「世界の気になるデザイナーたち(5) ネヴィル・ブロディ」



「世界の気になるデザイナーたち vol.005
──ネヴィル・ブロディ」
2008年9月26日

TEXT:蜂賀 亨
(クリエイティブディレクター/エディター)


Projecterの田中耕一郎氏によるユニクロの「Uniqlock」が、今年の5月に発表されたイギリスの広告賞「D&AD賞2008」のオンラインアドバタイジング部門でBLACK PENCIL賞(最高賞)を受賞したのは記憶に新しい。

その年鑑である『D&AD Annual 2008』が発刊され、それにあわせて今月23日までロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで展覧会が開催された。毎年恒例になっている年鑑だが、今回そのデザインをネヴィル・ブロディ氏が担当しているのを知って少し驚いた。話題のドキュメンタリー映画『HELVETICA』にも彼は登場していたが、正直いって彼のクレジットを見たのは久しぶりだったからだ。

若い人はあまり知らないと思うが、1980年から90年代にかけて、おそらく世界で最も注目されたデザイナーの1人がネヴィル・ブロディである。いまは廃刊になってしまったが、80年代のファッションバイブルと言われた雑誌『THE FACE』のアートディレクターとして脚光を浴びた彼は、その後も『Lei』『Per Lui』『Arena』などの雑誌のデザインを手掛け、1988年に発行された彼の作品集『The Graphic Language of Neville Brody』は世界でなんと12万部売れ、デザイン書では異例のベストセラーにもなった。

また、1990年に東京の渋谷パルコで開催された彼の展覧会は、日本のデザインのなかでは歴史に残る瞬間といってもいいだろう。アップルが協賛し、来場した多くの人たちはネビル・ブロディの作品を見にくるのと同時に、コンピュータを使ったデザインに興味を持って展覧会を見に来たに違いない。ネビル・ブロディはコンピュータという道具をいち早くデザインにとりいれた1人だからでもある。

当時のコンピュータはオリジナルのタイポグラフィやロゴなどを作り出すのに最も向いていたこともあって、タイポグラフィを得意とした彼は、デジタルフォントにもいち早く注目し、「FUSE」という4人のデザイナーによるオリジナルフォントが収録されたフロッピーとポスターをセットにしたメディアを展開するなど、話題にもなった。

彼が主宰するリサーチスタジオのサイトには『D&AD Annual 2008』をはじめ、最近作がいくつか紹介されているが、やはりタイポグラフィの美しいものが多く、ネビル・ブロディらしさを感じる作品が多い。今後さらに、なにか面白いことをやってほしいデザイナーの1人だ。



左:1990年に東京・渋谷パルコで開催された展覧会『THE GRAPHIC LANGUAGE OF NEVILLE BRODY』展のカタログ
中:12万部売れたという作品集『THE GRAPHIC LANGUAGE OF NEVILLE BRODY』
右:『THE GRAPHIC LANGUAGE OF NEVILLE BRODY2』





[筆者プロフィール]
はちが・とおる●クリエイティブディレクター/エディター。ピエブックスを経て、クリエイターマガジン『+81』を企画/創刊させて11号まで編集長。その後ガスプロジェクトにあわせて、書籍「GAS BOOK」シリーズ、雑誌『Atmospehre』編集長などを担当。現在はフリーとしてグラフィックデザインを中心に企画/ディレクションなどで活動中。
http://www.hachiga.com/





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