思わず手に取る小型グラフィックスほか3冊



周りを驚かせるようなカッコいいアイデアやデザインは、一朝一夕で生まれるものではありません。情報や技術を取り入れつつ、日々感性を磨きながら、実践(現場)で鍛えていく。インプットとアウトプットのサイクルが大切。多忙なデザイナーのインプットを助けるべく、MdN Interactive編集部がオススメ本を紹介していくコーナーです。


バリューの時代を逆手にとるプロモーションキット集 『思わず手に取る小型グラフィックス』 BUG BOOK/ビー・エヌ・エヌ新社
13,000円+税

なにごとも“バリュー”なものがモテハヤされる現在。不景気の風は、デザイン〜グラフィック業界とて無縁ではないことを身に染みて思う今日この頃ですが……なにもクリエイティブまで“バリュー”にする必要はなし。とは言え、コスト削減への目標は様々なフィールドで言明されていることでもあります。特にSP(セールスプロモーション)の現場では「あれを削れ」「これを小さくしろ」などと、制作されるツールに制限が設けられていることが多いのではないでしょうか? そんなアナタの悩みに「これぞ!」と目からウロコが落ちるごとく本書。鮮烈かつ「思わず手に取って」しまう小型プロモーションアイテムをテーマにした事例集です。いわゆるフライヤーの類い、宣材やDM、カタログなど“無料”で配布されるプロモーションツールなど、国内30のグラフィック・アーティストが出がけた機知あふれる作品を厳選して掲載。その見せ方も斬新で、参考書としてもアート書としても見て楽しめる一冊。ちょっと値段は張りますが、手元に置いておいて損はしない造りになっています。掲載作品の“手触り”も伝えるように、事案の復刻も数点、合間合間に挟まれているのが気が利いている!




楽しい、幸せ、夢──未来にメッセージするプロジェクト集 『MERRY PROJECT DOCUMENTARY BOOK』
水谷孝次/MERRY PROJECT
1,600円+税


気鋭のアートディレクター・水谷孝次が先導するプロジェクト=MERRY。「あなたにとってMERRYとはなんですか?」という質問を問いかけ、これまで世界23カ国3万人以上の“笑顔”とメッセージを集め、エキシビションの形で各地で展開されてきました。今回そのプロジェクトが向かったのは北京。昨年夏に開催された北京オリンピック開幕式のクライマックスにて、MERRY PROJECTが提供した1100枚を超える世界中の子供たちの笑顔の“傘”が通称・鳥の巣に花開いたのです。また、北京オリンピック開催と同時に「世界に笑顔の花を咲かせよう」というコンセプトのもと行われた六本木ヒルズでのイベント「Merry Garden!」をはじめ、岐阜市郡上市にある「MERRYの森」、そして六本木屋上農園「MERRY GARDEN」での“ひと夏の様子”など、それぞれのイベントがひとつに繋がっていく様子をビジュアルとテキストでドキュネトしたのが本書。表紙には「MERRYの森が大きく育つように」という願いを込めて、岐阜市郡上市産の間伐材を使ったなんともエコで温もりある装幀となっています。笑顔は世界共通のコミュニケーション──を合い言葉に、1999年よりその“輪”を広げてきたプロジェクトの真髄が伝わる一冊。




いつでも革新、コミック・アートの傑作集 『塗COMIX』
スージー甘金/音楽出版社
1,500円+税

国内において第一線を担う“コミック・アーティスト”として、およそ20年間活動してきたスージー甘金画伯。その彼が「20年間求め続けた漫画本がやっとできました!」とオビに寄せる「塗り込み漫画集」が登場。かつて80年代、サブカル雑誌だった頃の『宝島』を中心に、氏が華麗な極彩色、緻密な筆致、そしてくだらない(失礼! でも褒め言葉!)ギャグ満載で描いた作品の数々がオールカラー印刷で復刻されたとあれば、かつてのトンガリキッズ(現在は聖☆おじさん、あるいは不思議おばさん)は居ても立ってもいられないのではないでしょうか? レギュラーキャラクターの小松君、伝説の「ださいぜ!木村くん」や「Dr.ペンちゃん」「BOMB KAT」など、いま見ても新鮮で天才肌のタッチが蘇っています。最近は年一回、ギャラリーでの個展で「とても素晴らしすぎて世に出せません!」と嘆息するようなパロディ・センス(詳しく書くと某エンタメ産業から怒られる)を相変わらず発揮している氏ですが、かつての業績をこのような形で監修してくれた本秀康氏にも感謝感激。巻末には二人の対談が収録されていますが、ユルすぎてタメになる回顧録になっています。これから次代を担おうと志す“コミック・アーティスト”必見の一冊! 懐古なし、永遠不滅の革新さに驚愕するでしょう。




次世代の“先”を見据える、こだわりの写真集 『写真』
鈴木心/ブルーマーク
5,800円+税

まずびっくりするのはブックデザイン(というか表1)。シュリンクの上にプリントが糊付けしてあって、シュリンクを破ると真っ白に書名と罫線のみ。貼り付けてあったプリントをはがし、それを改めて表紙に張ることで本書の“第一段階”である儀式は終わる。1980年生まれの新進写真家・鈴木心の初となる作品集は、彼の真髄とも言える鋭気あふれる“構造”を身を持って(作品集を持って)プレゼンテーションしていることが素晴らしい。雑誌や広告の分野で引く手あまたの売れっ子ではあるが、本書ではアーティスティックな“こだわり”を発揮。一見まともなような景色が、見る者の心の中で「グシャリ」と曲がりくねるような感覚に襲われそう。それは別に異界のヘンなモノを写している……ということではなく、私たちが普段見慣れている風景も、鈴木心の“心”というフィルターを通すと別次元に位相させるという意味でのこと。現代日本の写真界がホンマタカシや久家靖秀、高橋恭司といった“ニュー・ニューカラー”の先達によって進化した歴史をふまえ、鈴木心の写真はその先を行く気配が収まらないだろう。


(文・増渕俊之)



(更新日:2009年1月30日)
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