「クリエイティブ・ディレクターとしてのスティーブ・ジョブズ──中編」
「クリエイティブ・ディレクターとしてのスティーブ・ジョブズ──中編」
2009年2月16日
TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)
ジョブズ独特の美意識を追求し続けた
結果であるところの現在のApple
スティーブ・ジョブズは1996年12月21日(米国時間20日)に、当時のアップルのCEOであるギル・アメリオの招きを受け、アップルへの劇的な復帰を果たし、今日に至っている。
復帰後に彼がまず手がけたことは、製品ラインの統廃合だ。製品をデスクトップとノートブック、そしてそれぞれをエントリーモデルとハイエンドモデルとに分けて、計4種類の製品ラインに絞り込んだ。エントリーモデルのデスクトップとしてiMac、ノートブックとしてiBookを発表し、ハイエンドモデルとしてはPowerMacとPowerBookを置いた。同時に、ジョブズ復帰以前にはMac OSをクローンメーカーにOEM供給していたものを有無を言わさず打ち切り、Mac OSを搭載するパソコンはアップルでしか販売しないという重大な決定をした。
このときに彼が発表した戦略コンセプトが『デジタルハブ』だ。デジタルハブとは、携帯電話やPDA、デジタルカメラやビデオカメラ、あるいは音楽プレイヤーなどのデジタルグッズのデータ交換や機能の互換を保つため、ハブとしてPCを位置づけるというコンセプトのこと。アップルの場合はもちろんMacがそのハブとなるわけだが、この考え方自体はアップルの独創ではない。ソニーをはじめとする日本の家電メーカーも、マイクロソフトも、同様のコンセプトを標榜してきたが、実際にその戦略を全社一体で押し進めることができたのがアップルだけだった。
アップルがデジタルハブ構想を実行できた背景には、アップルがOSとハードウエア、そしてそのうえで動くソフトウエアに至るまで、一貫して自社で統合して作っているメーカーだという事実がある。OSをマイクロソフトに依存せざるを得ない他のパソコンメーカーではこうはいかない。
ここで思うのは、ジョブズが復帰してすぐにOSのOEM供給をとりやめたのが、いまになって非常に大きな意味を持っているということだ。当時、アップルの株価は低迷しており、パソコンのOSメーカーとしてマイクロソフトが大成功している以上、アップルもまた開放路線をとり、OS供給事業でマイクロソフトに対抗するというアイデアは、ほとんどの投資家やメディアが支持していた。
ジョブズがOSのOEM供給を停止した理由は明確ではないが、おそらく、Mac OSのように美しいプログラムを載せるハードウエアは、それ自体が美しくなければならないという、一種の美意識によるところが大きかったのではないか?
彼が(誰もみないであろう)自宅の配電盤のデザインに凝ったり、デスクトップの筐体の部品や配線の配置にまでこだわってきたことは非常に有名だが、それも本来は彼独特の美意識によるものだろう。しかし、その美意識を貫き、それにそった製品が作られたことによって、製品自体の品質が向上し、メンテナンス性が高まったことも事実である。
彼がクリエイティブ・ディレクターであると言えるひとつの証左は、余人に代え難い独自の美意識と、それを曲げず妥協しない意志の強さ、周囲にそれを通させるコミュニケーション能力などが備わっている点であり、個人的なセンスに即した製品開発やマーケティングを行った結果、会社全体の方向性が定まり、さらに成功に導かれるという好循環を生んでいることである。
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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。