「洋販が自己破産。洋雑誌の今後は?」



「洋販が自己破産。洋雑誌の今後はどうなるのか?」
2008年8月8日

TEXT:蜂賀 亨
(クリエイティブディレクター/エディター)


海外書籍の輸入販売大手「日本洋書販売(洋販)」が7月31日東京地裁に自己破産を申請した。同時に同社のグループ会社「洋販ブックサービス」も民事再生法の適用を申請した。ネット販売の普及などによって、書籍/雑誌が売れなくなってきていると言われているが、このニュースは多くの出版関係者、書店関係者に影響を与えたのは間違いない。

特に、デザイン・アート関係の書籍を中心に取り扱っている青山ブックセンターについては2004年、第三者からの破産申立てによって一度閉店した記憶も新しく、このニュースは出版関係者のみならず、読者であるデザイン・アート関係者にも波紋を拡げているようだ。今回のニュースを聞いて「写真集やデザイン書が売れなくなってきているのでは?」「本屋がなくなってしまうのでは?」といった会話を聞いたりすることも多い。

しかし、書籍が売れなくなってきているのは、決してデザイン書や写真集に限ったことではない。ここ数年でかえってデザインに関するタイトル数は増えてきているくらいだ。本や雑誌などの紙メディアが将来的になくなるかもしれないという可能性はあるけれど、それはまだ現実的ではない。

今回のニュースで注意してほしいのは、たまたま青山ブックセンターという書店が話題になっているが、それは出版ビジネスそのものが変化してきているわけで、デザイン・アート関係の書籍だけが売れていないということではまったくない。趣味の本だろうが、専門誌だろうが、はたまたガイドブックだろうが、読者が本当に求めている内容や役に立つ内容のものだったら、必ずそこに読者は存在している。出版不況と一言でいう以前に、本当に必要な本や雑誌とはなんだろうかと意識をすることのほうが重要かもしれない。どんなにインターネットが普及しても本屋が好きな人たちはまだまだたくさんいる。洋販ブックサービスが展開していた青山ブックセンターと流水書房は現時点では両店舗とも通常どおり営業を続けているようで、今後の運営は近日中に発表になるのではないだろうか。

それよりも個人的に気になるのは、洋販がこれまで取り扱っていた洋雑誌が今後どうなるかということである。書籍に関しては大手書店などは取引先があったり、他のディストリビューション会社もあるので、日本で海外書籍が入手できなくなることはないだろうが、洋雑誌に関しては、ほとんどのタイトルは洋販が取扱いをしており、実際書店などに問い合わせをしても、今後の納品がどうなるのかはいまのところ未定だという。最新のニュースでは『TIME』と『FORTUNE』などは日本出版貿易が今後取り扱いをするとのことだが、『vogue』『lula』『fantastic man』など日本で人気のあるファッション雑誌や、『Creative Review』『Graphik』などのデザイン雑誌はどれも洋販が取扱いをしてきた。

これらのファッションやカルチャー雑誌には固定客がいるだろうし、デザインやアート関係者にとっては海外の貴重な資料でもある。ある程度売れているタイトルであれば、ビジネスとしてどこかの会社が業務を引き継いでくれるかもしれないが、洋販が取り扱っていた膨大な雑誌タイトルのなかには売れていないものもたくさんある。仮にどこかの組織がディストリビューション業務を受け継いだとしても、これまでのようなタイトル数の洋雑誌を展開してくれるのだろうか? ネットで購入したり海外出版社から定期購読するということもできるだろうが、書店でふと手にした洋雑誌がとても面白いことだってある。そういったネットではできない体験こそが本屋の面白いところではないだろうか。

今回のニュースを聞いて、改めて本屋も洋雑誌もなくなってしまってはやはり困ると実感したのは私だけではないと思う。





[筆者プロフィール]
はちが・とおる●クリエイティブディレクター/エディター。ピエブックスを経て、クリエイターマガジン『+81』を企画/創刊させて11号まで編集長。その後ガスプロジェクトにあわせて、書籍「GAS BOOK」シリーズ、雑誌『Atmospehre』編集長などを担当。現在はフリーとしてグラフィックデザインを中心に企画/ディレクションなどで活動中。
http://www.hachiga.com/





MdN DIのトップぺージ