATION!

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