「MicrosoftとYahoo!の提携──後編」



「MicrosoftとYahoo!の提携──後編」
2009年8月10日

TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)


Googleが魏なら、MicrosoftとYahoo!は呉と蜀

ようやく実現したMicrosoftとYahoo!の提携であるが、戦略的には正しいものの、両者の行く手には依然として暗雲が立ちこめていることは否めない。

インターネット業界におけるビジネスモデルの成功事例はそれほど多くはなく、AmazonやeBayに代表されるEコマースと、広告ビジネス、salesforceなどのSaaS、そしてその延長線である(未来のビジネスとしての)クラウドコンピューティングビジネスがあるくらいである。

Eコマースでは、Appleが音楽と映像コンテンツ、そしてソフトウェア販売を軌道に乗せ、しかもモバイルへと戦場を移していることで活気づいているが、「Kindle」を成功させたAmazonや、「Android」を引っさげたGoogleとの群雄割拠の様相が見逃せなくなっている。

SaaSではsalesforceが群を抜いているが、「Google Apps」の成長も見逃せない。クラウドコンピューティングではAmazonとGoogleが大きな存在感を示しており、他の追随を許さない。

MicrosoftとYahoo!の提携はある意味、広告ビジネスという領域におけるGoogleの覇権を止めようとするMicrosoftとYahoo!の思惑が合致したことによる、三国志の三国鼎立策的な発想であり、非常に防衛的な戦略にすぎない。逆に言えば、それしかGoogleを止める手だてがないのである。


MicrosoftとYahoo!の提携は対Googleの防衛策にすぎない?(図はイメージです)


問題は対Googleの敗戦が確定する前にどれだけの時間を稼げるか

MicrosoftとYahoo!の提携にとっての“レッドクリフ”、すなわち赤壁の戦いは早ければ2010年の後半には訪れるだろう。三国志では呉と蜀の連合軍が勝利を収めたが、それでも魏の勢力はその後も呉と蜀を圧倒し続けたわけで、一時的にMicrosoft & Yahoo!連合軍がシェアを奪えたとしても、Googleの優勢は続くだろう。逆に言えばGoogleにしても、競合他社がまったくなければ独占禁止法を掲げる司法省という巨大な敵と向き合わねばならないので、実は今回の提携を一番喜んでいるのはいまとなってはGoogleであるかもしれない。

日本人は比較的ナイーブなので、Googleを中心としたネット業界の勢力争いについて科学的な評論をつけることが多いのだが、実はこれは完全な戦争であって、GoogleがMicrosoftをたたくことが自社の利益に直結していることを十二分に理解しており、当然Microsoftもそれを肌で感じている。Windows事業の売上は、既にGoogleの広告売上を下回っており、年々事業の重要性が薄まっている。

Yahoo!はYahoo!で、Microsoftが優先的にまわしてくれる事業収入がキャッシュフローとして使える間に、新たな時代のメディア事業を軌道に乗せない限り未来はない。

Microsoftの「Bing」は非常に優れた検索エンジンであるが、いまのところまだGoogleよりはっきりと上であるという証明はできない。後ろにはTwitterという旧来型の広告事業を潔くあきらめ、新たな事業モデルを模索する新世代の企業が台頭しつつあり、2010年にはGoogle型のキーワード検索とTwitter型のリアルタイム検索の二つにトラフィックを二分されてしまう恐れがあり、あまり残された時間は多くない。

両者の提携は、戦略的には正しい、これしかない方法であるが、とにかく防衛的なものであり、時間稼ぎでしかないのである。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。



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