「クリエイティブ・ディレクターとしてのスティーブ・ジョブズ──前編」
「クリエイティブ・ディレクターとしてのスティーブ・ジョブズ──前編」
2009年2月2日
TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)
ハイテク市場におけるラグジュアリーブランド、Apple
AppleのCEOであるスティーブ・ジョブズがホルモン異常による急激な体重減少に対して、2009年6月末まで治療に専念し、休暇をとると発表したのは1月14日のことである。
現在のAppleは、長期にわたって続くであろう経済不況下においても業績は堅調であり、Mac事業におけるデスクトップの新モデルの投入の遅れや、iPodの売上の鈍化など多少の不安要因はあるにしても、急に苦境に陥るようなことは考えづらい。
従って、ジョブズが病気治療による長期休養に入ったとしても、彼に万一のことがない限り(いや仮にあったとしても)Appleの経営体制に大きな揺らぎはない、と思われる。
しかしながら、ジョブズは並の経営者とは違って、たとえばラグジュアリーブランドにおけるクリエイティブ・ディレクターのような役割を、Appleの中で担ってきたことは周知の事実である。ラグジュアリーブランドにおいてはクリエイティブ・ディレクターが変わることで、ブランド全体の方向性が大きく変わり、時に大きな成功を収めたり、時に急激にブランドイメージを損なって失速することは多々ある。
製品ラインが多岐にわたる大企業の場合、製品開発は分業化し、個々の製品の方向性と会社全体の方向性をうまく統合していくには、単に製品開発のディレクションだけではなく、ブランド全体の販促や広報といった事業全体のマネージメントが必要となる。これらの動きをふまえて、グローバル市場に対するブランドイメージや世界観の発現をコントロールしていく責任者として、クリエイティブ・ディレクターというポジショニングは重要だ。
Appleはハイテク市場におけるラグジュアリーブランドであろうとしてきた、といえる。
PC市場を最近席巻しているネットブックは徹底したロースペック&低価格で成功したが、Appleは一貫してハイエンド製品にフォーカスし、高価格路線を維持してきた。
ラグジュアリーブランドであるためには、高いクオリティと所有欲を満たすため、ある程度高いプライシングが必要であり、それを維持するためにはクールでありつづけなくてはならない。Appleの中で、スティーブ・ジョブズが果たしてきた役割は、まさにこの点にある。ジョブズは徹頭徹尾、Appleブランドのクールなイメージを保つことに心を配り、それを損なうような戦略を拒否し続けてきた。
しかし、ジョブズが不在となるAppleにその姿勢を保ち続けることができるだろうか? 低迷する市場にあって、株主やアナリストたちの“低価格戦略の採択”を迫るプレッシャーにノーと言い続けることができるだろうか?
ジョブズが不在となるAppleにラグジュアリーブランド姿勢を保ち続けることができるか
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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。