「オリンピックのロゴデザインを楽しむ」



「オリンピックのロゴデザインを楽しむ」
2008年8月15日

TEXT:蜂賀 亨
(クリエイティブディレクター/エディター)


8月8日から始まった北京オリンピック。TVをはじめとするメディアは、連日この話題で花盛りだ。それに伴って大会の象徴であるロゴマーク(エンブレム)を目にする機会も多い。オリンピックをサポートするさまざまな企業や団体などが自社商品やプロモートなどでこのマークを展開するため、オリンピック開催期間中はTVのニュースに限らず、あらゆるところでこのマークを見かけることになる。

これだけロゴマークの露出が多くなれば、普段デザインをあまり意識していないような人であってもやはりそのデザインは気になるようだ。世界中の人々によって、そのロゴマークを見て「好きだ、嫌いだ」「面白い、つまらない」などと、毎回のようにオリンピックのロゴマークについて論議が巻き起こされるのは、もはやオリンピックの風物詩ともいえる。

今回の北京オリンピックのロゴマーク“Chinese Seal, Dancing Beijing”(中国の印章、舞い踊る北京)は、躍動感ある人物の姿に見立てた北京の「京」という漢字を、中国の伝統的な印章で表現したもの。漢字や印章は日本人には馴染みがあり感覚的に理解しやすいが、漢字の意味がわからない西洋の人たちにとっては、この印章のもたらすイメージによって開催地がアジア、中国であるということが強調されてもいる。ロゴマークとしてのフォルムの美しさについては、おそらく意見が分かれることだろうが、このデザインに込められたメッセージはうまく表現されているのではないだろうか。北京オリンピック公式サイトには、このロゴマークに関するコンセプトが明記されており、より深くデザインについて理解ができるようになっている。


エンブレムについての説明がある北京オリンピック公式サイト
http://en.beijing2008.cn/spirit/beijing2008/graphic/n214070081.shtml


2012年に開催が予定されているロンドンオリンピックのロゴマークをデザインしたのは、「TATE」「東京メトロ」などのロゴマークを手がけた有名なデザイン会社Wolff Olins(ウルフ・オリンズ)だ。開催年の「2012」という数字がパズルのようになっており、色が複数が展開されていて、TVやWebなどで動画として展開することまで考えられている。いままでのオリンピックロゴとは少し趣の異なるデザインであるため、昨年6月の発表以降いろいろなところで論議を巻き起こした。その意見はどちらかというと否定的なものが多く、BBCはサイト上で「ロゴ変更キャンペーン」を開催し、一般参加だけではなく、プロの有名デザイナーであるネヴィル・ブロディやジョナサン・バーンブルックなども参加して、それぞれがデザインしたロンドンオリンピックのロゴをみることができるようになっている。ほかにも「デザイン料の400,000ポンド(約9千万円)は高すぎるのではないか」といった意見が出たり、なかには「これだけ話題になれば成功じゃないか」などと言い出す人もいるらしい。



2012年ロンドンオリンピックのロゴマーク決定を報じる英国大使館のWebサイト
http://www.uknow.or.jp/be/s_topics/topics/0706/02.htm


賛否両論あれどオリンピックのロゴマークがこれだけ話題になるということは、世の中の人々のデザインに対する意識が高まってきたことが考えられる。と同時に、人々がよりよりデザインを求めるようになってきているということでもある。

とはいえ、人々の趣味嗜好、生活スタイルなどが多様化している現在、オリンピックという世界中の老若男女をターゲットにしたイベントにおいて、その誰もを満足させることのできるデザインなどは可能なのだろうか? 好みというパーソナルな部分もあるだろう。100人いれば1人はひねくれものがいたりもする。

できあがったロゴマークのデザインだけを見て好きだ嫌いだといった感想を述べるのは簡単なことだし、もちろん個人の意見としていろいろあるのはいいことだ。しかし、ロゴマークには、その目的にあわせた機能性やコンセプトなどが必ず付随するわけで、時には一見しただけではわかりにくいデザインもあれば、押しつけがましさを感じるデザインもあるかもしれない。けれど、そうやってできあがった理由を謎解きのようにひもといていくのも、また、デザインの醍醐味でもある。特にオリンピックのロゴマークなどはメッセージや意味合いがわかりやすく、強いものが多いので、とてもいい例ではないだろうか。

先日発表された東京オリンピック招致ロゴのデザインは「結び」がテーマ。日本の伝統的な「水引」をモチーフにしているが、ラインとオリンピックの5色の組み合わせはとても力強く美しい。「TOKYO●2016」のタイポグラフィと組み合わされると未来的な雰囲気も感じる。「キッコーマン卓上しょうゆ瓶」などで有名な1929年生まれのインダストリアルデザイナー榮久庵憲司氏によるデザインだが、まさにこのロゴには「東京オリンピック招致」というメッセージすべてが込められているすばらしいデザインだと思う。



エンブレムについて解説する2016年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会のWebサイト
http://www.tokyo2016.or.jp/jp/plan/logo/





[筆者プロフィール]
はちが・とおる●クリエイティブディレクター/エディター。ピエブックスを経て、クリエイターマガジン『+81』を企画/創刊させて11号まで編集長。その後ガスプロジェクトにあわせて、書籍「GAS BOOK」シリーズ、雑誌『Atmospehre』編集長などを担当。現在はフリーとしてグラフィックデザインを中心に企画/ディレクションなどで活動中。
http://www.hachiga.com/





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