「iPhone 2.0が開く新たなビジネスの動き」(1)



「iPhone 2.0が開く新たなビジネスの動き」
2008年7月29日

TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)


アップルがゲーム機型のビジネスモデルに移行した
という意見は誤った捉え方

発売直後の週末で全世界において100万台が販売されたiPhone 3G。そして、同時に、App Storeからの有償/無償ダウンロード数が1000万件を超えた専用アプリケーション群。これを受けて、ネット上ではさまざまな記事やブログエントリーが飛び交っているが、少し勘違いしているのではと思われる意見も散見される。

たとえば、iPhone 3Gの価格が初代モデルよりも大幅に下がり、App Storeでアプリケーションのダウンロード販売を開始したことから、アップル社が携帯ゲーム機的なビジネスモデルに移行したと捉える向きもあるが、実際は逆である。

携帯ゲーム機は、ハードウエア販売で赤字を出してもプラットフォームとして大量に普及させ、ソフトであるゲームの販売から利益を上げる仕組みになっている。したがって、マシン自体は原価ギリギリだったり、それを下回る価格で売られることもあり、本体の割安感に比べるとゲームタイトルの価格が高めに感じられる。

これに対してiPhone 3Gは、流通コストなどを含めない原価率が55%とも言われ、本体だけで十分に利益ができる価格構造になっている。そのうえで、最終的に世界62カ国で展開されるApp Storeは、タイトルのホスティングや通信回線使用に関わる一切の費用をアップル社が負担するにも関わらず、無償配布のソフトウエアからは販売手数料を徴収せず、有償の場合にも30%の手数料しか取らない(しかも、販売価格は開発者が自由に設定できるので、100円台のカジュアルアプリから数千円もする医療・学術系ソフトまでさまざまな価格帯のものが存在する)。

事情を知らなければ30%の手数料は高く感じられるが、ゲーム機メーカーの中にはもっと高率のマージンを取るところもあり、しかも、それは完全にメーカーの利益となるが、App Storeにおける手数料はオンラインストアの運営実費に近い。デベロッパープログラムへの参加も、ゲーム機の場合には高価な開発キットを購入しなければならないが、iPhoneでは無償のSDKをダウンロードし、一般配布・販売ならば99ドル(日本では10,800円)の参加費用を支払うだけで済む。事実、世界展開を考えているソフトハウスにとっては、契約先が1つで済み、販売に関わる一切の雑務から解放されるのであれば、30%の手数料は安いという認識がある。

話を戻せば、アップル社はApp Storeの運営で赤字が出ても、より多くのiPhone/iPod touchが売れるならば、それで成り立つビジネスモデルを作り上げている。これはiPodにおけるiTunes Storeの位置づけと同じである。そのため、ゲーム機型のビジネスモデルに移行したという意見は、誤った捉え方なのだ。

同様に、大手シンクタンクの中には、iPhoneが「ゲームや音楽を楽しめるエンターテインメント機器に電話を付け足した商品」であり、したがって「メールや通話機能を重視した高機能な携帯電話が普及している日本では、一般顧客の獲得は楽観視できない」などと分析するところもあるが、これも見当外れの意見と言える。なぜなら、アップル社がiPhoneで最も力を入れているのはインターネットコミュニケータとしての機能性だからだ。

ただ、ソニーのmyloの例もあるように、インターネットコミュニケータであることを前面に出してマーケティングを行っても、現在の市場では理解されにくい。そこで、誰にも親しみのあるゲームや音楽、電話機能をフックとして利用し、その実、使ってみるとインターネットコミュニケータとしての有用性に気づき、ネット利用率が高まるような巧妙な商品戦略を組み立てたわけだ。



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