「ホンダジェットとMacBookに共通する技術革新」



「ホンダジェットとMacBookに共通する
将来のコストダウンのための技術革新」
2008年10月21日

TEXT:大谷和利
(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

9月のiPod関連の新製品発表に続き、アップル社は10月14日にMacBook系製品の大々的なモデルチェンジを行った。MacBook初のLEDバックライト、MacBook ProのツインGPU構成、マルチタッチ対応でボタンレスのガラス製トラックパッドなど、見所は色々とあるが、個人的に最も気になったのは、「ユニボディ」と呼ばれる筐体のアルミ切削工法である。


10月14日に発表されたMacBook
http://www.apple.com/jp/macbook/


その速報を見て、筆者の頭に浮かんだのは、今回マイナーアップデートに留まったMacBook Airと、昨年度のグッドデザイン賞金賞を受賞したホンダ製のビジネスジェット機「ホンダジェット」のことだった。ユニボディは、今回の発表で最大の技術革新とされている。だが、実は、今年1月に発表されたMacBook Airも同じ工法で作られていた。今回の発表の席上でも、アップル社のデザインディレクター、ジョナサン・アイブが、その点に少し触れたのだが、そこに至る前に筆者にはひとつの確信があった。


HondaJet(HondaのWebサイトより)
http://www.honda.co.jp/tech/new-category/airplane/HondaJet/


というのは、MacBook Air発売直後の分解写真記事などを見たときに、上面パネルの裏側の縁やネジを受けるための突起は、プレスや鋳造ではなく、切削でしか作り出せないディテールだと見受けられたためだ。もちろん、MacBook Airのパネルを削り出すためのアルミブロックの厚みは他の2機種よりも薄くて済むため、技術的な難易度が低かった可能性もある。つまり、Airでパイロット的に採用した切削技術を、今回の2モデルで満を持してメインストリームに持ち込んだという見方もできよう。

いずれにしても、アップル社はMacBook Airのときに、もうひとつのアピールポイントにできたはずのアルミ切削ボディのことをあえて隠し、10カ月近く寝かせていたことになる。理由は、その点に触れなくても、MacBook Airは十分に革新的だったためと思われる。

一方で、今回、発表されたMacBook/同 Proは、基板を含めてゼロからの新設計で、性能も大幅に向上しているものの、Airに比べればオーソドックスなパッケージングといえる。だからこそ、今回の発表のインパクトを最大限に高めたかったスティーブ・ジョブズは、MacBook Airの発表時には加工方法に一切触れず、隠し通したのだろう。ユニボディという隠し球を持っていてもMacBook Airのときにはポーカーフェイスでやり過ごし、最も効果的に公開できるタイミングを辛抱強く待つ。このことは、アップル社が製品発表をいかに周到に計画しているかを示すものだ。

もうひとつ、なぜホンダジェットが頭に浮かんだかといえば、その主翼の加工法が関係してくる。航空機の翼は、リブとスパーと呼ばれる部材からなる骨組みに、ジュラルミンの板をリベット留めで固定し、最後に表面を研磨して仕上げるのが定番の加工法だ。しかし、ホンダジェットの翼は、アルミ合金の削り出しによって作られている。

筆者は、ホンダジェットの設計者でホンダエアクラフトカンパニーの社長でもある藤野道格氏をインタビューした際に直接お聞きしたのだが、当初、金属切削で翼を作り出すというアイデアは多くの航空技術者に笑われたそうだ。そんなコストのかかる作り方をするのは、飛行機のことを知らない技術者の戯言だというわけである。

確かに、従来の工法では、材料費が比較的安く済む。その代わり、組み立てと仕上げは熟練した人手に頼らざるを得ず、人件費が嵩む。しかも、その人件費は、将来、上がるとしても、下がることは期待できない。

一方で、切削の場合には、材料の金属ブロックにも加工にもそこそこコストがかかる。だが、加工賃は作業時間に反比例しており、単純計算では、切削機が2倍高速化すると加工コストは半分に、3倍高速化すれば1/3と、劇的に変化していく。藤野氏は、この点に注目し、近い将来にトータルコストでは従来工法を下回り、しかも安定した品質を保つことができる翼の切削加工こそがホンダジェットの優位性につながると考えて、採用に踏み切った。

果たして、アップル社がホンダジェットの例を参考にしたかどうかは当事者のみぞ知るというところだが、同機の初公開が2005年だったことや、アップル社の情報収集能力の高さを考えれば、間接的であったとしても何らかのヒントを得た可能性は十分にある。

ということで、アップル社がアルミユニボディの採用に踏み切ったのは、単なる話題づくりではなく、リサイクル性と近い将来のコストダウンを両立させる最良の選択肢だったためと考えるのが理にかなっている。そして、MacBook系モデル専用のLED Cinema Displayが発表されたことも考え合わせると、今後、アップル社はデスクトップモデルよりも、ポータブル製品の展開に軸足を移していこうとしており、価格も含めた商品性の一層の向上に本腰を入れ始めた証にほかならないのだ。




[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/)アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。




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