「Googleブックス──不気味さを漂わせる大きな波」



「Googleブックス──不気味さを漂わせる大きな波」
2009年9月9日

TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)


全世界の書籍をスキャン

「Googleブックス」に対する論議が活発化されている。

Googleブックスとは、文字通り本のタイトルや著書、あるいは単語やセンテンスなどから書籍を検索できる、総合的な書籍検索サービスだ。単純にいえ ば、Googleが(注:米国の図書館が所蔵する)世界中の書籍をスキャンすることによってデジタル化し、Web上にアップロードすることで Googleが検索できるような状態にすることであり、Googleが持つ「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使える」ようにするとい うミッションに沿うものである。



「Googleブックス」
http://books.google.co.jp/books

Googleは書籍だけでなく、美術品や映像などのコンテンツに至るまで、すべての情報を同じくデジタル化し、検索可能な状態にしていくことに取り組んでおり、あくまでGoogleブックスもその一環にすぎない。

世界中の膨大な量の書籍、特に絶版書や稀少書をデジタル化することができれば、多くのユーザーにとって非常に有益なことは間違いがない。しかし、実際に公開されたGoogleブックスでは、稀少書だけではなく、現時点で販売されている書籍であってもスキャンされていることがわかり、しかも書籍の全文が読めてしまうことが明らかになったため、これは著作権違反ではないかと考える出版社や著作者を巻き込んだ大きな論争を呼ぶことになったのである。


著作権無視の試みなのか?

たとえば筆者の代表作のひとつである『Web2.0 BOOK』(インプレスジャパン)の書名で検索すると下記の図のような結果が出る。


筆者共著の『Web2.0 Book』の検索結果ページ<リンク

著書の本文のほとんどを読むことが可能であるが、共著者である後藤康成氏の名前は表示されるものの、筆者の情報は出ない(苦笑)。この理由は、おそらく著者情報を「あとがき」のスキャン情報からデジタル的に引き抜いているからで、ISDNのような、もともとのデータベースとの連動がなされてないからだろうと思われる。それはともあれ、完全に正しい情報を検索できない不完全さと、書籍のほとんど全文が読めてしまうという検索力の強力さが共存していることが、このGoogleブックスの不気味な点である。邪悪なことはしない、と社是を掲げるGoogleであるが、多くの著作権保護派からの反発を食っている理由でもある。

ただ、筆者個人として、Googleブックスの取り組みについて反対しているかどうかといえば、実はそうではない。

その理由は、本屋でも図書館でも行けば、たいていの書籍の中身を立ち読みすることは可能だからだ。デジタル化されているからいけないという理屈は、これだけネットが普及し始めている現在では成立しがたいものだと筆者は考えている。Googleブックスで全文読めるからといって、その本を買わない、ということにはならないし、オンラインで直接購入できるようになれば、著者にとってもよい結果につながると思われる。

Googleの行いがすべて正しい、というつもりはないが、インターネット時代に即した新しい常識を受け入れることもまた必要なのではないか?


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。



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